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カラフルな配色と、顔のついたキュートなガラス作品をつくる松下祐子さん(ガラス作家 / Tickle glass)。松下さんの作品はどれもとっても愛らしく、心がうきうきワクワクするものばかり。
今回はそんな松下さんの作品たちが生み出されるアトリエにお邪魔して、ガラス作家になったきっかけやものづくりに込める想いなど、たっぷりとお聞きしてきました。
訪れたのは、多治見市にある松下さんのアトリエ「Tickle glass」。工房では、作品づくりだけでなく、ガラスはんこづくりや吹きガラス体験などもされています。
壁一面には松下さんのユーモアたっぷりの作品がずらりと並べられています。
幼稚園の先生からガラス作家へ
まずは松下さんに、ガラス作家を目指されたきっかけを伺いました。
松下さん:「もともとは茨城県で幼稚園の先生をしていたんです。当時からガラスづくりに興味はあったものの、ガラスについて学べる学校が茨城県にはありませんでした。働きながら学べるところを探して、見つけたのが、当時神奈川県川崎市にあった「東京ガラス工芸研究所」です。初心者だった私はまずは週末の講座に週1で通うことにしました。
また伊豆諸島の一つ、新島で開催される「新島国際ガラスアートフェスティバル」へも足を運びました。新島は島全体がガラス質の坑火石で構成されており、ガラス質の砂が採れることから、ガラスが特産になっている島です。
そこでは毎年11月に、国内外の著名なガラスアーティストを招いて、ワークショップを実施しています。あるとき、新島に向かうフェリーの中で愛知県のガラス作家さんと話す機会がありました。その方に、三重のガラス工房が人を募集しているみたいだよっていう情報を聞いて、さっそく応募することにしたんです。」
松下さん:「ところが私が応募したときには、すでに埋まっており……。すると、今は空きはないけど、施設内にあるお土産売り場なら人を募集しているからどう?と声をかけてもらいました。工房が空くのを待つ間お土産売り場のスタッフとして働くことにしたんです。仕事が終了してからは、ガラス工房内で吹きガラスの自主練習をさせてもらいました。空きがでてからは、工房スタッフとして体験やガラスのお土産製品の製作をしました。
その後、個人工房でのガラス製作を学ぶため瀬戸のガラス作家さんのところでアシスタントをさせていただきました。その方は新島に向かうフェリーの中で知り合った作家さんです。ほんとうにたくさんのことを教えていただきましたね。
将来的に自分の工房を持ちたいという夢があったので、先立つものを確保するため、その後会社勤めをしました。休日にはガラス工房で窯のレンタルをしながら作品づくりをしていました。勤めた会社はものづくりとは全然関係のない職種で、最初は4年位で辞めるつもりでしたが、職場の仲間に恵まれたこともあり、結局アルバイトの期間も含めて15年近く勤務しました。時間がかかってしまいましたが、長く勤めたおかげで家と工房を構えることができました。」
心がくすぐられるアトリエを目指して
時間はかかっても少しずつ自分のやりたいことを実現された松下さん。紆余曲折を経て、2015年にスタジオ&ギャラリー「tickle glass」をオープンされます。
−多治見をアトリエに選ばれた理由はあったんですか?
松下さん:「工房を構えるための土地を探しているときに住み慣れた愛知県にと思いましたが、土地の価格的な事情で、新天地の岐阜県の中で探しました。3つ候補が上がった中の1つがここだったんです。
美濃焼の産地でもあり、ものづくりに理解のある地域なのでガラスの製作にはピッタリでした。駅から徒歩でも来れる点と周りは田畑に囲まれた自然豊かな場所なので製作や体験をするのによい場所で気に入りました。」
−tickle glassという名前に込めた想いを教えてください。
松下さん:「tickleというのは、「くすぐる」という意味があります。この言葉通り、「こころくすぐるものづくり」を目指して日々製作しています。。工房で体験されるお客さんにとっても、この時間がうきうきワクワクするものになってほしいと思っています。」
–作品はどのくらいのペースでつくられていますか?
松下さん:「年に何回か個展やグループ展を開いているので、そこに合わせて作品づくりをしています。またお客さんから要望をいただいて、つくることもありますよ。私自身顔のついたものが好きなので、つくっているとつい、顔をつけたくなっちゃうんですよね。フラワーベースや置物、グラスなど、そのときどきによってつくりたいものや形も変わってきますね。」
松下さん:「最近だと、オブジェだけでなく、日常で使えるグラスにも力を注いでいます。こちらのビビットグラスは、かわいくなり過ぎない「おとなかわいい」のあんばいで色や模様を考えてつくっています。簡単につくれそうなグラスに見られるのですが、普通のグラスの3倍手間と時間がかかっています。
まず素地のグラスをつくります。色付けにはパウダーの色ガラスを振りかけて色を付けます。パウダーの色の濃淡が個人的には好きです。内側と外側の2層構造で焼成します。その後模様を描きサンドブラストで模様を残し、そのほかを全部削り落とします。
再度窯入れをし、1個ずつピックアップして1,200℃のガス窯で表面を焼き、擦りガラスを透明にします。できあがりまで長い道のりですが、長く愛用してもらいたいと、想いを込めたグラスです。」
松下さんの作品がはどれも本当に魅力的です。作品たちに微笑まれると、こっちまでつい笑顔になってしまうものばかり。最後に今後についてお伺いしました。
松下さん:「あ〜この配色間違えたな〜ってときもあるんですよ。でも結果的に模様やお顔を描いていくと、できあがりは色のミスマッチが新鮮だったり思いがけない発見があったり、毎回新しい試みをしながら楽しんでつくっています。作品を通じてみなさんにも楽しさが伝わるといいと思います。
まだまだやっていきたいことはたくさんあります。今後は展覧会やオンライン販売、工房内ギャラリーももっと充実させていくつもりです。多くの方に知っていただける機会をつくっていく予定なので楽しみにしていてくださいね。」