目次
名古屋を中心に活躍する現代美術作家「荒木由香里」さんと版画家「伊藤里佳」さん。伊藤さんはライターとしても、ライフデザインズで日々魅力的な記事を発信してくださっています。
つい先日、東海エリアで活躍する作家さんをもっと取り上げられれば……。と相談したところ、荒木さんをご紹介いただき今回の対談が実現しました。
荒木さんは身近にあるさまざまな既製品を使って、一つの作品をつくりあげる現代美術作家です。今回は伊藤さんにインタビューをお願いして、荒木さんの魅力をたっぷりと引き出していただきました。
What’s YUKARI ARAKI?
荒木由香里(YUKARI ARAKI)。1983年 三重県生まれ。ものや空間と対話するように立体やインスタレーションの作品を制作。愛知を拠点に国内外で活動する現代美術作家です。
2005年 名古屋芸術大学美術学部造形科造形選択コース卒業。2006年 同研究生修了後にアインソフディスパッチ(名古屋)で2007年から作品を発表。2012年には愛知県美術館で学芸員と作家との協同による展覧会APMoA Project ARCH『何ものでもある何でもないもの』を開催するなど、個展・グループ展を多数開催。
現在、久屋大通「ショコラトリータカス」にて個展が開催されています。
荒木由香里の作品だっていうのが見てわかるんです。
名古屋芸術大学美術学部出身のお二人。それぞれ作家として活動をされながら、母校「名古屋芸術大学」で講師もされています。
荒木さん:「私たちどうやって仲良くなったんだっけ?私はさまざまな素材を使って空間表現や立体作品をつくる造形選択コース。里佳ちゃんは油絵や洋画のコースだったから、授業で一緒に作品をつくることはなかったよね?」
伊藤さん:「みんなお酒が好きだったから、そこに行くといつも荒木がいて(笑)自然と仲良くなっていった感じ。みんな卒業してからもお酒好きで毎年集まっては飲んで、笑ってね。
卒業してもずっとみんなが作品をつくり続けるのかといえばそうではなくて、会社員やネイリストや学校の先生になっていく子たちも多かったよね。
その中でも荒木はずっと作品を制作し続けていて、続けていくことがどれだけ大変なことかっていうのが私も作家として活動してるからこそ、わかるので尊敬してるよ。それに、その都度荒木自身が変化しながらも、”荒木由香里の作品だ”っていうのが見てわかるのもすごいなって。」
いつ死んでもいいと思えような作品をつくろう
荒木さんはハサミやくしなどの既製品の使って立体やインスタレーションとして作品を表現されています。
伊藤さん:「今の作風になったのはいつからだったの?」
荒木さん:「大学時代は、インスタレーションっていう空間すべてを使う大きな作品ばかりつくってたんだけど、学生時代に制作した作品に対してはどうしても課題意識が抜けきらなくて、ダメだなって思って……。卒業するときには、作家として生きていくって決めていたから、今までつくったものは作品としてはださないって決めたの。」
伊藤さん:「課題からつくるっていうのは自分で考えてつくるのとは別だもんね。そこでは、学んではいるけど自分でつくりたいものとは違うっていうのはわかるな〜。」
荒木さん:「祖母が亡くなったことも大きかったかな。それにロンドンでテロが起こった時期でもあって、人っていつ死ぬかわからないんだなって。身近な人も、大事な人たちもいついなくなってしまうかわからない。だからこそ、「私こんな作品つくってたらだめだ!」って。いつ死んでもいいと思えような作品をつくろうって思ったんだよね。
インスタレーションは今でもつくるけど、もっと自分に身近な素材を使おうって。雑貨の収集癖が昔からあって、気になるとそればっかり集めるような子どもだったの。自分の中で同じものばかり集めては素材を比べるのが好きだったんだよね。」
身近にあるものの価値を再構築していく
伊藤さん:「なんで身近な素材を使おうと思ったの?」
荒木さん:「なんで作家になりたいんだろうって考えないといけない時期があるじゃない。よく生きたいと思ったんだと思う。周りの人に優しくしたいとか、大事にしたいために制作していきたと思って、その考えをだんだんと狭くしていった結果、身の回りの物を大切にすることが最初だと思って、自分にしっくりくる身近なものを素材に使おうって思ったんだよね。
私は古いものも大好きなんだけど、アンティークは古いから価値があって、新しいものは劣ってるとか、そういう一般常識としてある先入観のようなものが気になっていて、例えば同じコップでもこれは何年もの、こっちは職人がつくったからいいじゃないとか、100円均一に売っていてもコップはコップ。
”古いから”、”誰かがつくったから”いいではなくて、どんなものでも先ずは同じようにフラットな気持ちで見る目を持ちたいなって。コップだということが最初の認識で、それから自分で判断したい。
だからこそ、作品ではものが本来持ってる価値とは違う魅力を引き出してみたり、ものを寄せ集めて、同列にして価値を再構築していくようなイメージ。そのときのテーマごとに素材を集めては、ものたちの素材感や形を活かして、新しい価値や視点を知りたいなって。」
伊藤さん:「荒木は立体でイメージがわくんだよね?」
荒木さん:「そう。立体でイメージがわくの。今日のランチでカレーが食べたいとか、ハンバーグがつくりたいとかってイメージが湧くじゃない。そんな感じ!」
伊藤さん:「え!そんな感じなの?私は平面でずっと制作してるし、立体というよりはずっと絵を描いていたタイプだから、立体物脳の人がどんなものの見方をしてるのかが、すごく気になる!」
荒木さん:「私は絵は描かないからな〜。なんかちょろっと描いたりはするけど、イメージが浮かんで、それを組み直す、記録を残す作業として絵を描いてるけど、それは人にわかりやすく伝えるため。どんなのつくろうかなって言って絵は描かない。」
伊藤さん:「昔ギャラリーで展示をしてたときに、そこにくるまでに拾ったものを使って植木鉢みたいなのつくってなかった?一日一個。
私は日記を書くのも好きだし、一日にこれくらいのノルマをやるっていうのが本来なら好きなタイプだから、つくった植木鉢に拾ってきたものを使うっていうのがすごいときめいて!毎日系が好きなんだよね。」
荒木さん:「それはうれしいな。まさか私でも忘れていたことを覚えているなんて。1カ月泊まり込みできるギャラリーだったこともあって、道で拾ったものを日記的に植木鉢にしようとおもって、紙粘土でつくったやつだったかな?そこ色つけて、土入れて、植えていったの。」
伊藤さん:「ポツポツってなっているのが可愛くて、それが荒木にとってのドローイング的なものなのかな?って私は思っていて、自分がノートに思いついたことを書くように荒木の頭は立体脳だから、拾ったものを組み合わせてやるんだって思ったんだよね。」