こんにちは。版画家の伊藤里佳です。今回は愛知県は名古屋市千種区にある「gallery N」をご紹介したいと思います。
gallery Nは、名古屋市の地下鉄東山線「本山」駅から徒歩8分。大通りに面したところにあります。
住宅とアートを結びつける建築物として注目を集めているgallery N。すっきりとした外観が目を引く建物は、2008年にSUPPORSE DESIGN OFFICEの谷尻誠氏によって設計されました。
gallery N のオーナーである二宮さんが、三木さんの作品に出会ったのは、東京都美術館で杉戸洋さんの展覧会を観たとき。出品されている三木さんの絵が気になったそうですが、その時は三木さんを認識していませんでした。さらに2019年に名古屋で展示されていた三木さんの作品を観た時に「いいな」と思い、初個展を開催する運びとなりました。
ギャラリー内にはお花屋さんの名残のショーケースが。ガラスに反射した三木さんの作品も素敵です。
「こういう植物をみていると絵を描きたくなる。」と、三木さん。
螺旋階段が目を引くギャラリー空間。階段は、時にはテーブル、時には椅子にも使用されるそう。無駄のないデザインがかっこいいです。
上方から自然光が入ります。空間にピタリとハマる三木さんの作品。空間をみた時に、自身の窓辺シリーズのイメージが浮かび、楽しい気持ちになったのだそう。
和室に入って右側の空間にも作品がはまり込んでいるのでお見逃しなく!
gallery Nには他にもおすすめのスポットが。こちらはトイレの天井。
トイレには照明がなく天井に穴が開いていてそこから光を取り入れています。穴にこもっているようで落ち着きます。
1982年生まれの三木瑠都さんは、4年ぶりの個展となります。
展覧会のタイトルは「透ける山 不透明な窓」です。
ご自身の手記として、
「気候やアトリエの空気、光を感じたりそこにあるものの雰囲気を織り交ぜて制作している。
現実に存在するモチーフを収集し、記憶や妄想から拾い集めた断片的な場面や場所、それらの蓄積をアトリエ内で再現し、画面の上で再構築している。
ある時出会う非現実的な物象は、キャンパスの上に描くと益々フィクションに感じる。逆にどこでもあるような生物は私の空想だったりする。
アトリエでそれらのモチーフを組み立てている時、光や風や自然の色が入りこんでくる。舞台美術のように背景やスポットがあたる。非現実的なものを現実に作っているのか、現実を作っていて非現実に見えるのか。その後描く行為で、アトリエの空気が織り交ざる。結果的にその見えない空気により逆にフィクションが増すのかもしれない。」
とDMにあります。
初日はアーティストトークがあるということで、続々と人が集まってきました。
アーティストトークでのお話をご紹介します。
「私の作品はモデルがないと、思われる方が多いのですが、実はモチーフがあって、作品を作っています。」と、三木さん。先ほどご紹介した「Bresciaの中庭」はイタリアの北にある町、”Brescia”にある集合住宅のお庭をモチーフにしています。
この集合住宅には、イタリア人のお父さんの妹、つまり三木さんの叔母さんに当たる方が住んでいるところで、以前、貴族が住んでいた家をいくつかの世帯ででシェアしているお家なのだそう。写真はそのお家の中庭。歴史を感じる建築で壁の風合いも素敵です。写真の色もノスタルジックで素敵ですね。
三木さんは、写真やものからインスピレーションを受けて、ご自身で解釈してキャンバスに描いています。写真を並べて描くことはせず、その場所にある空気のようなものと一緒に描かれています。こちらは2021年の新作です。
一方、こちらの「流木とタイルの床」という作品は、2016年の個展の時の作品です。その頃もタイルをよく描いていて先ほどの「Bresciaの中庭」とつながっている作品だな。と感じているそう。
「一番最初のモチーフは、自宅です。父がアーチの家を手作りしていて、それはヨーロッパ的な建築物で、当たり前にあったので何も考えていなかったのですが、そういうものが身近にあって……。そこから影響を受けていると感じています。隣にアトリエも建てたのですが、母屋とつがいのように建てられていて、非現実的な風景なんです。」と語る三木さん。
描いた絵は、「”アトリエにかけてある時が一番よく見える”と、ずっと感じていた」という三木さん。それは、その不思議な空間であるアトリエに合わせて制作しているからではと考えました。
その不思議な空間であるアトリエには、自分の作った陶器があったり、他のアーティストの作品があったりと雑多な空間で、自分がいいと思ったものや景色を組み立てて作品が作られているそう。
もう1点写真と共にご紹介。
最近では”光”に注目している三木さん。渥美半島で見つけた風景を元に描かれています。
こちらが元になった写真。自然と人工物、そして光とのコラボレーションに反応して、三木さん自身がこの写真を撮りました。倉庫に当たった光が美しいです。この写真を元に「反射する落日」は描かれました。三木さんのフィルターを通すと、何気ない風景が素敵な1枚の絵画になってしまうのですね。
画材は油絵具やアクリル絵の具を使用している三木さん。石膏や漆喰を支持体に下塗りして絵を描くこともあるそう。「もしかしたら光の当たる見え方の違いを実験しているのかもしれない。」と語ります。会場から、「フレスコの影響を受けていたりするのですか?」の質問に、「そうですね、そうかもしれないです。フレスコ画も好きです。」と笑顔で答える三木さん。
「さらっと描くこともあるので、ニスを一部に塗ったり、絵具が割れる溶剤を使ってみたり、マットな感じで描いてみたり、と色々と実験しています。思い立ったらドローイングのように木を使ったりしています。」と言います。ホームセンターが好きで、使えそうなものがあると購入して実験的に作品に取り入れているそうです。
「台座のある部屋」こちらの海のような作品と、
「ギャザリング」
というこちらの作品。「このふたつは背景が同じ場所で、これは黒板が入る前の学校です。窓のように奥まで穴が開いていて、四角とたてと横のラインがうつくしくて、写真を撮った場所ですす。」と話す三木さん。
家の中をよく描いていたけれど、外を描く作品も増えていて、気持ちが外に向いている。と感じているそう。
元々、絵がカラフルだった三木さん。中国で安い綿布を買い、絵を描いてみると、何を描いても絵が暗くなり、一時期悩んでいました。ある時、当時は嫌だったその絵を引っ張り出してきて観てみると、きれいだと思えた。と言います。「その絵が売れたんです。いいと思ってくれる感覚の人がいるんだと思い、感動しました。」とお話してくれました。旅行先で画材屋さんに行き、その土地の画材を探すのも好きだと言います。
そして最近の三木さんの仕事で見逃せないのが、タイル。
wallfragmentによる、”アーティストが作り出すタイル”という企画に参加しています。「タイルが好きなので、前のめりで案内を受けました。」と、三木さん。そこで、タイルを作る時にでる切れ端のタイルを見つけ、個展で使わせてもらうことに。
会場からも、「外での展示や、大きくしたりするのも面白そう。」「三木さんの絵画に、タイルが登場することもあり、つながらないようで、つながっている。」との声も。
三木さんは「古代色の釉薬を使用し、混色して作っています。こちらは光が重要な作品で、影になる部分を意識的に影にしています。」と話します。実験中の作品なので、”ドローイング”として展示しています。これからどのように展開されていくのかが楽しみですね。
既製品のタイルと組み合わされています。優しい色合いが絶妙な作品。
質問タイムでは、「その時期、その時期で作家さんの好きな色や、色の組み合わせがあると思うのですが、今、三木さんのあつい色はなんですか?」との質問が。
「うーーーん……。緑ですかねぇ。6色くらいの緑をパレットに出して描いています。」と答える三木さん。
「今は、慣れ親しんだアトリエから、新しくなったアトリエに引っ越したので、アトリエと仲良くなるのに時間がかかっています。まだちょっと使いこなせなくて……。家も住んでいて朽ちていくというより育っていくような家が好きです。職人さんの作った古い壁やそういったものが好きです。新しいと落ち着かなくて。」と語る三木さん。
他にも、RE:LICさんという写真の作品を作る二人組のユニットともコラボレーションという形で作品を作りました。
三木さんが作品と立体を制作し、それをレリックさんが解釈し、写真に撮るという作品です。世界観としては、窓辺のシリーズを展開しています。
そしてトーク中にはこんな場面も。
「目の前にある現実的なものを描いているのですが、描いている自分の絵はそうではなく見えるし、人から見ても「空想の絵ですか」と言われるので、(そう見えるんだ。)と思いつつ…..。絵の中に描いている現場の空気が入る。それは現実なのに、そのことでよりフェイクにおとしめているという……。今回、自分の作品を解釈してみようと試みたんですが…。」と語る三木さんに対し、
「三木さんの感覚が、僕らとズレているから自然とそうなるんじゃないのかなぁ。」「窓と言いながら内なんじゃない。外と言いながら内を描いている。その空間の中に自分がいるんだからいいんじゃない。」との意見が飛び交い、「中庭ってうちと外の中間じゃない。」との声も。
「そうか、空間が好きなのかもしれない……」と三木さん。
自由に意見が交換される場面もあり、アットホームな雰囲気のアーティストトークで三木さんの作品に、より近づけた気がしました。
三木さんの作品は、内にある安心、外がある自由を感じることができます。
ぜひみなさんも、絵の前に立って、三木さんの感性に触れて、解き放たれてください!