【閉店】ありのままを愛す ワビ・サビ:「茶論(さろん)」

掲載日:2020.12.25
【閉店】ありのままを愛す ワビ・サビ:「茶論(さろん)」

※2022年1月閉店

「これは、ワビ・サビをイメージしてつくったのよ」ニューヨークにいた頃、少し年配の女性のクラスメイトが私に“どう思う?”と作品を見せてくれた。

ワビ・サビ。

私、ワビ・サビってよく分かっていないんだけどなぁと心の中で呟きながら、「とっても日本らしくて嬉しい」とだけ答えた。

スシを筆頭に、イケバナ、ゲイシャ、最近では動詞として使われているコンマリ。「コンマリしててさ!日本の家庭はミニマニズムなんでしょ?」と普段の会話でも自然と出てくる万国共通の日本語は年々増えている。

茶道で表現される「ワビ・サビ」の正体を暴くべく、私は以前から気になっていた「茶論ニュウマン横浜店」の体験稽古へと足を運んだ。

私と友人が向かったのは、2020年の夏に新しくできた横浜Newmanの7階。複合施設の中でお茶が習えるのに、少し違和感を覚えながら向かうと、他のお店に馴染むシンプルな外観の「茶論」へ辿り着いた。

「こちらは、香煎(こうせん)と申します。梅酢に漬けた赤紫蘇を乾燥させ石臼で挽き、焼き塩と合わせたものをお湯で割っております。茶室に入る前に待合で、“道中お疲れ様でございました”という意味を込めて、お出しする飲み物です」と紹介してくれたのは、店長の神谷さん。

お茶を習うというと、敷居の高い茶室をイメージして、少し堅苦しい雰囲気があるかもしれない。行くだけで、疲れてしまう人もいるだろう。
ここでは、すっきりとした長テーブルスタイルで、椅子に座りながら稽古が行われている。

茶論(さろん)

神谷さん:「茶論は、現代のライフスタイルに即した茶道の愉しみ方をお伝えしています。和室で生活している方も少なくなったり、足が痺れるからなどの理由で茶道の人口が段々と減ってきています。けれど、茶道というものが季節の移り変わりを感じたりですとか、自分に還る時間をもてたり、非常に素敵な日本の総合芸術と言われるものなんですね。

私たちは、茶道文化の入り口として、あえて流派は設けておりません。もっと身近に茶道がみなさんの生活の中にあるといいなと思っております。コーヒーをいれる代わりにちょっとお抹茶を点てようかなと気軽に思っていただくような、茶道の入り口でありたいなと思っております」

茶論(さろん)

神谷さん:「こちらは、紅葉の山の様子を表しております錦秋(きんしゅう)という上生菓子で、奈良の「樫舎」謹製です。その日の紅葉の色に合わせてつくってくれているんですよ。この時期は奈良の紅葉がいつもお菓子で伝わってくるんです」

紅葉を見にいこうと思っていると、いつの間にか枯れ葉に変わっている。
日々の生活に追われて、季節の移り変わりを気づけずにいるのは、なんとも悲しい。
そんな些細な季節の変化をここで感じることができる。

“あの、、、お菓子を頂く前にお茶が飲みたいのですが”と、つい言葉を挟んでしまう私に神谷さんは、「お茶はもともと、薬として日本に伝わってきているので、急にお茶を飲むと体がびっくりしてしまうということから、必ず何かを食べて体を準備してからいただくという流れがあります」

茶論(さろん)

神谷さん:「まず、最初は私がお茶を点てて、さしあげます」

暖かな日差しが降り注ぎ、ゆったりとした雰囲気のなか、手際よくサクサクと動く手の動きと微かに聞こえる茶筅の振る音で、凛とした空気へと変わる。

ゆっくり進む時間や何も考えない無音の時間が苦手な私は、その空間をなにかで埋めようとしてしまう。「この時間だけでも、頭をすっきりとさせてみてください」そう言われるものの、どこか落ち着かなかった。

茶論(さろん)

お茶をいただくだけに使われたこの時間で頂く抹茶は、舌から喉へ、喉から胃へと抹茶の道筋を感じるほど、味わい深かった。

私自身、普段から一度にいろんなことを考えたり、行動しているから、一つに対してのありがたみや重要性を失っている。一つひとつを感じる深さが物足りないのだなと考えさせられた。

一息つくと、歴史の授業が始まった。

茶論(さろん)

神谷さん:「茶道は、すごく硬いイメージがあると思うんですけど、実は変化に富んできたからこそ、今も残っている文化なんですよね」

この言葉は意外だった。茶道は変化している?
てっきり昔から伝統を姿形のまま、そっくり現代に持って来ていると思っていたからだ。

神谷さん:「まず、平安時代に遣唐使として中国に渡った僧侶が、中国から日本へ茶を持ち帰って一時的に流行しました。鎌倉時代に入ると寄り合いとしてのお茶へと変化して行きます。ある将軍が武士の正式儀礼に取り入れ、書院の茶というハイブランドで高価な抹茶というイメージが定着するのですが、一方で真逆の思想が生まれます。それが侘茶です。よく茶道でワビ・サビと言われますが、村田珠光という禅僧が「ワビ」をお茶に取り入れました。

彼はですね、豪華で美しい舶来品を愛でるようなお茶に対して、もっと日常的に使っている茶器ですとか、無骨な形の道具、かけてしまった器ですとか、そう言った物を心の目で見てみたら、それそのものの奥深い美しさがあると言った方なんですね。

どうしても私たちは、なんでも完璧じゃなきゃいけないとか、自分がまだまだ足りないから頑張らなきゃいけないって、つい完璧な姿とか物を求めてしまいがちですけど、彼は、足りないところにも美があると言っています」

珠光の有名な言葉で、「月も雲間のなきは嫌にて候」がある。“完璧な美しい月をみるよりも雲がかった月の方が私は好きである” という意味のこの言葉は、SNSを通して、完璧な姿を発信することが求められ、現代ストレスと闘う私たちへのメッセージのようだ。

神谷さん:「ワビという美意識は、広く受け入れられて、侘茶というトレンドがつくられました。その侘茶と書院の茶が合わさって、自らの美意識を深めて今の茶道のもとを築いたのが千利休だったわけです。千利休は、無駄を削ぎ落として、客が茶室に入ってから出ていくまで流れ全体を考えて、お抹茶を頂く瞬間に気持ちが一番高まるように道具や空間、全てをコーディネートしました。今に続く茶道文化を完成させた方といえます」

お茶と言えば、千利休。いつの間にかその刷り込みがされていて、理由は考えたこともなかった。自然と知っていくものは、意外とその意味を知らないことも多くある。

茶論(さろん)

神谷さん:「私たち茶論では、茶道のしきたりや作法をただ覚えてもらうだけではなく、どうしてその動作をするのか?というところを伝えさせていただいております。

例えば、お抹茶を飲む時ってなんとなくお茶碗を回すっていうイメージがあると思うのですが、なんのために回すのか?っていうのを教えてもらえずにそのまま行っていることが多いと思うんです。でも、お茶碗っていうのは、亭主が一番の見所を考えて、一番の見所を飲んでいただく方に見せてあげようということで、正面が見所なんですね。そこに口をつけるのはちょっと悪いなということで、それを避けるためにお茶碗を2回、回してからいただくんです。そう言った理由を知っていると、ただ回すのではなくて、心を込めて回すことができますよね。私たち茶論は、知識を入れるだけでなく、みなさんのもてなしの力量をあげるということを目標としています」

茶論(さろん)

神谷さん:「では、自分でお茶を点ててみましょう」

お茶を点てるのに不慣れな私たちの抹茶は、泡の表面に穴が開いているように見えた。

神谷さん:「泡と少し空いた穴の風情をみるのってすごく面白いんですよ。星空や天の川、宇宙に見えたりして。
細かい泡をつくることで、抹茶の苦味をコーティングしてくれます。練習すれば、綺麗な泡をつくれるようになり、どんどん美味しい抹茶を点てることができるようになりますよ」

茶論(さろん)

神谷さん:「今できたお抹茶が自分が今味わえる美味しい一杯ですので、今日の味はどうかな?お抹茶の味を苦かったら苦いと噛み締めていただきながらでいいので、一口一口味わいながら飲んでいただければと思います」

グラスに注がれたワインに浮かぶほろ酔い気分の日もあれば、ワサビが全身塗られて目に涙を浮かべないと過ごせない日もある。
そんな一日一日を噛み締めながら、生きてゆく。

ダメな日も完璧な日も自分を愛してあげること。それが珠光のワビサビの教えなのかもしれない。

ニューヨークのクラスメイトは、ワビサビの意味を知っていたのだろうか?今度会った時に、その素敵な日本文化を伝えたいという目標がまた一つ出来た。

スポット詳細

【茶輪 ニュウマン横浜店】
住所:〒220-0005 横浜市西区南幸1-1-1 ニュウマン横浜7F
稽古) 11:00~20:30
見世) 11:00~20:00
定休日 : 不定休 (施設の店休日に準ずる)
電話  : 045-534-3203
アクセス:横浜駅中央改札からすぐ

web:https://salon-tea.jp/
体験稽古受付中:https://salon-tea.jp/lesson/beginner/

神奈川県横浜市出身。2018年より渡米。日本でファション誌の編集者として勤務した後、現在は、ニューヨーク マンハッタンにあるアート学校でグラフィックデザインを学ぶ。

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