1924年(大正13年)から続き、今年で100周年を迎えた「甲子軒(こうしけん)」。
松阪駅から国道166号線をまっすぐ進んだ飯南町粥見に位置します。
2代目店主の杉坂修さんまでは、いちごやパインなどのフルーツ大福、よもぎ大福が人気の和菓子屋さんでした。
2022年からは孫にあたる星野美沙希さんが3代目としてお店を継がれました。継承を機に、2023年には老朽化していた店舗を取り壊してリニューアルオープン。パティシエ経験を活かして洋菓子の販売も開始し、カフェも併設した甘味処として営業を再スタートしました。
100年もの歴史を持ち、地元の人々から愛され続ける「甲子軒」。
今回は継承に関するエピソードや地元への想いについて、3代目店主の星野さんにお話をお伺いしました。
※2024年4月取材時の情報です。
目次
地元の人々の期待を背負って、お店の継承を決意
‐ お店を継ごうと決めたきっかけを教えてください。
星野さん:「最初は自分の意志というよりは”周りの人に言われて”というのが大きかったです。調理師の学校に行き始めてから、周りの人に『お店はあの子が継ぐから大丈夫やな』と言われ続けていました。」
‐ 調理師学校に入学されたのは、継ぐためというわけではなかったんですね。
星野さん:「調理師学校に行ったのは食べることが好きなので、飲食に携わる仕事をしたかったからです。なので、お店を継ぐつもりは特になくて。
当時は祖父もまだ現役でしたが、あまり私に継いでほしいという感じでもなかったように思います。でも周りからの期待が大きく、どんどん盛り上がってきて(笑)。これはやるしかないな、となりました。」
‐ 意志が固まったのはいつ頃だったのですか?
星野さん:「学校を卒業してからはケーキ屋さんで働いていました。その時、母にもし本当にお店を継ぐなら祖父が元気なうちじゃないと継げないよって言われて。教えてもらうために手伝うなら今しかないとなり、当時働いていたケーキ屋さんを退職しました。
周りからの期待が大きかったのが継ごうと決めた理由ですが、周りの方から『継いでほしい』という声を聞くことで『ああ、このお店はこんなにもみんなに愛されているんだな』と気付きました。私が継がなければと、意志を固めることができましたね。
店内には先代のお店で使用されていた和菓子の型が飾ってありました。釣銭を乗せるトレーとしても利用されています。ほかにも、先代のお店で使用していた机をカフェスペースで利用したり昭和板ガラスを器にリメイクして使用したりと、以前のお店の名残を感じられる工夫がされていました。
変わらない味を受け継ぎつつ
リニューアルオープンを機に洋菓子もスタート
‐ お店の手伝いを始めてから、大変だったことを教えてください。
星野さん:「継ぐことになってからもなかなか作り方を教えてくれなかったことですね。職人気質なので、見て覚えろっていう感じで……。レシピもグラムじゃなくて、貫目という昔の単位で言われるんですけど、わからなくて(笑)。まずは調べてグラムに直すところから始まりました。肌感覚でやっている部分もあるので、これくらいって言われたのを量って書き起こしてを繰り返していくことで、レシピを覚えていきました。
認めてもらえるまでは時間がかかりました。なかなか実践させてくれなくて。重要なポイントは手を出させてくれないし、最初はあんまり継がせる気がなかったのかな(笑)。でも手伝うにつれて、祖父が周りから『ちゃんと教えたらなあかんで』と言われるようになったみたいで、徐々に手伝わせてもらえる行程が増えていきました。」
‐ リニューアルするにあたり、洋菓子もしようと決めていたのですか?
星野さん:「そうですね。以前働いていたケーキ屋さんの店長からも『あなたがやるなら和菓子も洋菓子もどちらも出したほうがいい』と言われていました。私がパティシエなのを知っていて、ケーキの販売を楽しみにしてくれている人もいたので。
和菓子は今までしていなかったので、作り方も違うし体力もいるし、大変だなと思いましたね。」
‐ お母さまはもちろん、ご姉妹(星野さんは3人姉妹の長女)や幼馴染の方もお店を手伝ってくれているのですね。
星野さん:「そうなんです、色んな人に手を貸してもらえて本当にありがたい。もちろん、母とは家族なので喧嘩もしますが(笑)。
でも、母は商工会議所にいたこともあり経営面をほとんど担ってくれているので助かっています。幼馴染も前職は金融関係だったので、お金の動きをわかっていて助けてくれますし、ありがたいですね。良いチームワークが取れているのではないかと思います。」
日々ラインナップが変わる豊富なメニュー
‐ 商品のラインナップはどのように決めているのですか?
星野さん:「商品のラインナップは何種類もあるのですが、その中からその日に並ぶものが変わるという感じですね。店頭に並んでいなくても、予約してもらえば翌日以降に作ることも可能です。臨機応変にそのときのお客さんの声に応えられるようにしています。」
ケーキも季節ごとにメニューが変わるそうです。お伺いした際はいちごの季節だったので、いちごのケーキが豊富でした。
星野さんの気まぐれで、その日に作るメニューもあるのだそう。
人気商品はやはり、昔からあるよもぎ大福やいちご大福!洋菓子では、若い世代から高齢の方までが馴染みのあるショートケーキが人気なのだそう。
ジューシーないちごと白あんの優しい甘みが相性バッチリのいちご大福。季節限定のメニューです。
昔から変わらず人気のよもぎ大福は、よもぎが香る生地と主張が激しすぎないたっぷりの粒あんが絶品。
あふれる地元 飯南町への想い
‐ 今後取り組んでいきたいことはありますか?
星野さん:「今年の夏はかき氷を出したいと思っています。やはり夏は洋菓子も和菓子も売れ行きが落ちるため、夏らしいメニューを作りたいですね。
パフェは去年やったんですが、『今年もやらないの?』と既にお客さんからお声をいただいているので頑張ります。
夏は香肌のほうにかき氷を食べに来られる方も多いので、こちらにも寄っていただければなと思って、今メニューを考えています。」
‐ 最後に、お店や地元に対する想いを教えてください。
星野さん:「やっぱりたくさんの人に飯南町に来てほしいなという想いがあるため、お店のことはもちろん、地域全体を盛り上げていきたいなと思っています。
今まで何回かマルシェに出店していたのですが、今月は初めて主催として『R166マルシェ』を開催させていただきました。
マルシェを通して飯南町のことや地元のお店、農家さんなどを知ってもらえるきっかけを作っていきたいなと思っています。
飯南町よりも奥の飯高町に行かれる方は多いんですが、どうしても飯南町は通り過ぎてしまわれることが多くて。通り道に、こんなところがあるよ!と自分のお店もそうですし、他の地元のお店を知ってもらえるように頑張っていきたいです。」
【R166マルシェ】
毎月第一日曜日に国道166号線のもぐもぐテラスで開催中(夏場は不定期)。
甲子軒さんと木花日和さんの共同主催で、松阪市や伊勢市などの地元のお店が出店されています。
詳細は甲子軒さんと木花日和さんのインスタで発信中です!
100年もの間、地元の方々から愛される和菓子屋さんを見事にリニューアルした3代目店主の星野さん。
先代のお爺さまや地元の方々の想いを引き継ぎながら、昔と変わらない和菓子の味を作り続けています。和菓子と洋菓子を組み合わせた営業で地域に貢献されている姿は、今後ますます活躍されることが想像できました。
季節ごとの新しいメニューの展開も期待できそうです!
店舗以外でも「道の駅(飯高)」や「きっする黒部」などで商品を販売しているため、チェックしてみてください。
松阪市街から少し足を延ばして、飯南町の自然に触れながら「甲子軒」でゆったり過ごされてみてはいかがでしょうか。【甲子軒】
住所 :〒515-1411 三重県松阪市飯南町粥見2486
電話番号 :0598-32-2272
駐車場 :有り(7台)
Instagram:https://www.instagram.com/koushiken03/?hl=ja