【展示会レポ】国内最大規模の国際芸術祭「あいち2025」

【展示会レポ】国内最大規模の国際芸術祭「あいち2025」

2025年9月13日(土)から11月30日(日)まで、愛知を舞台に開催される国際芸術祭「あいち2025」。国内外から現代美術やパフォーミングアーツの最前線を担うアーティストが集まり、街全体がアートの熱気に包まれる国内最大級の芸術祭です。

開幕を前に、一足先に名古屋会場・愛知芸術文化センターを訪れてきました。今回はその見どころをレポートします。

テーマ「灰と薔薇のあいまに」とは?

今回のテーマは「灰と薔薇のあいまに(A Time Between Ashes and Roses)」。シリア出身の詩人アドニスの詩句に由来しており、灰=破壊や喪失、薔薇=希望や美の象徴。その狭間にある曖昧で複雑な時間を見つめ、私たちがどのように再生の物語を紡いでいけるのかを問いかけます。

戦争や環境破壊、産業化の痕跡に向き合いながら、人間だけでなく「非人間の視点」も交えて未来を考える。まさに国際的に活躍する62組のアーティストたちが、このテーマに答える形で作品を発表します。

初の外国人芸術監督

(c)SEBASTIAN BÖTTCHER

今回芸術監督を務めるのは、UAE(アラブ首長国連邦)出身のフール・アル・カシミ氏。中東やアフリカをはじめ、世界各地で20年以上にわたり活躍してきたアートキュレーターで、日本の芸術祭では初めて外国人が全体を指揮します。

フール氏は「女性や有色人種の視点をもっと反映させたい」と語り、これまで日本ではあまり紹介されてこなかったグローバルサウス(新興国・途上国)出身の作家たちに光を当てます。

会場のみどころ

「あいち2025」では、「愛知芸術文化センター」「愛知県陶磁美術館」「瀬戸市まちなか」の3会場を舞台に開催されます。

栄・愛知芸術文化センター

名古屋の中心地・栄に位置する愛知芸術文化センターでは、戦争体験をもとに描かれた絵画や、社会問題をテーマとした大型作品が並びます。
レバノン、イラク、シリアといった中東の作家たちが手がける作品は迫力があり、その背景を知ることでより深いメッセージを感じ取れるはずです。

瀬戸・愛知県陶磁美術館

瀬戸会場では、焼き物文化の地らしく、土や陶磁器を使った立体造形が注目です。ケニア出身のワンゲシ・ムトゥや、アメリカのシモーヌ・リーといった世界的に活躍する女性作家が参加し、人種やジェンダーの歴史にまつわる作品を通じて、現代社会を見つめ直すきっかけを与えてくれます。

瀬戸市まちなかプロジェクト

尾張瀬戸駅近くの元銭湯「日本鉱泉」を舞台に、ガラス作家・佐々木類氏の新作インスタレーションが登場。古い建物と現代アートの融合は、この芸術祭ならではの体験です。

愛知国際芸術祭名古屋会場レポート

今回は、一足先に名古屋会場(栄・愛知芸術文化センター)へ行ってきましたので、印象に残った作品をピックアップしてご紹介します。

久保寛子

久保寛子《青い四つの手を持つ獅子》(2025)

まず目に飛び込んでくるのが、愛知芸術文化センター地下2階・フォーラムⅡに設置された巨大な作品。

青く輝く獅子が四本の手を広げる姿は、迫力と神秘性を兼ね備えたインスタレーション。
会場に足を踏み入れる人を迎え入れるようにそびえ立ち、まさに芸術祭の“門”を象徴する作品です。

ムルヤナ(Mulyana)

ムルヤナ、展示風景「あいち2025」

10階では、毛糸や布を用いたムルヤナ(インドネシア)、KAAT神奈川芸術劇場での個展を控える大小島真木、炭鉱のリサーチをもとにエネルギー産業と人や物質の移動をテーマに制作する川辺ナホ、ホイットニー・ビエンナーレ2024に参加予定のダラ・ナセル、イラク館代表としてルーツやアイデンティティを表現するバーシム・アル・シャーケルら、計15組が出展。
毛糸や布、金属など多様な素材で作られた作品は、圧倒的なスケール感と手触りの質感で観る者を惹きつけます。解説パネルと合わせて見ると、各作家が描く社会や歴史、個人の物語がより立体的に伝わります。

ダラ・ナセル

ダラ・ナセル(Dala Nasser)ダラ・ナセル 展示風景「あいち2025」

レバノン出身のアーティスト、ダラ・ナセルの展示も印象的。資本主義や植民地主義の影響を、土地や風景の記憶を通じて描き出す絵画表現は、静けさの中に強い問いを秘めています。

環境や社会に対する人間の関わり方を見つめ直すきっかけを与えてくれます。

太田三郎《東山動物園猛獣画廊壁画 No. 1》展示風景「あいち2025」

大小島真木、アフラ・アル・ダヘリ、展示風景「あいち2025」

大小島真木、アフラ・アル・ダヘリ、展示風景「あいち2025」

バーシム・アル・シャーケル 展示風景「あいち2025」

8階・愛知県美術館ギャラリー

8階では、時間の経過とともに展開する映像・インスタレーションを手がけるプリヤギータ・ディア、現実と欺瞞、精神性、女性に対する支配を探求するカマラ・イブラヒム・イシャグ、ビジュアルリサーチバンド・イキバウィクルル、自然と文化の関係性を研究するロバート・ザオ・レンフイ、ヨーロッパのアフリカ系ディアスポラ問題を扱うジョン・アコムフラら13組が参加。

展示空間内では、作品が時間や光と相互作用し、観るたびに違った印象を与えるのが特徴です。ボランティア活動やワークショップも行う「ラーニングセンターへたち」も開設されています。

イキバウィクルル(ikkibawiKrrr)

イキバウィクルル 展示風景「あいち2025」

韓国を拠点とするアートコレクティブ「イキバウィクルル」は、8階ギャラリーで展示。
「苔」をテーマに、人間と自然、生態系のつながりを探るリサーチ型作品を発表。
映像・音・インスタレーションが融合した展示は、まるで自然の中に身を置くような没入感を体験できます。

ロバート・ザオ・レンフイ

ロバート・ザオ・レンフイ 展示風景「あいち2025」

ロバート・ザオ・レンフイは、自然と文化の複雑で入り組んだ関係性を探求する領域横断的な実 践を行うアーティスト。生物界を構成する多様な存在や物体に関心を寄せ、インスタレーション や写真、映像、彫刻を媒体として、その経験や知識が人間という集合的存在をいかに豊かにし ているかを描き出しています。

シルビア・リバス

シルビア・リバス 展示風景「あいち2025」

シルビア・リバスは、映像インスタレーションやパフォーマンス、空間を用いたオブジェで知られるアルゼンチン出身のアーティストです。まるで宝石店のように作品を配置する展示では、映像やオブジェの細部が光を受けて輝き、時間や状況に依存する人間の体験を視覚的に探求します。

リバスは、物語性や隠喩を通じて観る者の連想を促し、瞬間の認識に根ざした抵抗の姿勢を作品に込めています。

2階・旧レストランスペース

ミルナ・バーミア 展示風景「あいち2025」

2階ではミルナ・バーミアがパレスチナの食文化と記憶をテーマに展示。発酵や伝統レシピを用いたインタラクティブなインスタレーションで、消失の危機にあるコミュニティの物語を体感できます。

地下2階では「あいち2025」限定のブックストア「TEMPORA」も登場!

「あいち2025」は、愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市まちなかという3つの会場を横断しながら、多様なアートの潮流を体感できる国際芸術祭です。

名古屋会場では、国内外の著名作家から新進気鋭のアーティストまでが集結し、空間そのものを変容させるような展示が待っています。秋のアート巡りに、ぜひ足を運んでみてください。

開催概要

会期:2025年9月13日(土)~11月30日(日)
会場:
・名古屋会場:愛知芸術文化センター・愛知県美術館(名古屋市東区)
・瀬戸会場:瀬戸市まちなかエリア
・愛知県陶磁美術館(瀬戸市南山口町)
公式サイト:あいち2025公式

スポット詳細

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