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こんにちは。版画家の伊藤里佳です。
今回は、名古屋芸術大学内のギャラリー「Art & Design Center」で開催されている Lighter but Heavier による展覧会、ストーンレタープロジェクト #6 「ロスト イン トランスレーション」、石版画家・衣川泰典によるワークショップ「workshop 1 かけらのリトグラフ」、 Lighter but Heavierのメンバー や名古屋芸術大学の学生による「workshop 2 100年前の石版を刷ろう」に参加してきたのでその様子をレポートしたいと思います。
「Stone Letter Project 」について
名古屋芸術大学は、名鉄犬山線「徳重・名古屋芸大駅」下車、西へ徒歩13分のところにあります。門から入りまっすぐに進み、事務棟を越えたところに名古屋芸術大学内のギャラリー「Art & Design Center」はあります。
今回の展覧会は、名古屋芸術大学とArt&Design Centerの企画展です。
Lighter but Heavierは(以下LbH) 2016年に片山浩、衣川泰典、坂井淳二、田中栄子によって、リトグラフに関する検証・調査・研究・展覧会企画などを行うアーティストグループとして結成されました。
2016年11月にgallery blanka(名古屋)にて開催された”LITHOGRAPH:Lighter but Heavier”展をきっかけに、これまでも様々な場所で展示やワークショップを行っています。
今回のStone Letter Project(ストーンレタープロジェクト)の展覧会は6回目となります。リトグラフの版の面白さを伝えることが難しいこと(Lost in Tranlation)を自覚しながら、石版に初めて触れる方々の驚きや感想を共有し、なお伝えることを懸命に行う展覧会を目指そうと、「Lost in Tranlation/ロストイントランスレーション」というタイトルがつけられました。(後半にLbHから展覧会へのコメントあり。)
展示はこれまでの活動や、石版が展示されています。
workshop 1 かけらのリトグラフ
それでは、LbHのメンバーのひとりである衣川泰典さんによる「workshop 1 かけらのリトグラフ」の様子を紹介したいと思います。
衣川泰典さんは自採石灰岩を使用する、石版画家さんです。
まず、現代にある”オフセット印刷”は、石版の技術が進化したものだと説明がありました。
今回は、手のひらサイズの石灰岩で化学反応を利用して版面を作り印刷します。
そのため1時間ほどの休憩時間が必要で、お昼をはさんで1日かけてのワークショップとなっています。
こちらは通常石版画で使用される版。厚みは7〜8cmほどあり、大きさは25.5cmx30.5cmほどのもので重さは10kgくらいあります。かなりの厚みと重量のある石でできており、とても重くて不便なものです。
ずっしりと重い石版。子供の力では持てません。
リトグラフの ”リト”とはギリシャ語で「石」という意味があり”グラフ”は図、絵、版画といった意味があります。今は、リトグラフというと、アルミ版のものもありますが、もとは石版画ということがわかります。
石版の多くはドイツのゾルンホーフェン産のものを使用しており、リトグラフを発明したアロイス・ゼネフェルダーは近くのミュンヘンに住んでいました。
今回のワークショップも、ゾルンホーフェン産の石を研磨したものを使用します。
まず、好きな石を選びます。
石の表面に油分を利用して絵を描くので表面は触らないようにします。指や鼻の油でも反応してしまいます。
リトクレヨンで絵を描きます。
オイルベースでできていて、油分のあるもので描くというのがポイントになります。
「しっかりした線、あわいトーンなど紙とは違う感覚を楽しんでください。」と、衣川さんがクレヨン一つでもいろんな扱い方ができることをデモストレーションで見せてくださいました。強い線、グレートーンや、手にクレヨンをつけて描いたり、てんてんで描いたり。
描いたあとは、石版の表面に反応をおこさせて石の質を変化させます。
まず、タルクという粉をぬり、脂肪分ががつかなくなるようにカバーします。
その後、アラビアゴムという液体をぬります。
このアラビアゴム液は硝酸でpHが調整されており、酸を含む液体になっています。
pH2.0と、pH1.0の酸度の2種類のアラビアゴムが用意されており、強い酸のアラビアゴムは石に乗せると泡が出るほど。これは二酸化炭素を出しているのだそう。
酸を与えることで、描いたところと描かなかったところの石の性質が変化します。
描いた部分は脂肪分とカルシウムが結合し、脂肪酸カルシウムとなり、親油性(油分がくっつき、水をはじく)に変化し、何も描かれない部分は酸化カルシウムとなり、親水性(水分がくっつき油をはじく)に変化します。
科学の実験のようですね!
タルクを塗った後は、pH 2.0のアラビアゴムを満遍なく塗り、白い部分にはpH 1.0の強い酸のアラビアゴムを筆で塗り、スポンジで伸ばしてガーゼでやさしくふきあげます。
定着させるために1時間から1時間半ほど置いておきます。
お昼は各々食べに行ったり、お弁当を食べたり、ギャラリーに展示を見に行ったりして過ごし、 13時に部屋に集合して、後半戦です。
いよいよ刷りの工程に入るので、工房に移動します。奥にリトグラフのプレス機や、刷り台が設置されていますがこの日は使用しません。
まずは、pH 2.0のアラビアゴムを塗ってガーゼでふき、しっかり乾かして、アラビアゴムの層を作ります。
リトクレヨンで描いた絵をとります。ペーパータオルに灯油をつけてふきました。
うっすら絵が残っています。親油性になっている証拠です。
ペーパータオルにインクをつけてぬりこみます。また絵が見えなくなってしまい、焦ります。
水をかけてふくとあら不思議!絵の部分にだけインクが残ります。
ここで、アラビアゴムの層と一緒に余分な部分をとっています。
スポンジで水分を石に与えながらインクをのせます。今回は、黒、青、赤の3色用意してくださっていました。
インクは描画したところにだけインクがつきます。
親油性と親水性の性質に変化している証拠です。
しっかりインクがのったら、紙をのせて、バレンで刷ります。
今回は、紙は雁皮紙(がんぴし)を使用しています。ツルツルの面を下に。
雁皮紙がやぶれてしまわないように、当て紙をして力を込めてバレンで刷ります。
しっかりバレンでこすったら、そーっとめくって完成!
目が詰まってきたら、pH 2.0のアラビアゴムでふくと、余分なところが洗い流されます。
順番に刷っていきます。刷り上がると歓声があがります。
石の形もきれいに印刷されています。
描いた絵が反対にうつるところも版画の面白いところです。
絵に合わせて衣川さんがアドバイスをくださいます。
2枚目、3枚目の方がインクのノリが良くなり、キレイに刷ることができます。
最後に裏打ちの方法も教えてくださいました。
まず、作品から2、3mm離れたところをカッターでカットします。
ガイドになるコピー紙の上にトレスターというフィルムをおき、その上に切り取った作品をおきます。ここでどの位置にしたいかを決めます。
切り取った作品の裏面(インクがついていない方)に水で解いた洗濯のりをはけで塗ります。
トレスターにはみ出したのりはウェスで拭き取ります。
コピー紙をガイドに紙をのせます。今回はファブリアーノの紙を使用しています。
裏面からスポンジの硬い面を下にしてポンポンと叩いてくっつけます。
雁皮紙のみでは頼りなかったですが、石の形もはっきりして、サインを入れれば立派な作品に!!
最後は記念にみんなで写真撮影!
どの作品も本当にすてきです。
皆、満足してワークショップを終えました。
その後、ギャラリーの方では、LbHのメンバーの片山浩さんが石の磨き方のレクチャーもしてくださいました。
この日に使われた石も、初めはボコボコしていたのですが、金剛砂 #80、#180、#220の3種類を使って磨きます。
石同士でも磨くことができます。
まずは、#180から。
8の字を描くように磨いていきます。
ある程度、ボコボコがなくなったら、#220を振りかけて磨きます。
これは大変!
磨かせてもらいましたが、平らにするのは大変だと実感しました。
準備してくださってありがとうございます!!