「Palm Springs(パームスプリングス)」は約10年前から名古屋市中区大須にて、ミッドセンチュリーのヴィンテージ家具を販売しているお店。ミッドセンチュリーとは、「1世紀の中間」という意味。インテリアの世界では主に、1940〜1960年代にデザインされた家具や建築物を指します。パームスプリングスでは、アメリカやヨーロッパより、一点一点納得いくもののみを直接買い付けしています。
今回は店主である長崎海彦さん・美和さんご夫婦に、お店のこれまでの歴史、ミッドセンチュリー家具への想いなどお伺いしてきました。
目次
畑の真ん中。倉庫からのスタート
名古屋市中区大須にあるPalm Springsの店舗。大須観音駅より徒歩約5分です。
店内にはアメリカ、ヨーロッパなどから買い付けたミッドセンチュリー時代の家具が並びます。
今年で創業13年目を迎えるパームスプリングス。まずは、お店の誕生についてお話を伺いました。
海彦さん:「実は、お店を始める予定なんて全然なかったんです。僕は以前勤めていた会社で、造作家具の仕事をしていたので、家具の修復の仕事がしたいと思っていました。ですが、そういう仕事もないし、そういうお店もない。たまたまアメリカに住んでいる日本人の方と知り合ったこともあり、「とりあえず行ってみるか!」とアメリカに買い付けに行きました。」
美和さん:「先に買い付けに行ってしまったので、とりあえず場所が必要になって、ある程度大きい器じゃないと家具が動かせないという理由で、北名古屋にある畑の真ん中の倉庫を借りることにしました。基本的には見切り発車タイプですね。とりあえず進んで考える。とりあえずやって見てから考えようっていうのが私たちのスタイルになっちゃってますね(笑)」
創業当時のPalm Springsの店舗
海彦さん:「スペースも広かったので、お店をはじめてみようかということになりました。だけど、そんなに簡単には売れなかったですね……。」
美和さん:「お店としては、場所も悪いし、なかなか売れるという方向には全然ならなかったんです。そうこうしているうちに時間もどんどん経っていくじゃないですか。二人とも販売の経験もほとんどなく、インテリアに関しては全く経験のない状態。家具が好き、家具の修復がしたいという想いだけでやっていましたね。でも、1年くらい経って、「やっぱりこんな畑の真ん中でやっていても人は来ないんだ」って気がついて、慌てて大須に出てきました。」
思い切って大須への移転を決意
家具だけでなく、照明、時計、などの小物も取り扱っています。
北名古屋でのお店のオープンから約1年半。大須への移転を決意した長崎ご夫婦。以前は大須の別の場所で営業をしていましたが、約7年前に現在の場所へと移転しました。
美和さん:「大須に出てきたことで、やっぱり違うなって実感はありました。すぐ出てってしまう人も多かったですけど、お店を知ってもられる機会は格段に増えました。でもまだ倉庫時代の痛手が残っていて、挽回するのに必死でした。さらに大きな店舗に移転したいという気持ちはありましたが、かなりのチャレンジでしたね。」
海彦さん:「なので、いいところがあったら、移転しようかくらいな感じで思っていました。」
美和さん:「本当は1年くらいかけてゆっくり探そうって言ってたんですけど、探し初めた次の日にこの物件に出会ってすごく気に入ってしまったんです。もうこれは運命かなって。当時はまだ、北名古屋の倉庫も保管場所として借りていたんですけど、なかなか北名古屋まで家具を見に来てもらうのも難しくて……。思い切ってここで一つにしようと移転を決めました。」
思い出の地を店名に
続いて、店名である「Palm Springs(パームスプリングス)」の由来を教えていただきました。パームスプリングスは、ロサンゼルスから170kmほどの場所に位置するレトロなリゾート地。モダン建築も多く残り、ヴィンテージの街としても有名です。
美和さん:「パームスプリングスという店名は、初めてアメリカに行ったときの出来事からつけました。」
海彦さん:「現地に到着してとりあえず地図を買って、レンタカーを借りました。僕がグランドキャニオンを見たかったので、「とりあえず東に行こう!」と車を走らせました。だんだん日が暮れて、最初に泊まった街が”パームスプリングス”だったんです。」
美和さん:「ツアーなどではなく、自分たちで全然予定も立てずに行ったんです。けど、パームスプリングスで泊まったときに、海外でもいける、やればできる、というのを感じて店名にすることにしました。でもそのときはパームスプリングスがヴィンテージで有名な街とは全く知らなかったんです。今では、なんて素敵な名前をつけてしまったんだろうって。家具、時代、建物、私たちのすべてとリンクしているなと感じています。」
海彦さん:「でも、アメリカでお店の名前を聞かれて、「パームスプリングス」って答えると「そんなすごい店を日本でやってるのか」って言われて少し困りますけどね(笑)」
一番良い時代の、一番上品なアメリカを知ってほしい
美和さん:「彼が買い付けをほぼしているんですけど、こういうミッドセンチュリーのものしか目に入って来ないんですよね。売れるとか、売れないとかではなく、自分の好きなものというアンテナがビビっとなるみたいです。私が「これ売れそうじゃない?」って聞いても、「ふーん」と流されてしまいます(笑)」
海彦さん:「そもそも僕らの世代の男の人ってアメリカが好きなんですよね。バイクや車が好きで、アメリカンな雰囲気が好きっていう人は沢山いますよね。でも実際にアメリカへ行くと、そういうのは本当に一部で、ミッドセンチュリー家具のような綺麗なアメリカというのは全然紹介されていないんです。一番良い時代の、一番上品なアメリカこそ魅力的だなって知りました。」
美和さん:「良くも悪くも昔は紙媒体しか情報が入って来なかったんですよね。アメリカに行ったらこんな風なのかなってイメージしていましたが、そういうのは一部でした。その文化ももちろん良いと思ってますし、嫌いではないんですけど、そこじゃない上品なアメリカを知ることができた私たちとしては、そこを大切にして伝えていきたいと思いましたね。」
海彦さん:「この時代にしかない良さがあるんですよね。後にも先にもこれしかないんです。何が良いってこれしかない。」
買い付けはハンティング。ものを見つける努力。
アメリカでの買い付けの様子
アメリカ、ヨーロッパなど世界各国からミッドセンチュリー時代の家具を、自分たちの手で買い付けてしているパームスプリングス。買い付けた家具はチェック・クリーニングし、自分たちの手でリペアを行なっています。そんな買い付けについても、お伺いしました。
海彦さん:「買い付けは年3〜4回くらいです。2週間ほどかけてディーラーさんを回ったり、フリーマーケットにも行きます。」
美和さん:「2週間くらいかけないとコンテナがいっぱいにならないんです。おそらくSNSなどに家具をアップして「これ欲しい方いますか?」と募集したら欲しいということは多くあると思うんですけど、彼のアンテナにハマらなければ買わない。何も買わないお店もあります。なので、時間をかけないと集まらないんですよね。」
海彦さん:「本当に欲しい!って思うものは、数点しかないんです。買い付けはハンティング的な感覚ですね。お客さんの欲しいって言われたものを探したりもします。昔に比べるとヴィンテージ家具が高くなっているし、枯渇している状態。現地のフリーマーケットに行っても見つかりにくくなっています。でもその分お客さんも喜んでくれるので、ものを見つける努力は大切にしていますね。」
パームスプリングスでは、「このメーカーのこの商品が欲しい」「SOLDしている商品と似ているものが欲しい」などのリクエストを随時受付しています。店頭にないものでも、在庫から紹介してもらえたり、次回の買い付けで入荷することもあるので、お気軽に相談してみてくださいね。
▼店頭や、WEBストアに並ぶ前のストック商品はこちらからチェック出来ますよ。
http://www.palm-springs.jp/stock.html
時代と共に変化するヴィンテージ家具の市場
主にアメリカで買い付けを行なっているパームスプリングスですが、ここ数年で現地のヴィンテージの市場が大きく変わっていると言います。
美和さん:「以前はロサンゼルスを中心に買い付けをしていました。気候も良いし、コンテナも出しやすい場所だったので。でも、ほとんど行かなくなりました。アメリカでのヴィンテージ人気が高くなってしまったことで、買い付けがしにくい場所になってしまって……。私たちが始めた頃でも、今からこういう商売をやろうって話をしたりすると、「今からやるのー?」と遅い感じはあったんですけどね。」
海彦さん:「そんなことやっても儲からないよって(笑)。」
美和さん:「今から20年前くらいの古着の全盛期のころは、家具とかもアメリカでの注目度が低くて、買いやすかったんです。ものも沢山あるし、価格も安く、集めるのも簡単でした。けど、そこからどんどん時が経つとアンティーク化して、注目度が高くなってしまいました。5年くらいで、全く違う価格になりましたね。」
海彦さん:「今アメリカではミッドセンチュリー時代の家具がすごく流行っているので値段も高くなっています。」
テーブルの上に展示しているのは、ご主人の海彦さんが一番好きだというイームズのチェア。
美和さん:「3年前くらいヨーロッパの方にも行くようになりました。アメリカでもイギリスの家具を買い付けたりもしていて、あぁいうのがあるっていうのは頭の隅にはあったので、一回見に行ってみようって。ヨーロッパの照明とかでも面白いものが出てきていますね。アメリカじゃなくても、ミッドセンチュリーという年代でくくって、色んな国やものが時代で繋がっている分布図のような感じで最近は買い付けをしています。今のところはドイツ、ベルギー、オランダ、フランスがメインです。イタリアとかも行ってみたいなと思っているんですけど、距離が離れているのでなかなか行きづらいんです。」
海彦さん:「やっぱり距離が離れていると自走が大変なんです。でもヨーロッパは道も綺麗だし、燃費も良いし、走りやすいですね。」
美和さん:「今はヨーロッパに行きはじめてるけど、次はどこ行くかしらという感じ。仕入れも販売も安定しないし、相変わらず私たちは見切り発車のようです(笑)」
直接買い付け、自分たちの手でリペア。
家具のリペアの様子
さまざまな苦労や困難を乗り越えながらも、「ミッドセンチュリー家具が好き」という想いだけで走り続けてきたお二人。そんなお二人の想いが詰まった、こだわりの家具やインテリアの一部を少しだけご紹介します。
パームスプリングスでは、自分たちの目で見て、触れて、座って……直接買い付けをしています。そして、自社のリペア工房で全ての商品をチェックし、クリーニング・リペアを行なっています。
手前:AVALON社製ユニットシェルフ ¥230,000(+税)/ 奥:ネイサン社製サイドボード ¥175,000(+税)
50年以上の時が経って、劣化が著しいのは塗装です。店舗2階にあるリペア工房で、テーブル天板やこうした木製のほとんどを再塗装しています。木の質感や木目を活かすよう必要十分な薄さの塗装なので、家具の風合いはそのまま楽しめますよ。
パームスプリングスオリジナルソファ(イエロー) ¥ 180,000 (+税)
こちらは、ヴィンテージソファのデザインを活かし、サイズ・安全性を考慮して再現した、3人掛けオリジナルソファ。製作は日本のソファメーカーに依頼しています。カラーは10色から選択可能。値段も手頃な上、どんなデザインの家具・お部屋とも馴染みやすいので、ヴィンテージ好き以外の方からのオーダーも多いそうです。
フォレストビル製サンバーストクロック ¥38,000 (+税)
宇宙開発が盛んだった50年代ごろは、こちらのウォールクロックのような「宇宙」をテーマにした家具やインテリアが増加。時代背景や、ストーリーも合わせて楽しめるのがヴィンテージ家具の愉しみの一つです。
BROYHILL Side Board ¥24,000(+税)
パームスプリングスの家具の中でも特に人気が高いのが、こちらの「ブラジリアシリーズ」。ブラジリアはブラジルの首都の名前で政府官邸などの建物のデザインが用いられています。アメリカンミッドセンチュリーらしい強さを感じるデザインが魅力で、シリーズで集められている方も多いそう。
Wall Screen ¥75,000+施工代
またパームスプリングスは、家具の販売だけではありません。家具の選び方、配置の相談、照明のプランニング、リペアのことなど家具やインテリアを購入する際のさまざまな角度からのアドバイスをしてくれます。ぜひ、間取りや図面を持参してみてくださいね。
パームスプリングスは、「ミッドセンチュリーの家具が好き」「ずっと前から使われてきた家具を自分たちの手で修理・修復し、この先をずっと残していきたい」という長崎ご夫婦の真っ直ぐな想いが詰まったお店でした。
東海エリアでも、ここまでミッドセンチュリーの家具・インテリアに特化したお店はなかなかないのではないでしょうか。ヴィンテージ好きな方はぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。