“南インド料理の総合レストランを目指す”飲食店プロデューサー稲田俊輔氏が手掛ける「エリックサウスKITTE名古屋店」

“南インド料理の総合レストランを目指す”飲食店プロデューサー稲田俊輔氏が手掛ける「エリックサウスKITTE名古屋店」

名古屋駅のすぐそば「KITTE名古屋店」の地下1階にある南インド料理店「ERICK SOUTH(エリックサウス)」。東京で成功をおさめ日本の南インド料理ブームを牽引したエリックサウスは、2016年に名古屋進出を果たしました。

KITTE名古屋の地下1階、レストランが並ぶ中にエリックサウスがあります。

店内の壁には大きなインドの写真が

現在、東京を中心に大阪などにも展開されているエリックサウスの総料理長であり、料理本も多数出版されている稲田俊輔さんにお話を伺いました。

名古屋における「南インド料理の総合レストラン」
の役目を果たす

エリックサウス総料理長の稲田さん

多数店舗を展開していたエリックサウスが、名古屋進出の際に意識したポイントを伺いました。

稲田さん:「東京では割と『ニッチ戦略』でやっていました。東京はすでに南インド料理の店がたくさんあって、選択肢が豊富にある。だから、うちは他ではやっていないことをやろうと差別化を意識して、ミールスも一般的なものではなくて、あえてインドの地方色の強いものを取り入れました。他に選択肢があるから、エリックサウスでしか食べられないものを提供することにこだわりましたね。」

名古屋店も東京と同じ方法ではじめ、メニューもミールスとビリヤニ(インドの炊き込みご飯)に特化していました。しかし、少し様子が違っていたといいます。

稲田さん:「最初の頃は、特にインド人のお客さんに『なぜドーサがないんだ』とすごく言われました。その時、『名古屋ではまだ他に店が少ないから、東京と同じようなニッチ戦略ではダメなんだ』と気づいたんです。名古屋では、うちが『南インド料理の総合レストラン』の役目を果たす使命があるなと思ったんです。」

エリックサウスのドーサ

エリックサウスのドーサ

お客さんの声によって最初はメニューになかったドーサも提供するように。当時はドーサを焼く機材も入れていなかったため、フライパンで小さなドーサを焼いて提供していました。のちに機材を導入し、今では10種類のドーサがメニューに並びます。

※ドーサとは
豆と米からできた生地をクレープ状に焼いたもの。南インドでは朝食メニューの定番です。

名古屋店で経験した「不幸な出会い」

順風満帆に見えたエリックサウスですが、実は名古屋店をはじめたときに事件があったといいます。

稲田さん:「東京である程度成功していたので、名古屋店オープンのときもミールスを看板商品として大々的にアピールしました。そしたら、オープンしてすぐに半分以上のお客さんがミールスを頼んでくれたんです。」

「東京では数年かかったことが、名古屋では一日で達成した!」と喜んだのも束の間、ミールスを大量に残すお客さんが続出しました。

稲田さん:「今までの経験上、見たことがないくらいの残飯が出ました。お客さんはミールスが特殊な食べ物だと認識せずに『カレーがいっぱいあるプレート』だと思ったのでしょう。だけど、ミールスにはカレーは1、2種類くらいしかなくて、あとは一見カレーに見えるけどカレーではない何か。お客さんが思っているものとギャップを感じてしまったんでしょうね。僕はこの出来事を『不幸な出会い』と呼んでいます。」

これをきっかけに「ミールスをアピールするのはやめよう」とメニューを大きく変更。1、2ページ目には通常のカレーメニュー、最後のページでやっとミールスが控え目に登場します。

メニューの1ページ目

最後のページにミールスが

メニューを変更し、ミールスを注文するお客さんの数はガクッと減りました。しかし、数年かけて徐々に認知度が広がり、今ではミールスを頼むお客さんが増えてきたといいます。

稲田さん:「ライトユーザーもコアユーザーも、どんなタイプの人でも楽しめる店でありたいと思っています。それでメニュー作りも工夫しました。まだ南インド料理をよく知らない人は1、2ページ目を注文し、コアなファンは最後のミールスのページまでいく。それぞれがちゃんとオーダーするべきメニューにたどり着ける工夫をすることで、いろんな層のお客さんに受け入れられます。さまざまなタイプの方がモザイク状になって一つの店に存在している。僕はそんな光景を見るのが好きですね。」

メニューの大胆な構成は「名古屋店で学んだことでもある」といいます。失敗を糧にその都度改善し、誰もが楽しめる店づくりの工夫を積み重ねてきたのです。

南インド料理をやろうと思ったきっかけ

稲田さんは今までに、和食やフレンチなど数々のレストランを手掛けてきた敏腕フードプロデューサーです。そんな稲田さんは、なぜ南インド料理をはじめようと思ったのでしょうか。

稲田さん:「僕が南インド料理にはじめて出会った時は、すでにキャリアも経験もあって『世の中のおいしい料理はこういうものだ』とわかったような気になっていたんです。そんな中、南インド料理はおいしいけど訳がわからなかった。『このよくわからないものを理解したい』と思って、そこからハマッていきましたね。」

当時は別のレストランを経営しながら、南インド料理の試作を繰り返していたといいます。特にこだわったのは南インドの食文化を象徴する「サンバル」。豆と野菜、そしてトマトとタマリンドの酸味がアクセントの料理で、ミールスには必ず入っています。

稲田さん:「サンバルってシンプルだけど、うま味と酸味のバランスが難しくて。うま味を足そうと思って具をどんどん増やしていったけど、ますます迷宮入りしたこともありました(笑)そうやって試作を積み重ねて、やっとでき上がったんです。実は満足のいくサンバルができたから『南インド料理の店を出したい』と思ったんですよ。僕にとってサンバルはそれくらい重要なんです。」

エリックサウスの他のメニューは少しずつ変更し続けているなか、サンバルだけは創業以来レシピに手を加えていません。稲田さんのこだわりがつまった、うま味と酸味のバランスが絶妙な一品です。

エリックサウスの看板メニュー
「ミールス」

エリックミールス ¥1,485(税込)

一つのプレートにたくさんの料理が並ぶミールス。左の黄色いターメリックライスより右回りに、エリックチキンカレー・2種の日替わり野菜カレー・サンバル・ラッサム・ヨーグルト・ワダ・ウプマと並びます。

豆をすりつぶした生地で作るワダ(左)は、甘くないドーナツのようなものです。ふわふわで、ほんのり豆の甘味を感じる素朴な味わい。

ウプマ(右)はセモリナ粉(粗挽きの小麦粉)をマスタードシードやしょうがなどで炒めたもの。セモリナ粉のプチプチした食感が楽しく、シンプルだけど食べれば食べるほど深みにハマる味です。

どちらも南インドでよく食べられるものですが、名古屋でこれらが食べられるお店はなかなかありません。

こちらもエリックサウス定番の「エリックチキンカレー」。肉のうまみとマイルドなカレーが食欲をそそります。

右の2つは日替わり野菜カレー。この日はブロッコリー(右)とナスのトマトマサラ(左)でした。左はサンバル、奥に酸味のあるスープ・ラッサム。

一つひとつがとてもおいしく、単体で食べてもいいし、最後にはすべて混ぜて食べてもOK。いろんな味のハーモニーを楽しめるのもミールスのいいところです。ライス・サンバル・ラッサムはおかわり無料なので、満足いくまで堪能してください!

エリックサウスのおすすめ「ドーサ」

マサラドーサ(レギュラー) ¥1,222(税込)

ドーサはクレープのような生地に、さまざまな具材が入っている南インド定番の料理です。

左が野菜のチャトニー、中央の白いものがココナッツチャトニー、右がサンバルです。ドーサにつけながら食べます。

エリックサウスのドーサのこだわりは「生地」。ドーサは豆・米・水をすり潰して一晩寝かせて発酵させたものです。イーストなどは使用せず、自然発酵のため季節ごとに温度管理をしています。

稲田さん:「発酵すればするほど味わい深くなりますが、発酵させすぎると酸っぱくなってしまうんです。生地の配合や発酵の温度などの組み合わせで、しっかり発酵しつつ酸味は抑えた生地を目指しています。」

ドーサはパリパリ・もちもちが両方楽しめる不思議な食感。付け合わせのチャトニーと一緒に食べます。味の変化も楽しい。

中にはポテトマサラ(じゃがいものスパイス炒め)が入っています。

最後に、稲田さんのカレー作りに対するこだわりを伺いました。

稲田さん:「日本人の好みに合わせたアレンジはしないようにしています。自分ごときが勝手にアレンジしなくても、そもそもインド料理にはサンバル一つとってもたくさん種類がある。無数にあるレシピの中から、一番エリックサウスに合うものを選ぶようにしています。

僕が最初に南インド料理に出会ったときのように『おいしいけどなんだかよくわからない』っていう感覚を残した方が、みんなハマッてくれるんじゃないかな。そうやって南インド料理を好きになってくれる人が増えてくれればいいと思います」

スポット詳細

【ERICK SOUTH -エリックサウス- KITTE名古屋店】
住所 :〒450-0002 愛知県名古屋市中村区名駅1丁目1番1号 KITTE名古屋 B1F(JR名古屋駅から徒歩1分)
電話番号 :052-433-1780
営業時間 :11:00~23:00(フードL.O.22:00 ドリンクL.O.22:30)
定休日 :元日のみ
駐車場 :提携駐車場あり
web :https://www.erickcurry.jp/
instagram :https://www.instagram.com/ericksouth_web/
Twitter :https://twitter.com/erickshop?s=20

名古屋市在住、旅好きのフリーライター。インドでの就業経験あり。現在は、旅行、英語、SDGs、メンタルヘルスなど幅広い分野で執筆中。地域の魅力を最大限に発信できるライターを目指しています。趣味はボリウッドダンス(インドのダンス)

https://twitter.com/Anu_writingAmason
https://www.amazon.co.jp/dp/B09CPFRZCQ

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