はるひ美術館で栗木義夫「CULTIVATION-耕す彫刻」をみる

清須市
掲載日:2023.05.16
はるひ美術館で栗木義夫「CULTIVATION-耕す彫刻」をみる

こんにちは。版画家の伊藤里佳です。

今回は、清須市はるひ美術館で2023年6月25日まで開催中の展覧会「栗木義夫 CULTIVATIONー耕す彫刻」の様子と、4月30日に開催されたアーティストトークの様子をリポートしたいと思います。

はるひ美術館は愛知県清須市にあり、広場と図書館も同じ敷地にあります。
駐車場もあるので車の利用がおすすめです。

駐車場から広場を抜けていくと美術館の入り口があります。奥に見えるガラスの建物が美術館です。

栗木義夫さんは瀬戸市の陶芸家の家系に生まれました。鉄や陶による立体、そして油彩など幅広い手法で造形表現を行っている作家さんです。

アーティストトークが始まる頃にはたくさんの人が集まり、栗木さんとはるひ美術館の学芸員の加藤さんの対話形式ですすめられていきました。

アーティストトークの内容は、大きくは展覧会開催について、1993年に制作された”Untitled”の作品について、ドローイングについてお話されてましたので、それぞれご紹介したいと思います。

開催の経緯について

はるひ美術館は絵画の公募展を開館当初の1999年から開催しており(第10回を持って休止されました。)はるひと言えば絵画のイメージが強い美術館です。

入り口にもはるひ美術館で開催された絵画の公募展の記録の冊子があります。

美術館としてこれからどう運営をしていくか模索していく中で、これまで彫刻を扱う展覧会が圧倒的にすくなかったことから、彫刻や立体作品とドローイング、絵画の両方を制作している栗木さんの展示を企画することになりました。

栗木さんの制作は、彫刻が基軸で、それをどのように展開していくかが表現のグラウンドだと語ります。それでも、彫刻はこういうものだ。という確信はなく、自身にとって”何が彫刻か。”と模索し、立体を作り、絵を描き(「絵画」ではなく「絵」)、日常の中でそれらをメモに記録していくことをドローイングとして制作を行っています。

与えられた空間にどう配置し、壁、床、空間を使ってどう表現するか。それが彫刻ではないか。と感じているそうです。

会場の様子

今回の展示は学生の頃からの作品をアーカイブ的にまとめて展示しています。入り口に配置された半身像は栗木さんの学生の時の作品。

「Untitled」1979年 鉄

「Untitled」 というこの作品は、当時の友人をかたちづくって1年かけて作られたものです。当時栗木さんが在籍していた日本大学では、彫刻家の柳原義達さん、土谷武さんが教鞭をとっていました。土谷さんは鉄を扱う作家さんだったので栗木さんにとっても鉄は身近な素材でした。

Untitled 1993年の作品について

「Untitled」 1993年 鉄、再生紙、サイズ可変

鉄が身近な素材であった栗木さんは、シンプルな鉄を溶接することによって自分との距離感が縮まり、自分のものになっていく感覚を得て、溶接に夢中になりました。

溶接というと、金属と金属をつなぐ作業をイメージするのですが、栗木さんの作品に使われている溶接は”ガウジング”という技法で、(gougingは英語でえぐりとると訳されます。)表面上にはえぐり取るというよりは、畑の畝のような盛り上がったラインがみられます。

 

作品表面

溶接棒を使って、鉄板を掘り起こしていくように作られる行為は畑を耕していくようでもあり、そしてそこには新しいものを作り出しているような感覚もあり、ものができていくことに感動したのだそうです。

(会場では、溶接の様子が収められた映像もみる事ができます。)

とはいえあまりに大きい4×8(シハチ)の板(121.9cm×243.8cm)3枚分を溶接するには、かなりの集中力と時間がかかり「何をしているんだろう。」と自問自答することもありました。

それでもその工程は、決して作業ではなく、そこには心があり、伝えるものがあり、作った人の思考や手つきが時代の空気と共に閉じ込められ作品に残っていきます。ピカソやラファエロもそうであったように、みる人に伝えたいものがないと作品として残っていかないし、心無くしては物は作ってはいけないと語ります。

壁に展示された作品はその3枚の大きな板を解体する前に記録として残すために制作されたものです。

大きな板の痕跡を紙に写しとろうと思いつきましたが、121.9cm×243.8cmという大きな紙は存在せず、小原村で紙を作っている友人に相談しました。友人から「新聞がいいのでは。」とアドバイスをもらい、新聞を再利用することに。

壁面に展示された再生紙の作品の表面

新聞を36時間ほど煮こみ、網戸を使用して扱いやすい A4サイズほどのものを鉄板にはると、水分が鉄を侵食して紙が鉄のサビを記憶するという思いがけなかったことが起こりました。

「やってみたい。」と思いつきで作ったものではありましたが、新聞という日常であり、その時代の記録としてあったものが、表現として残っていくということに面白さがあるということと、自宅でとっていた2社の新聞を使用していて、毎日新聞は青っぽく、朝日新聞は赤っぽくなるということも面白い発見でした。

赤っぽい作品

青っぽい作品

中央に配置された立体は、3枚の板を解体して展示されたもので40cm×60cmの大きさで1枚30キロにもなる重さでできています。

1993年のギャラリー山口(東京)では筒状に。1994年のウエストベスギャラリーコヅカ(愛知)では立方体に。2016年のmasayoshi suzuki gallery (愛知)では写真のような円柱形に展示してきました。

《Untitled》1993年 鉄、再生紙(「That cultivate」での展示風景/masayoshi suzuki gallery、2016年)

これは稲刈りの後の稲の干し方から着想を得ており東日本は円形に、西日本は平面的に干すという風土を取り込んで展示をしています。

今回は、そういった概念を取っ払って、単純にひっかける。ということを意識して立体にしたそうですが、今回が一番しっくりきているとのこと。

鉄の板が浮かび上がっているような不思議な感覚、屋根が落ちてきそうなアンバランス感。

何か願い事が叶いそうな崇拝像のような面持ちがあります。

スポット詳細

版画で作品を制作しながら、イラスト、デザイン、講師のお仕事をしています。好きな美術館は、豊田市美術館とルイジアナ美術館。愛知県在住。

Instagram:@ito_licca

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