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こんにちは。版画家の伊藤里佳です。今回は瀬戸市にある「Art Space & Cafe Barrack」をご紹介します。作家の近藤佳那子さんと古畑大気さんが運営する、カフェを併設したギャラリーです。
「Art Space & Cafe Barrack」は、名鉄瀬戸線尾張瀬戸駅から歩いて7分のところにあります。
入り口には営業時間と、展示中の展覧会のDMが貼られています。
もともと電気屋さんだったスペースを改装して2017年にオープンしました。
カウンターや、壁、テーブルなども自分たちでつくりました。
店内は天井が高く気持ちの良い空間。過去に行ったライブイベントでは、音が良いと好評だったそう。
棚にはギャラリーで展示中の田口美穂さんがお姉さんと一緒に活動しているgranite(グラニット)テキスタイルデザイン、石のプロダクトの商品が置いてあります。
他には、次回の展示予定の岡本健児さんのDMや、
アートブックも並んでいます。
加藤巧さんのアートブックです。
棚の下には自家製のシロップや漬物が待機しています。
情報収集は、こちらのカゴから!!
本日のランチは、ハッシュドビーフとチキンカツが選べます。
私はチキンカツを注文。お料理を待つ間にお店の奥にあるギャラリースペースをみに行ってみたいと思います。
お店の奥にあるギャラリースペース
お店の奥にギャラリースペースがあります。
入って右手に記帳台があります。
作家のいない時に、「私みにきましたよー。」という意味を込めて名前の記帳と感想など書くと、作家の士気が高まるのでぜひ書きましょう!
展覧会名は「山山」です。
記帳台の前方に何か描いてあるので見てみます。
と書いてあります。
なかなかない、体験エピソードで興味深いです。
室内に作品が並びます。
左から、「石」「石」「山」「山」「山」というタイトル。
私の気になった作品はこちら
「山」です。
グレーの中に何か描かれた痕跡があったり、かすれた箇所も美しいです。そしてピンクの絵の具が気持ち良いですね。
こちらも素敵です。タイトルは「山」描かれたものが黒で隠れてしまっています。チラチラみえるピンクの線が気になります。そしてグレーが美しい!
そしてもう一つ。「山」先の二つは夜の山、こちらは昼間の山という印象です。山が重なってみえます。
キャンパスの横をみてみると、チラリと水色が!正面からは想像しなかったことが角度を変えるとみえることがあります。
これらの作品をつくられたのは田口美穂さんです。
田口さんは子供の頃から図工や美術が得意だったそうで、2年生の時に「はみがきしよう!」のポスターで賞をとったり、宿題で書いた詩が学級通信に掲載された時に、母に褒められた記憶があり、絵描きか詩人になろうかな。と思っていたそう。
作品は、写真や図柄や山の写真をみてドローイングをし、キャンバスに下地を作って油絵具で描かれています。
「山山」の展示の中で、一つだけタイプの違う作品がありました。
タイトルもこちらの作品だけ「無題」となっています。
もともとは古い石鹸の柄を模写しようと思って作りはじめられたもので、円の部分は厚紙を型にして描かれています。
「この絵は慎重に描いていて、規制はあるけれど自動的に塗り分けができたりするところが普段描いているものとは違う。普段描いているものに限界を感じることもあるから規制があることで変化していくことが楽しい。あと、色が使いたいという願望もあって、その挑戦をしてみた。」とお話してくれました。
普段の田口さんの作品は、単色で描かれているものが多く(とはいえ色に深みがあります。)「無題」の作品は描き方や雰囲気も違うので、今後の田口さんの作品の展開が気になる1枚です。
Barrackでの展示は2回目となる田口さん。「描くものは何でもいい。」といいます。
20代でやってきとことを30代で変えようとしていて、30代半ばでBarrackで展示させてもらうことになりました。何を描こうかと考えていた頃に、おばあちゃんが亡くなり、おばあちゃんっこだった田口さんは悲しみが深く、弔いのためにとおばあちゃんにまつわるもの、例えばおばあちゃんが作った刺繍のクッションカバーなどを描はじめました。すると、いくつか描きたいものが出てきました。
そして自分にまつわる色々なものをモチーフにして描きだすように。
今回のタイトルは「山山」となったのは、先ほど紹介した体験エピソードの他にも理由があります。「美穂」という名前は「美しい穂高」という意味があり、1年くらい前に穂高をみたことも要因の一つだと語ります。お母さんから見た目と違い、実際に登ると厳しい山だという話を聞き、「山をモチーフに線で描こう。」と思ったことがきっかけとなりました。
コロナウィルスの影響で時間に余裕ができて部屋を片付けたり、窓から見える外の風景を描いたり、今までの振り返りみたいな時間がもてたことも、よいきっかけとなったようでした。
淡々と語る田口さんの作品は、一見すると、これは山なのか?石なのか?もっと描かないの?と思われるような作品に見えますが、「これでいいんです。」という言い切りが気持ちよく、同時に「あなたはあなたでいいんです。」と言ってもらえているような嬉しさがあります。ぜひ実際に作品に会って対話してもらいたいです!
カフェスペースへ
ギャラリーで絵を堪能している間に、注文していたチキンカツが届きました。
4種類のおかずも一緒です。目でみてもおいしい!色合いもうつくしいです。
ボリュームのある定食です!!
Barrackさんはカフェスペースで軽食とお茶を提供されています。
お茶の時間にはケーキもあります。こちらはアップルクランブル。
ポロポロのクランブルとりんごが最高です!そしてあったかいクランブルと冷たいアイスの組み合わせは幸せなおいしさ。
2017年の6月10日にオープンした「Art Space & Cafe Barrack」。今年の6月で4年になります。cafe担当の近藤佳那子さんと、ギャラリー担当の古畑大気さんで経営しています。
愛知県立芸術大学を卒業した後、高校の非常勤講師や、美術研究所で講師をしていた近藤さん。「美術」に近いところで仕事をしていると思っていましたが、もっと美術をやっている人と長く関係を持てるつき合い方をしたいと考え、そういう場所を作りたいと考えるようになりました。
近藤さんは大学時代に、ギャラリー担当の古畑さんと、数名で「学食二階次元」というオルタナティブスペースを運営していました。
そこは時々学内の人が展示をしているスペースだったのですが、調べてみると10年ほど前から「企画部」というものが存在していて、倉庫(備品室のような場所)をきれいにして活動を始めたというのを知りました。そこから先輩との繋がりができたり、学内の人の展示を企画したり、学外に呼ばれたりという活動を部活のような形で運営していました。
「学食二階次元」のような場所を形にしたものが「Art Space & Cafe Barrack」なんです。
そんなBarrackには自然と作家さんや物づくりをしている人が集まります。
「だんだん認知されてきて知ってもらえる層も広がったと感じています。ハブ的な場所として美術だけではなく瀬戸はやきものの町なので、やきものの作家さんが情報交換していたり、何ヶ月ぶり何年ぶりにここで出会ってお話されている方がいらっしゃったりするのを見かけると、こちらも嬉しくなりますね。想像していたより多くの人と関われたり、関係が生まれたりしてお店をはじめてよかったと思っています。」とお話してくださった近藤さん。
作家さんたちだけではなく、ご近所のおばあちゃんが来てくださったり、子連れでの来店があったり、幅広い層に支持があるのが伺われます。
近藤さんは作家としても活躍されています。週の半分はお店はお休みにしていて制作をしています。
「いいバランスで制作と仕事の時間が持てています。このお店を始める前は、制作と仕事のイメージが上手く繋がりませんでしたが、今は絵を描いている私も、カフェで仕事をしている私もどちらも肯定して過ごしていければと思います。」とお話してくださいました。
近藤さんは2019年に「瀬戸現代美術展」という展覧会を企画されており、瀬戸に由来のある作家さんを紹介しています。
まさに多方面にわたって活動の場所を広げています。
今後の活動をたずねると、「お店を拠点に出かけて行ったり、企画をしたりしたいと思っています。瀬戸は倉庫の空きがあったり、つくり手に支援があったり、ものづくりがずっと続いてきた街なので制作がしやすい環境だなと感じています。「瀬戸現代美術展」をまた開催したいです。」と教えてくださいました。
作家の田口さんからみた近藤さんの印象は”自由で行動力がある。”とのこと。「ご飯作りや、人が集まるのが好きなんです。」と嬉しそうに語る近藤さんは”制作すること”を軸に周りの人の関係も大切にしながら仕事を楽しんでいる印象でした。
ギャラリーだけの来店もO.K.。食事だけ、お茶だけでもO.K.。ものづくりをする人から、老若男女訪れるBarrackから今後も目が離せません!!