標高1,200m、真夏でも爽やかな風が吹き抜ける奥飛騨温泉郷・平湯。四季折々の自然美に囲まれたこの地にあるのが、星野リゾートが手がける温泉旅館「界 奥飛騨」。
温泉の歴史や文化を学び、体験できる「温泉ひろば」や、飛騨の匠の技に触れるご当地楽など、奥飛騨ならではの滞在が満喫できる温泉旅館です。
今回は、名古屋からバスで向かう1泊2日の旅で、「界 奥飛騨」を実際に体験。木の温もりあふれるご当地部屋「飛騨MOKUの間」や、飛騨牛を堪能できる会席料理、匠の技に触れるご当地楽まで、その魅力を余すところなくレポートします。
※情報は取材時のものです。
ご利用の際には、各施設・各店舗の最新情報をご確認ください。
目次
飛騨の自然を映すロビー
エントランスからフロントへ向かう床には、ナラの木で川の流れを表現した一本線がスッと伸びています。正面の壁のタイルは岩肌を流れる滝を、折り重なるような天井の木のパネルは飛騨の豊かな森を、そして黒いソファは川辺の岩をイメージしているのだそう。
フロントの横には売店もあり、飛騨の木工作家が手がけた雑貨や、オリジナルの温泉グッズ、地元のお菓子やドリンクなど、“ここでしか買えない”ご当地アイテムがそろっています。
回遊する楽しみを。湯治文化を継承する宿
「界 奥飛騨」は、中庭を中心に東と西の客室棟、湯小屋棟、そして離れの4つの棟に囲まれています。かつてこの地では、人々が宿から歩いて共同浴場へ向かい、湯浴みを楽しむ風景が日常にありました。
そうした“外へ出て湯をめぐる”体験を現代の宿でも味わってほしいという思いから、中庭を中心に据えた回遊式の設計に。滞在中に何度も外に出て歩きたくなる雰囲気があります。
開放感あふれる中庭には、「湯の川」がゆるやかに流れています。川沿いの散策路には、広葉樹やこの地に自生する植物が丁寧に植えられ、四季折々の表情を楽しめる癒しの空間に。
また、湯の川に渡された飛び石や、中庭、木塀の基礎に使われている石は、すべてこの地にもともとあったものを再利用。自然と調和しながら、土地の記憶を受け継ぐような、味わい深い風景が広がっています。
チェックイン後は、中庭の「足湯」へ行ってみました。潤沢な温泉に足を浸せば、長旅の疲れがじんわりとほぐれていきます。
足湯から眺められるのは、活火山としても知られるアカンダナ山の雄大な姿が目に飛び込んできます。
【中庭足湯】
期間 :通年
開催時間:13:00 PM〜12:00 AM/5:00 AM~11:00 AM
対象 :年齢制限なし
木の温もりと匠の技に寛ぐ、
ご当地部屋「飛騨MOKUの間」
地域の文化を映し出す「ご当地部屋」は、「界」ブランドの魅力のひとつ。ここ界 奥飛騨では、全49室すべてが、飛騨の魅力を随所に感じるご当地部屋「飛騨MOKUの間」です。
落ち着いたトーンで統一された外観とは対照的に、客室内に一歩足を踏み入れると、高山祭の豪華絢爛さを思わせる「紅」の彩りが目に飛び込んできます。
壁を飾るウォールアートや客室サインには、透き通るような飴色が美しい伝統の漆塗り「飛騨春慶」を。ソファには鮮やかな「飛騨染」のクッションが彩りを添え、この土地が育んできた煌びやかな工芸品を、滞在の中で身近に感じられます。
さらに、曲木の技術を用いた飛驒産業のチェアや、800年の歴史を持つ「山中和紙」の行灯が放つ柔らかな光も相まって、上質で心安らぐ空間を創りだしています。
寝台を優しく包み込むヘッドボードには、ブナ、タモ、サクラ、ナラといった美しいグラデーションを描く「曲木」の意匠が凝らされています。
さらに、客室の半数以上にはプライベートな露天風呂と、湯上がり後に濡れたまま寛げるソファが備わっています。
窓を開けてソファーに腰掛ければ、手軽な足湯として楽しめるのも嬉しいポイント。誰にも気兼ねなく、好きな時に好きなだけ名湯を堪能できます。
温泉の奥深さに触れる
「うるはし現代湯治 温泉いろは」
大浴場へ向かう前に、ぜひ参加したいのがアクティビティ「温泉いろは」。「界の湯守り」が、奥飛騨温泉郷にある5つの温泉地の話、泉質の特徴や体調に合わせた効果的な入浴法を指南してくれます。
アクティビティの後半では、歩いてすぐの場所にある「つるや商店」へ。ここでは「はんたい玉子」をいただけます。なぜ”はんたい”なのかは食べてからのお楽しみ!源泉に浸かった玉子は、ほんのり塩味で塩をつけなくても絶品でした。
さらに、「温泉いろは」の参加者には、旅の記録帳「お湯印帳」が無料で配られます。温泉地名とご当地のモチーフが描かれたスタンプ「お湯印」を湯守りに押してもらい、温泉で感じた効果や旅の思い出を書き込むことができますよ。
雪の回廊をモチーフにした露天風呂が魅力!
湯小屋棟
「現代湯治」の考え方を学び、湯浴みへの知識を深めてから、湯小屋棟へ。
内風呂には、源泉かけ流しの「あつ湯」と、心身をゆったりと解きほぐす「ぬる湯」の2つの浴槽が用意されています。まずはここで身体をじっくりと温めます。
そして、お待ちかねの露天風呂へ。
露天風呂は、豪雪地帯である奥飛騨の冬に見られる「雪の回廊」がモチーフに。上にぽっかりと穴が開いた形状で、視界には白い雪のような壁と空しか見えません。
外界から隔絶された空間で、聞こえるのはこんこんと湧き出る湯の音だけ。まるで瞑想のような、静かで深い入浴体験ができます。空気が澄んだ夜には、満天の星を見上げることも。
飛騨産の家具が並ぶ湯上がり処。
お風呂上がりに立ち寄りたいのが「湯上がり処」。ここでは、ビネガードリンクやほうじ茶などの湯上がりドリンクに加えて、アイスキャンディーも無料で楽しめます。ぽかぽかに温まった身体を、クールダウンしながら癒してくれます。
飛騨の恵みを五感で味わう会席料理
夕食は、プライベート感が保たれた半個室スタイルの食事処で、旬の食材をふんだんに使った会席料理をいただきます。
席に着くと、ユニークな表情の「山彦人形」がお出迎え。北アルプスの山並みをかたどった開運・魔除けのお守りだそうで、この土地ならではの温かいおもてなしに心が和みます。
まず運ばれてきたのは、先付「すったてと牛しぐれ」。「すったて」とは、大豆をすり潰した白川郷の郷土料理。素朴で優しい味わいに、上品な牛しぐれが絶妙にマッチしています。
界ならではの華やかな「宝楽盛り」。囲炉裏の長板をイメージした八寸の器に、旬のお造りや、爽やかな酢の物などが美しく並びます。
飛騨の豊かな恵みを少しずつ、いただけます。
せっかくなら飛騨のお酒も楽しみたいと!ということで、おすすめの地酒3種をオーダー。 飛騨地方の豊かな自然が育んだ銘酒が、料理の味わいを一層引き立ててくれます。
そして会席のハイライトは、台の物「飛騨牛の味噌すき焼き」。地元で愛される味噌を用いた甘辛い割り下が、きめ細やかでとろけるような飛騨牛の旨みを最大限に引き立てます。香ばしい味噌の香りが食欲をそそり、思わずお箸がすすみます。
最後に登場した甘味は、マシュマロをまるでみたらし団子のように香ばしいタレで味わう、遊び心たっぷりの一品。さらにその下には、そっと仕込まれた“お楽しみ”が……。
先付からデザートまで、一品一品に飛騨の食文化と、もてなしの心が表現されており、この土地の恵みを心ゆくまで味わえました。
飛騨の曲木体験ができる!
ご当地楽「飛騨の匠体験」
「界 奥飛騨」での特別な思い出のひとつが、「ご当地楽」と呼ばれる地域文化体験プログラム。その中でも、ここならではのプログラムが「飛騨の匠体験」です。
まず、スタッフさんによる紙芝居からスタート。岐阜県の約8割が森林という事実に驚きながら、1300年以上続く飛騨の木工技術がどのように生まれ、受け継がれてきたかをわかりやすく教えてくれます。
そしていよいよ、実際に曲木のハンドルづくりへ。
お湯で温めた、天然木をゆっくりと力を加えると、固く思えた木が少しずつしなやかに曲がり、美しいカーブを描きはじめます。
「折れちゃいそう……」と少し心配しながら、そっと力を込めてみると少しずつ木が曲がりはじめました。
じゃ〜ん。なんとか形になりました。
自分の手で曲げた木のハンドルに、界オリジナルの風呂敷を組み合わせれば、世界にひとつだけのバッグが完成です。
ちなみに、この風呂敷は滞在する施設ごとにデザインが異なるそうで、コレクターのように集めるファンも多いのだとか。「界 奥飛騨」の風呂敷は、飛騨の匠や山並みを思わせる上品なデザインで、旅の思い出にもぴったり。
【ご当地楽「飛騨の匠体験」】
期間 :通年
開催時間:毎日午後より開催
所要時間:30分
対象 :年齢制限なし
定員 :各回12名
集合場所:トラベルライブラリー
持ち物 :客室にご用意している風呂敷
詳しくはこちら
飛騨の匠の歴史を感じられる
「トラベルライブラリー」
「飛騨の匠体験」が行われる「トラベルライブラリー」も要チェック。
中に入ると、飛騨の森を思わせるナチュラルな空間が広がり、ブナや桜、ナラ、タモなど地元の木々がリズムよく並ぶデザイン壁が印象的。壁には、昔ながらのノミやカンナといった道具が展示されており、飛騨の匠の歴史を感じられます。
書棚には、飛騨の自然や文化、伝統工芸に関する本がずらり。気になる一冊を手に取って、淹れたてのコーヒーを片手にくつろぐのもおすすめです。
ちなみに、ライブラリーや宿内に置かれている椅子はすべて、飛騨の老舗家具メーカー「飛驒産業」による飛騨産材を使用したもの。館内の椅子を座比べながらお好きな一脚をみつけてみてくださいね。
爽やかな朝の「奥飛騨やまびこ体操」&ご当地朝食
翌朝は、中庭の清々しい空気の中で「現代湯治体操『奥飛騨やまびこ体操』」からスタート。約20分間のやまびこ体操は心地よく身体を目覚めさせるのにぴったり。
毎朝7時10分から開催されているので、ぜひチャレンジしてみてくださいね。
体操の後は、お待ちかねの朝食。地元食材を中心に計13品が並ぶ、贅沢な和食膳「ご当地朝食」は、朝からごはんがすすみます。
「干し野菜と豚肉の味噌鍋」は、雪深い飛騨地方で古くから食べられてきた保存食「干し野菜」を、現代風にアレンジした一品です。干すことで旨みが凝縮された野菜と、豚肉の甘みが溶け出した味噌仕立ての出汁は、滋味深く、身体の芯から温めてくれます。
朝から土地のエネルギーをたっぷりとチャージできました。
温泉、文化、食、そして雄大な自然。「界 奥飛騨」は、そのすべてを通して、心身を深く癒してくれる場所でした。日常の喧騒から離れ、自分自身と向き合う贅沢な時間を過ごしに、ぜひ訪れてみてください。