【舞台挨拶レポ】「大切な人を深く見つめるキッカケになれば」映画『市子』、主演・杉咲花さんが体感した“言葉にならないほどの想い”とは

掲載日:2023.12.08
【舞台挨拶レポ】「大切な人を深く見つめるキッカケになれば」映画『市子』、主演・杉咲花さんが体感した“言葉にならないほどの想い”とは

12月8日(金)公開の映画『市子』の舞台挨拶が、「伏見ミリオン座」で開催!会場には、戸田彬弘監督、主演の杉咲花さんが登壇。映画化のキッカケから、杉咲さんの“俊足”が判明した撮影中のエピソードまで、たっぷりお話いただきました!

戸田監督が主宰する劇団チーズtheaterの旗揚げ公演作品でもある、舞台『川辺市子のために』を原作とした今作。どんな環境下にあっても、自分の存在と向き合いながら懸命に生き続ける、主人公・市子の姿は観ている人々の心に突き刺さります。市子の生き様、そして市子を演じた杉咲さんの圧巻の演技にも注目です。

■あらすじ
川辺市子は、3年間一緒に暮らしてきた恋人の長谷川義則からプロポーズを受けた翌日に、 突然失踪。途⽅に暮れる⻑⾕川の元に訪れたのは、市⼦を捜しているという刑事・後藤(宇野祥平)。後藤は⻑⾕川の⽬の前に市子の写真を差し出し「この女性は誰なのでしょうか。」と尋ねる。市子の行方を追って、昔の友人や幼馴染、高校時代の同級生…と、これまで彼女と関わりがあった人々から証言を得ていく長谷川は、かつての市子が違う名前を名乗っていたことを知る。そんな中、長谷川は 部屋で一枚 の写真を発見し、その裏に書かれた住所を訪ねることに。捜索を続けるうちに長谷川は、彼女が生きてきた壮絶な過去と真実を知ることになる。

“監督人生のなかで分岐点になる作品”
脚本から感じた強いエネルギー

– いよいよ今月8日に公開!今のお気持ちはいかがですか?

戸田監督:「色んな人に届いてほしい反面、正直少し怖いです(笑)観ていただいた方に今作がどのように評価されて、届いていくか、少し緊張しています」

杉咲さん:「私もドキドキしています(笑)『市子』という作品は、自分にとっても特別な一本になったので、あと少ししたら、自分達のもとから巣立ってしまうんだなという寂しさも感じています。でも、色々な方々へ長く広がっていったらいいなと思います。なので、観ていただいた方々が、どんな想いで今作を受け止めてくださるのかという楽しみもあります」


– 戸田監督からオファーを受けたとき、お手紙も届いたと伺いました。

杉咲さん:「お手紙のなかに、“自分の監督人生のなかで、分岐点になる作品です”という言葉がありました。それほど特別な思い入れのある作品に自分を求めていただけたことが、本当に嬉しかったです。脚本をいただいたとき、“どれだけ凄まじいものが、描かれているんだろう……”と少しだけ怖い気持ちもありながら、震える手で脚本をめくっていきました。長谷川義則役を演じた若葉さん(若葉竜也さん)も言っていたのですが、監督の筆圧が伝わってくるような、一言一言がとてもエネルギーのある脚本でした。この作品に携わったら、何かとんでもない場所に連れていかれるのではないか、という予感もしました」

– 出演が決まってから、撮影がスタートするまで1年ほど時間があったそうですね。それまで、監督と市子というキャラクターに関してどのように話し合っていきましたか?

戸田監督:「2~3回は話し合ったよね」

杉咲さん:「はい!話し合いを進めていくなかで、監督が“市子がどんな時間を過ごしてきたのか”ということを、年表のように書き起こしてくださったんです。今作は、しっかり時間軸で描かれている物語。準備してくださった資料に、“この時間の間に何があったのか?ということを細かく書いてくださっていたので、とても参考になりました」

自分が生きている世界線で
今もどこかで“市子”は生きている

– 戸田監督が主宰する劇団で公演されていた作品が原作。映画化する上で挑戦したことはありますか?

戸田監督:「カメラのアングルにこだわりました。ドラマや映画では、シーンの全体像が分かる「マスターショット」というショットを撮るのですが、今作では、ほぼ「マスターショット」の撮影をしていません。今作は、色んな人達から観た市子の姿を映画のなかで紡いでいくという物語なので、第三者の視点でカメラが入ってしまうわけにはいかないと思いました。語っている当事者からみた市子を映していくという意味で、少しドキュメンタリー的なポジションを多くつくりました。編集するときに、結構怖い撮り方ではあるんですけど、カメラマンと相談して、今回は勇気をもって、その撮影方法で押し通そうと決めました」

– 完成した作品を観ていかがでしたか?

杉咲さん:「こんなにも市子と関わってきた人々のなかで、市子という人物に対する印象が違っていたり、鮮やかに変化していったのだなと思いました。それが私自身としての感想なのか、市子としての感覚なのかちょっと分からない部分もあるのですが、自分が立ち会ってこなかったシーンを観たときに、グッとくるものがありました」

– 釜山国際映画祭など映画祭で先行公開もされている今作。周りの反応はいかがでしたか?

戸田監督:「お客さんの反応やSNS、取材を受けさせていただいているなかで今作を感想を伺う機会があるのですが、“「市子」というキャラクターを、映画を観た帰り道や街なかで探してしまう」という感想を大多数の人に言っていただきます。そこを目指したところもあったので、僕にとってはすごく一番嬉しい感想です。今作はフィクションで、市子という人物も完全にオリジナルのキャラクターなのですが、僕らが生きている世界にも、“市子”と似たような苦しさを感じている人はいると思うんです。自分が生きている世界線で、今もどこかで市子は生きている。そう感じていただいていることが嬉しいです」

疾走感たっぷり!
予想外の“俊足”に猛ダッシュ!

– 撮影で印象に残っている出来事はありますか?

戸田監督:「撮影中、杉咲さんに驚いたことがひとつありまして。予告編でも登場している、市子がトンネルを駆け抜けていくシーンがあるんですが、その撮影のとき、杉咲さんがサンダルなのに足がめちゃくちゃ速くて(笑)走る杉咲さんを追いかけながら撮影をしたのですが、カメラマンや録音チームが全然追いつけなかったんですよね(笑)すごく良いカットが撮影できたので、もちろんOKだったのですが、信じられないくらい速かった(笑)撮影後、「足、速いんですね」って聞いたら、「そうなんです、結構速い方なんですよね」と軽やかに答えていたことを今も覚えています(笑)」

杉咲さん:「小学校まではビリに近い速さだったんですが、中学生の頃からリレーの選手に選ばれるくらい急に速くなったんです(笑)」

戸田監督:「でも、あの疾走感がすごくシーンに合っていてすごく良かったです!」

杉咲さん:「転んでしまったらどうしようという緊張感もあって……(笑)死に物狂いで走っていました(笑)」

“他者は他者である”
今作が描いた人との距離感

– 杉咲さんは印象に残っている撮影はありますか?

杉咲さん:「市子の恋人・長谷川から、市子がプロポーズを受けるシーンが印象に残っています。脚本では、具体的な感情の変化などの筋道は立てられていなかったんですけど、台本を読んでいた時から、どうしようもなく心が動いてしまうシーンになるのではないかというイメージが湧いていました。そのシーンを撮影したとき、そのイメージを軽々と超えてくるような、言葉にならないほどの感情に突き動かされました。そういう経験をしたことが初めてで、すごく記憶に残っているシーンです。ただその時に湧き出た感情を持続させていくこと、更新させていくことが難しくて、少し心が途切れてしまったような瞬間もありました。そんなとき、長谷川役を演じた若葉さんが「精魂、尽き果てたね」って笑いながら言ってくれて(笑)自分からすると情けない瞬間ではあるんですが、その様子をありのまま肯定してくれる人がいる有り難さを知った瞬間でもありました」

戸田監督:「そのシーンの撮影のとき、セッティング中に若葉くんと若葉くんのマネージャーと外で少し話す機会があったんです。そのとき、若葉くん、“杉咲さんの演技がすごい、すごいものを見た”って言っていました。あのシーンは本当にすごかった。精魂も尽き果てると思う」

杉咲さん:「長谷川とのシーンは、撮影期間が3日くらいしかなかったんですが、若葉さんとは共演が3度目だったので、信頼もありましたし、居てくれるだけで安心感がありました。でも、市子と長谷川として過ごしてきた時間が自分のなかでどれだけ持てるかという緊張感はありました。でも、若葉さんを目の前にした瞬間に、そんな不安は一気に払拭されました。長谷川役が若葉さんでなければ、今作で描かれているような、“市子と長谷川の時間”は紡げなかったと思います」

– 戸田監督との映画作りはいかがでしたか?

杉咲さん:「監督は今作の原作者でもあるので、自分が市子について質問したとき、本当にたくさんの答えを教えてくださいました。でも、そのどれもが、“そうなんだと思う”、“こうじゃないかな?”と、断定をしない言い方で答えてくださるんですよね。例え、ご自身が作られた物語のなかの人物だったとしても、“他者は他者である”という距離のとり方。その姿勢が今作を表しているんじゃないかなと思いました。他者に対しても、演じる役に対しても、そういう姿勢であるべきだなと学びました」

戸田監督:「市子に対して“断定”することはしていなかったけれど、ラストシーンで“市子”というキャラクターがどのように映るのだろうかとは思っていました。公開前なのであまり詳しく話せないのですが、ラストシーンでの杉咲さんの演技にかなり衝撃を受けました。ちょうど、ラストシーンの撮影が映画のオールアップだったんです。ラストシーンをどう感じていただくかは観る人次第だと思うのですが、僕のなかでは“こういう感じなんだ、市子って”と、びっくりしました」

大切な人を深く見つめる
キッカケになってほしい

– 最後に観る人へメッセージをお願いします!

戸田監督:「今作は、市子と関わった多数の人の視点で、“市子”という一人の人物を見ていく構成となっています。普通に生きていても、自分の家族や大切な人でも、知らないことがたくさんあるなと感じます。それでも、何か事件が起こると、“あそこは家庭環境がああだったから”と紐付けされて、カテゴライズされて、まるでその人のことを知っているかのように、勝手に決めつける流れを自分を含め、よく目にします。他人のことを知るって本当に難しいなと思うんです。でも、この今作では“市子”という人物を多面的に見ることで、“人のこと”って、掴めそうで掴めないものなんだということを描いています。でも、そういう形でしか、他者と関わっていくことはできないんだろうなと思っています。“市子”という存在を近くに感じ、自分にとって大切な人をもっと深く見つめるキッカケになれば、この映画を作ったかいがあると感じています」

杉咲さん:「この物語は、私たちが生活している場所と地続きにある人の話だと思っています。なので、“市子”という人物を、実在する人物のようにとらえてくださる方が多くて、それが本当に嬉しく思います。市子は、“市子ってこういう人なのかな?”と思うと、ものすごく突き放されるときもある。それだけ、人間の複雑な部分にタッチした作品なんだと思います。人と人との間に横たわる、“分からなさ”のようなものを抱えながら、それでも“あなたは、人とどうやって関わっていきますか?”ということを突きつけられるような作品になっていると思います。私自身、こうして東京以外の場所で舞台挨拶をさせていただく機会が本当に久しぶりで、今日を楽しみに来ました。それだけ、『市子』という映画はたくさんの人々に届いてほしい作品なんです。なので、ぜひ受け止めていただけたら嬉しいです。今日は本当にありがとうございました」

過酷な宿命を背負った“市子”の切なくも壮絶な人生を描いた今作。杉咲さんの“俊足エピソード”など和やかなトークに笑顔が溢れながらも、今作に込めた想いについて、一言一言、丁寧に言葉を紡ぎながら語る戸田監督と杉咲さんの姿が印象的でした。

映画『市子』は、12月8日(金)より伏見ミリオン座ほかにて公開です!

スポット詳細

【映画『市子』】

12月8日(金)より伏見ミリオン座ほかにて公開
https://happinet-phantom.com/ichiko-movie/index.html

1989年生まれ。名古屋発女性情報誌の編集長を経て、フリーランスに転向。グルメを中心とした店舗取材をはじめ、沖縄やバリ島、ハワイなど国内外の旅ロケ、アーティスト・俳優のインタビューなど幅広い業務を経験。現在はファッションWEBマガジン・雑誌の編集ディレクターを務めるほか、ライターとしてWEBメディアで取材記事を作成、ライター講師などを担当。猫と旅とビールが好き。

https://www.instagram.com/merrymerry399/

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