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再開発で注目されている「ささしまライブ24」にほど近い、中川区百船町に位置する「STORE IN FACTORY (ストアインファクトリー)」。店内に所狭しと並ぶ古道具や古材は、代表の抜群のセンスでバイイング。「Re couture」= 再仕立てをテーマに「古い物」という素材を使って製品を作る製作所です。
今回は代表の原さんにSTORE IN FACTORY誕生の苦労や、リノベーションとの出会い、笑いあり涙ありのご自身の家づくりエピソードなど、興味深いお話をいろいろとお伺いしてきました。
※移転した店舗の記事はこちら
どの国、どの年代かも特定しないお店。
store in history(ストアインヒストリー)の誕生。
今回お話を伺った代表の原佳希さん
もともとは教育者を心指していたという原さん。ストアインファクトリーを立ち上げるまでにはさまざまな苦労があったそうです。
原さん:「教育大学を1年くらいで中退したのちに、父がやっていた大須の古着屋さんで、働いていたんです。2006年に父の会社から独立して、古着屋さんを引き継ぐ形で<マジックチルドレン>という会社をはじめました。」
オープン当時のstore in history
2008年の2月には、新事業として東欧などのブランドとアメリカのヴィンテージ古着を組み合わせた服の提案をする「store in history(ストアインヒストリー)」を大須でスタートさせます。
原さん:「開店するにあたり、友人のファッションデザイナーにお店のディレクションをお願いをして、大きな枠組みをつくってもらいました。
例えば、「国を特定しにくい」「どの国って特定しないもの」「どの年代かっていう時代感もないもの」をつくりたいっていうのを友達が言って、それってどういう空間なんだろうっていうのを僕がリサーチをしてつくり上げていきました。
「ストアインヒストリー」ですから、歴史の中にあるお店みたいな意味合いで、ベルリン、ワルシャワ、ウィーンなどの東欧のブランドとアメリカのヴィンテージ古着を組み合わせた提案をしていました。」
原さん:「今でこそ普通にはなりましたけど、10年くらい前に流木を天糸でつって洋服をかけたり、漆喰やジョイパットみたいな材料で壁を塗りまくったり、古材をたくさん使ったりとかね。
家をテーマにしていたんで、ゾーニング的にキッチンぽいもの、ダイニングぽいものっていうので服屋をつくりました。」
突然訪れた店舗の立退き
2010年、突然の立退きを勧告されたストアインヒストリーにある転機が起こります……。
原さん:「引き続き服は売れないまま、お店がつぶれかけていました。もうやばい!会社がもうだめだ、このままじゃ……ってなったときに、ストアインヒストリーが倉庫として借りていたところが立ち退きになっちゃったんですよ。会社はもうつぶれそうだし、最悪だなって思って、探して見つかったのが現在の場所だったんです。
ストアインヒストリーはつぶれそうな状況だったので、ただの倉庫の移転ならだめになるからと思い、抱えていた在庫を処分できる、お金に変えていけるような店舗兼倉庫にしたいと思っていました。
なので、店舗なのに明らかに倉庫みたいな物件がよかったんです。立ち退きを迫ってきた会社さんに相談して、ここを出るんで、倉庫を探してください。って言ったんですよ。それで、彼らが見つけてきてくれたのが、この倉庫の向かいの倉庫でした。そこはいまいち気に入らなくて。「まー難あり物件ですけど、となりも空くんですけどね」って言われたのがここだったんです。」
絶対にここしかない!運命の倉庫との出会い。
STORE IN FACTORY (ストアインファクトリー)の誕生。
原さん:「倉庫に入った瞬間、超気に入ったんです。絶対にここしかないと思いましたね。トイレもなければ、水道も通ってない。大家さんの意向としては、リフォームをしてまで貸したくはないだったので、じゃあこのままでいいんで借ります。ってことで店舗兼在庫置場として、ストアインファクトリーがはじまりました。」
オープン当初のストアインファクトリー
原さん:「当時は、とにかくお金が必要だったので不良在庫とか、古着屋さんで使用しているようなアンティークの什器。そういう壊れて戻ってきたものとか、お店のイメージと合わなくなって戻って来たものとか。そういうものもいっぱいあったんです。」
原さん:「でも僕自身、物を捨てられない性分なので、捨てずにとっていたんです。そういうものがここには、たくさんあって、それを安くてもいいから現金に変えれば、大須でやっていた古着屋さんの売り上げプラスアルファくらいにはなるじゃないですか。
クリエイティブじゃない仕事をやるのは本当は嫌だったんだけど、本当にお金がないから奥半分は古着の在庫にして。あとは僕がコレクションしていたおもちゃと、什器の不良在庫を置いて売っていました。」
初めての本格的なオファー
原さん:「先ほどもお話したように、ストアインヒストリーへよく来てくださったお客さんが、「内装いいね、これってどこでやってもらったの?」「僕たちが作ったんですよー」とかっていうやり取りはよくあったんですよ。「面白いじゃん。うちもやってよ」「冗談やめてくださいよー」っていうのばっかりだったんだけど、本格的なオファーが初めて入ったんです。
それまでは、オファーがあったとしても断っていました。自分のリスクでやるからこそ、できる空間っていうのがあると思っていたので、ヒストリーみたいなことはできないのではっていう想いがずっとあって、断っていたんです。でも、そのお客さんに「僕たち、どの国でもどの年代でもないような不思議な店が作りたいんですよ」って言われて、これって、ストアインヒストリーのコンセプトと一緒じゃないですか。なんか断るのは違う気がして、このお客さんとなら共有できるかもしれない。やって見ようと思ったんです。」
その名も「イタコ作戦!」
本格的なオファーが入ったストアインファクトリー。仕事の受け方は原さんが独自に考えた「イタコ作戦」でした。
原さん:「自分たちの店だからヒストリーのような空間ができたけど、クライアントワークにするとできないってことをお客さんにも説明をしました。そこで考えたのが、僕が施主さまになりきってしまえば、自分の店をつくることになるんだから、できると思ったんです。それは住宅も一緒で、これはのちに「イタコ作戦」と呼んでいて、いまだにそのやり方で仕事を受けています。」
一番最初に手がけられた美容室の内装
原さん:「特に、自分が経験のあることならやりやすいんですよ。お洋服屋さんやマンションリフォームとか、職種は違うけど、母親が美容師で、父親ももともと美容師。妻も美容師なので、なんとなくわかるんです。
だから美容室も得意。こうして、自分の経験や体験を切り売りして、自分自身のことにしてしまわない限り、DIYのような感覚で、何か空間を作ってくことは不可能だと思うんです。
このお店の内装をやらせてもらえたことがきっかけで、イタコ作戦のような方法を取り入れれば、なんとかDIYの本質を保ったままクライアントワークしていけるんじゃないかって思えたんです。これは僕の中での秘密みたいなもので、すごくいいやりかた見つけた。これからの時代のコンパスみたいになるんじゃないか、対価としてお客さんとリスクをともに抱えて、問題解決に向かっていくっていうやり方ってすごい時代に合ってるなって思えたんです。僕がリノベーションに出会う前のことでした。」
順番は逆?リノベーションとの出会い〜激動の年へ
2011〜2012年はリノベーション界の老舗会社との出会いにより、ストアインファクトリーにとって激動の年を迎えることとなります。
原さん:「ある巡り合わせがきっかけで、リノベーション会社の方と仕事をすることになったんです。その方と話していると、ある共通項を見つけました。
僕が出会った「イタコ作戦」と呼んでいたストアインヒストリーをお客さんに分け与えていくようなやり方。条件としては自分でつくる。廃材とか、身近にあるものを使っていく、この共通項がその会社さんの考えと同じだったことです。それに加えてコンセプトをすごく重要視していました。うちがストアインヒストリーをつくったときも、依頼を受けたお店をつくったときも、架空のコンセプトを立てたんですよ。想像力を要する空間づくり、それはその会社さんと共通してたから面白かった。そしてその方は、「原くんリノベーションっていうのはね」って、リノベーションのイロハを教えてくれたんですよ。
僕がやってきたことってリノベーションっていうんだって。順番は逆なんですけどね、じゃあこれ僕やってきたい!ファッションもダメ、教育もダメ、なんか自分の表現方法、生き方として、辿りついたリノベーションっていうのが見つかってうれしかったですね。」
ストアインファクトリーの確立!新時代の幕開け
原さん:「ファクトリーは最初、不用品を直したりしていたんだけど、内装をやってくうちに何が必要なのかがわかってきたので、そういう要素を持った材料屋になって行きたいなって思ったんです。アンティークの建具はマストだと思ったし、照明器具はかなり差別化していく上では重要だと思いましたね。
このあたりから僕の中でも矛盾していくんだけど、でもやっぱりストアインヒストリーをつくったときのようなつくり方。古いものとか、今あるものの中で、要は身の丈にあった形で形にしていく工程を面白いと思ったから、ちょっとずつストアインファクトリーがなんなのか僕の中でわかってきたんです。
ファクトリーでつぶれかけた会社も支えられるくらいにはなったんです。なので、ストアインヒストリーも続いてて、利益は相変わらず出てないんだけど、僕がやっていた内装とかでお金はでるから、とにかくそっちに回して、僕はこっちで内装や材料屋さんをやりながら、大須の店の方に回して好きな服屋さんを運営するっていうのが何年が続いていきました。
また、その年はいろんな人と縁があり、ストアインファクトリーが成長していくきっかけにもなったんです。この年は僕の中では新時代の元年。僕の中ではこれからも忘れなれない1年ですし、この年にストアインファクトリーの方針も決まりましたね。」
古材とアンティークを組み合わせた家具製作
古材とアンティークを組み合わせたオリジナルのダイニングテーブル
原さん:「買い付けに関しては、椅子はたくさん買えるけど、テーブルは1度に3、4台しか買えないので、じゃあテーブルだけつくろうかってなりました。もともとお店で古材の加工はしていたので、それを本格化させたいなってときに、斜め向かいにかっこいいなって思ってた物件が空いたんで、そこに<スタジオトラス>という工場をつくったんです。それから、僕たちの家具づくりがはじまりました。」
初期の頃の家具。和箪笥を解体して、パネル状にパッチワークしたテーブル
原さん:「店内に置いてあるテーブルはほとんどそうなんですが、古材とアンティークを組み合わせて家具づくりをしています。今に至る経緯としては、材料の販売が一番。次は古材を使った家具の製作。そういったやり方の中で、できる空間やアンティークを使った演出。リノベーションもその中の一つ。この3本柱がストアインファクトリーの仕事です。」
目指すのは概念の提案
こうして現在では、資材の販売だけにとどまらず、「リノベーション」「結婚式のディレクション」「店舗デザイン」「ライブのセット」「イベントの空間演出」「家具のデザイン」と幅広く手がけています。
原さん:「一番最初の根本はヒストリーをつくったこと。少ないお金とたくさんの仲間。こうしたいという強い想い。圧倒的に信頼できるディレクター。僕はゼロから1は不得意だから、なにかきっかけがもらえれば形にしていくのは得意で、きっかけをもらえれば、この時代へのヒントがある気がしているんです。そういうのをやっていきたいですね。」
ウェディングの空間デザインも手がけられています。
原さん:「リノベーションはあくまでも商品なので、僕は概念を提案していきたい。だからイタコ作戦も仕事の仕方として面白いと思うんですよ。できるだけ相手になる。相手の気持ちになってっていうけど、どこまでがそうなのか。そこを透明にしていきたいですね。建築業界は僕からするとすごく違和感があるんです。
ブラックボックス化してることがたくさんあって、最初はみんな思うんですよ。おかしいなって、それが3年とかすると当たり前になる。僕はできなくて、わかんないものはずっとわかんない。僕たちがずるいのは材料屋さんなんで、これが住宅屋になるとあれだけど、僕らはどこの会社さんとも取引があって、ここで買わなくてもアンティークはどこでも買えるわけですから、うちで買う以上はそういう話をしていきたいなって思っていますね。」
イベントのための小屋の製作。
東京のゴーグリーンマーケットに出店したときの様子
原さん:「もっと自由な建築。そういうものをもっと目指していけたら楽しいのになって、去年自宅をリノベーションしたときにすごく感じたんです。僕らはビジュアルの面をすごく求められるわけだけど、そうじゃない。アンティークってガタガタしてるし、傷もあるし、めちゃくちゃ不便なんですよ。
どんな形をした家で、どんな配置でっていうのを求められるんだけど、僕としては、せっかく出会ったお客さんとは結果的には、どんな家に住むかより、その家でどう暮らしていくかを一緒につくっていきたいですね。例えば夫婦の関係性だったり、家族のあり方、核家族化することで失われたことってなんだったのかとか、感覚的に気づいてもらえるような。そこに気づいてもらえたら、うちのミッションとしてはやれたかなって思いますね。」