“魔女”と呼ばれる一人の女性が創る香水の香りを軸に、夢に挫折し将来への希望を見失った若い女性が未来を切り開いていく姿を描いた映画『魔女の香水』。
先行上映会で行われた舞台挨拶では、宮武由衣監督、製作統括・菅原智美さん、魔女との出会いによって華麗なる転身を果たす20代の女性・若林恵麻を演じた桜井日奈子さんが登壇しました。
作品に込められた想いや香りを用いた撮影現場の裏話など、さまざまな撮影エピソードが繰り広げられた舞台挨拶の模様をレポートします!
■あらすじ■
白髪の美しく高貴な上品さを漂わせる女性・白石弥生(黒木瞳)が香水店で2つの香水を見せながら常連客を相手に語っている「世の中には似て非なるものがたくさんある」。
一方、華やかなセレブ達が集まっているバンケットホールで派遣社員として奮闘する若林恵麻(桜井日奈子)。高卒の恵麻は、いつか正社員になって、一流の仕事を与えられることを目標に頑張っていたが、後輩の見習い女性への上司のセクハラ行為を抗議したことで職を失ってしまう。自暴自棄になった恵麻は、夜の街のスカウトマンに連れられ「魔女さん」と呼ばれる弥生の店に足を訪れ、その店を手伝うことになった。ある日、金木犀の香り漂う男性・横山蓮(平岡祐太)と巡りあう。弥生に授けられた言葉と香りによって自分の人生を切り開くのは自分自身だと気づかされ、天職を探し求めるように香料会社で働き始める恵麻すっかり香りの世界に魅了されていく恵麻は、営業先で蓮と再会することに―。魔女の香水『Parfum de prières(パッファンドプリエール)』の力に後押しされるように懸命に未来を切り開いていく恵麻の運命は、果たしてどんな風に変わっていくのだろうか?!
目次
名古屋・吹上ホールに
桜井日奈子さんらが登壇!
魔女が香りと言葉で背中を押し、登場人物達の未来を切り開いていく爽快なシンデレラストーリーを描いた今作。
製作統括を務めた菅原さん自身も女性経営者として多方面で活躍しており、劇中には自身や周りの女性経営者の体験談や心情が多く盛り込まれているそう。舞台挨拶のトークは、そんなリアルな女性心を表現するべく、なんと脚本を20回以上書き直したという宮武監督と菅原さんの熱量溢れる製作過程を振り返るところからスタートしました。
脚本は20回以上書き直し!?
香水が“香る瞬間”の表現にも注目。
菅原:「台詞の一つひとつにこだわっていて、脚本は監督と20回以上も書き直して仕上げました。台詞への思い入れも強かったので、完成した今作を観た時、“役者さんによって魂が入った言葉がこんなにも心に響くのだな”と鳥肌が立ちました」
– 今作では女性のサクセスストーリーが描かれています。宮武監督にも情熱を感じた部分はありましたか?
菅原:「ストーリー構成を考える前に、宮武監督と2~3回ほどお会いして、私の経験談や想い、劇中に登場する「魔女」のモデルになった女性との出会いなど色々お話させていただきました。監督から“ざっくりとしたストーリーを作ってみます!”とお返事をいただいたあと、ものすごいスピードで、かなり高いクオリティの構成案が出てきて驚きました(笑)
香りと記憶が連動する物語なので、実際に映画館で香りが舞って、映画を観たときの想いを自宅でも体験できたらいいなと思って、今作で登場した香水を実際に製作し販売する予定です。シーンごとに館内で香りを漂わせたかったのですが、香りを用いた上映は難しかったので、“香り上映”については、今回は断念しました(笑)」
桜井:「私は、3番か4番の香りが好きです!4番の香りには、恵麻のお母さんが使用していた香水に使われていたヘリオトロープが使用されているんです。劇中で恵麻がヘリオトロープの香りを嗅いだときに母への想いが溢れるシーンがあるのですが、私も撮影前にヘリオトロープを取り寄せて、“これが恵麻が大切にしていた香りなんだな”と毎晩香りを嗅いでいました。なので今、4番の香りを嗅ぐと、撮影の時の思い出が甦ってきます」
– 撮影現場では、実際に香りが舞っていたと聞きました。
宮武:「俳優の皆さんにお芝居をしていただくとき、本物の香りを嗅いでいただきたいという気持ちがありました。最初は、どういう演出で香りを映像に現そうかと考えていましたが、最終的に俳優さんのお芝居で伝えたいという想いに至りました。実際の香りはスケジュールの都合で準備が間に合わなかったのですが、近い香りを用意して、俳優さんに嗅いでいただいて、気持ちを引き出す演出をすることを大切にしました。実は、香りごとに音楽も付けているんです。映像上の演出では、“香りを吸い込む息”の表現にこだわっていて、吸い込む息の音を途中で消して、香りを感じている時間は無音にしたりしています」
– 恵麻ちゃんが香りを嗅ぐシーンはとてもリアルでした。
宮武:「ありがとうございます!とにかく俳優さんのお芝居を引き立たせたかったんです。実際に俳優さんに香りを嗅いでいただく演出には賛否両論ありましたが、良かったと思っています」
菅原:「チラッとしか映らない香水の処方箋も、実際に調香師の方に作っていただいたものを使用しているんですよ」
桜井:「劇中で恵麻が使用しているノートの文字も実際に私が書いていたりしています。役作りのヒントになることは何でもやりたかったんです」
役作りのため香水を猛勉強!
黒木さんとの再共演に感動
– 恵麻を演じた感想を教えてください。
桜井:「少し若い頃から30代までの恵麻を演じているのですが、監督から“少し若い頃の恵麻を作り込むことが必要かも”とアドバイスをいただいたとき、実年齢より上の年代の方に自分の演技がハマっていることに驚きを感じました。
私も恵麻と同じように今作に出会うまで香水の知識が少なかったので、役作りの上で自分も香水の勉強をしました。今作の調香シーンを監修いただいている、調香師の大沢さとみさんのところに行って、香りを実際に試したりしました。最初、さとみさんには「桜井です」と名乗っていなくて……(笑)。色々質問をさせていただいていたので、自己紹介をするまでは、“やたら詳しく聞いてくる子だな……”と思われていたと思います(笑)」
– 恵麻のように秘めたる力を発揮していく女性の姿を、菅原さんは実際に多く見てきたのではないでしょうか?
菅原:「そうですね。今作には私が代表理事を務めさせていただいている、(社)エメラルド倶楽部の会員さんの体験談が多く盛り込まれています。実は劇中のパーティーシーンには、実際に(社)エメラルド倶楽部の会員さんが出演しているんです」
桜井:「すごい華やかな方々ばかりでびっくりしちゃいましたよ!(笑)だけど、とても楽しかったです。パーティーシーンで恵麻が物怖じする表情はリアルですね(笑)」
– 平岡祐太さんをはじめ、さまざまな男性キャスト陣にも注目!主題歌を手掛ける歌手の川崎鷹也さんも出演しています。
菅原:「今作の主題歌をご依頼したことをキッカケに、出演いただくことが決まったんです。川崎さん、何ヶ月も演技の練習をして、撮影に臨まれていました」
桜井:「川崎さんがいらっしゃると、現場の雰囲気が明るくなるんです!カットがかかって、監督からOKをいただいたら、「よし!!!」と誰よりも喜んでいらっしゃって……(笑)現場にギターを持ち込んで、そのときの感情をもとに、主題歌を作っていた姿が印象的でした」
宮武:「川崎さんの歌は、川崎さん視点の女性に対する想いがとても魅力的なんです。「こんな風に想ってもらえたらいいな」と思う魅力がある。川崎さんが演じた河原優也という男性は、「いつも恵麻の傍にいる、恵麻を見守っている男性」という役どころなんですが、実は川崎さんで“あて書き”した役なんです。主題歌「オレンジ」では、河原優也の見ている恵麻や恵麻に対する想いを歌詞にしていただいています」
– 魔女さん”を演じた黒木瞳さんとの共演はいかがでしたか?
桜井:「黒木さんとは、私が連ドラデビューさせていただいた作品でご一緒していて、その作品では絡みのあるシーンはなかったのですが、あの当時、現場でオドオドしていた私からすると、こうして黒木さんとがっつりお芝居をさせていただけることが感慨深かったです。監督が“魔女さん”のモデルになった方にお会いした時、ニコッと微笑まれたときにドキッとしたと仰っていたのですが、私も黒木さんに微笑まれたとき、まるで時が止まったように“ドキッ”としました」
菅原:「パワーが凄かったです。演技を見たとき、初めから鳥肌が立ちました。監督もされている方なので、監督視点のアドバイスもされて凄い方だなと思いました」
宮武:「魔女さんが恵麻に「ナンバーナイン」を渡すシーンは、黒木さんが一緒に台詞から考えてくださったりしています。実はそのシーンには、黒木さんが考えてくださった素晴らしい台詞が入っているんです」
桜井:「黒木さんだからこそ重みを感じましたし、ストレートに心に刺さりました」
菅原:「今作は観る人の経験によって、心に響く部分がさまざまだと思います。“女性のために作った映画”ではありますが、男性も楽しめる作品です。一人でも多くの人に観ていただいて、感動をお届けできたら嬉しいです」
作品のはじまりから撮影中のエピソードまで盛りだくさんの内容が繰り広げられたトークショー。観客全員に今作で登場した香水のサンプルが配布されたり、プレゼント抽選会が行われるなどイベント盛りだくさんの舞台挨拶でした。
人にとって、“香り”は重要な働きをもっています。私自身もふとした瞬間の香りに、懐かしい記憶や当時の感情がよみがえる体験が幾度とあります。香水ように作られた香り以外にも、畳の香りに祖母の家で遊んだ幼少期を思い出しますし、湿ったアスファルトの香りに部活動に明け暮れていた中学校時代の感情がよみがえります。
大抵がいつも忘れてしまっている記憶ですが、思い出した瞬間は、“あの頃”にタイムスリップした気分になって、心が和みます。
今作を観た帰り道、おそらく“香り“の存在に敏感になっているはず。何気ない香りと共に、懐かしい記憶に出会えるかもしれません。
映画『魔女の香水』は、TOHOシネマズ木曽川ほかにて6月16日(金)より公開です!