河合塾のギャラリー 「ArtSpace NAF」がリニューアルオープン!登山博文さんの思考をたどる

美術館
名古屋 千種区
2022.09.13
河合塾のギャラリー 「ArtSpace NAF」がリニューアルオープン!登山博文さんの思考をたどる

こんにちは。版画家の伊藤里佳です。

皆さんは、名古屋市の千種に河合塾があることをご存知ですか?河合塾は全国にありますが、千種の河合塾には「美術研究所」があります。「河合塾美術研究所 名古屋校」です。そこは主に美術系大学進学を目指す生徒が集まり、日々、デッサンや実技の課題に取り組む場所でもあります。

※河合塾とは:全国にある予備校です。大学や研究機関の知見も取り入れた独自性の高い「教育研究・開発(R&D)」を全ての基盤に、幼児から社会人までを対象とする「教育事業」を展開しています。美術研究所は名古屋と新宿に設置されています。

かくいう私も高校生の時に美大進学を考え、毎日豊橋から千種の河合塾美術研究所に通っていました。

その河合塾美術研究所に併設されているギャラリー ”Art Space NAF” のリニューアルオープン展として、「登山博文  Drawing / Tableau」が開催されています。

登山博文さんは、ここ河合塾で30年講師をされていた方で、惜しくも去年11月に54歳という若さでこの世を去りました。

登山博文さんは福岡県生まれ。1997年に愛知県芸術大学大学院美術研究科を修了され、あいちトリエンナーレや、東京のタカ・イシイギャラリーさんなどで絵画の展示をされていた作家さんです。

登山さんは河合塾以外にも名古屋造形大学でも指導されていたので、送り出した教え子たちは数えきれないほど。私もその数多くの教え子の一人であり、当時河合塾でデッサンや絵画に対する考えを学んでいました。登山さんにクロッキーを勧められ、電車での長い通学時間中を利用して、描いたものをチェックしてもらったりしていました。

千種駅から河合塾に続く歩道橋「ビクトリーブリッジ」

筆者が浪人生の2000年に、当時名古屋港にあった”コオジオグラギャラリー”で登山博文さんの展示がありました。

そこで観た作品は左右対象の抽象的な形がパレットナイフでシャープに、それでいて柔らかく描かれたものでした。世の中にはこんな絵画もあるのか。と世界が広がったような記憶があります。その時に会場にいらっしゃっていた作家さんたちを紹介してくださったことも良き思い出です。登山博文さんは、面倒見の良い兄貴といった印象の方でした。

そんな登山さんが河合塾で展示をするということで、初日にお邪魔してきました。

Art Space NAFは、1977年に造形教室を母体とし、1980年にギャラリーとして開設され、塾生の作品展示や企画展が開催されているギャラリーです。

この度河合塾北館の1階に移転しました。(JR千種駅を出ると、西側に河合塾へ続く橋”ビクトリーブリッジ”がありますが、そこを通るとやや迷いますので、「千種駅前」の信号を渡り吉野家さんを左折してのアクセスをお勧めします。)

少しわかりにくいのですが、奥の扉から中に入れます。

 

今回の展示は、美術批評をされる山本さつきさんがキュレートしており、さつきさんにお話を伺いながら作品を拝見しました。
2008年から2010年に登山博文さんが制作した、ドローイングからタブローへの作家の思考が見えるような展示になっています。

入り口にタブローが展示されています。

ショーウィンドウのタブローの拡大部分。ウィンドウに反射してしまっていますが……。色の重なりが美しいです。

入り口に入ると、ショーウィンドウに展示されているタブローのドローイングがあります。手のひらサイズ。

近づいてみてみると、何かの切り抜きを逆さにして、色や形が描かれています。
水色の部分は建物の写真の上に水色が重なっていますが、先ほどのタブローの水色の部分は、このドローイングが忠実に再現されていることがわかります。

登山博文さんは、2010年にはあいちトリエンナーレに出展しており、その時のドローイングも展示されています。

2010年あいちトリエンナーレに出品された作品のドローイング

5月に名古屋造形大学でタブローが展示された時の資料。左から「反射光」「左と右」「左と右」は、横5.53mにもなる大きさ。人の大きさと比べると圧倒的な大きさなのがわかります。

展示を拝見すると、ドローイングを忠実にキャンバスに再現していることが見受けられます。ドローイング(右)は、建築雑誌のページを破り取り、上からペンキで描かれています。三角の形は建物の写真で、タブロー(左)では緑の形に描き起こしています。刷毛で描かれたオレンジ色の部分や、青い色の重なり、偶然できた色のにじみもタブローで再現されています。

ドローイングの拡大。右側の三角の部分は、建築雑誌の切り抜き写真を使用しているため、建物の写真のイメージ。建物は加工されているのか、まるで絵画のよう。その上に色や形を重ねています。

ドローイングを近くでみてみると絵具の質感はツヤっと、もっちりとしています。使用している画材はアクリルウレタンペンキ。シンナーで希釈するとのことでしたので、油性のペンキですね。筆の痕跡が美しいです。

一般的にドローイングとは、落書きであり、訓練であったり、イメージを掴むようなもの、思考を探るようなもの、さまざまな要素があるかと思いますが、そうこうしてできたドローイングの中でも、「これだ!」とか、「これかな?」と思ったもの(思考や空気感も含む。)を選び、それらを落とし込んだものが、タブロー(画家の意図や描写の完結した作品)となります。

画面右側の壁には、ドローイングとタブローが並んで展示されています。

何回も訓練のようにドローイングで調整したりテストを繰り返しているからこそ迷いなくタブローに挑めるのだと考えます。
この頃、登山さんは「ドローイングのようにタブローが描けるようになった気がする。」とおっしゃっていたというお話をお聞きしました。

キャンバスを前にすると多少なりとも萎縮してしまったりすることが往々としてあります。(もちろん、例外はあると思いますが。)ドローイングのようにタブローが描けるようになったということは、たくさんのドローイングが背景にあることはいうまでもありません。

展示されているドローイング

左から4枚目のドローイング の拡大部分。にじみが美しいです。

こちらもドローイングの拡大。CITIBANKの文字が透けてみえます。パンフレットのようなものにドローイングされています。

こちらのドローイングにはイギリスにあるギャラリー、Tate Galleryの文字が。ヨーロッパに旅行に行き、持ち帰ったパンフレットなどにドローイングをしているのでサイズも小ぶり。

1枚のタブローの背景には何十、何百、何千、何万まいものドローイングがあるからこそ自信を持って線が引け、形が作られ、画面が作られていくのです。

ドローイングの中でも、トリエンナーレに出展された作品のドローイングは紙が厚く、描いた後にトリミングしたようにも見え、「どの順番で描いたのだろう。」と、さつきさんが裏面を見せてくださいました。ふちにペンキが残っていることから、紙を切ってから描いていることが判明。サインも発見しました。裏面もかっこいいです。

登山さんは絵を描くときに画面を水平に置いてグルグルと支持体の周りを周りながら描いていたようで、天地が決まっていなかったのか、天と地両方にサインがある作品があると聞きました。みなさんはどの作品かわかりますか。

そう言われると、どの作品も疑わしく思えてきます……..。左から、「絵の楔」「絵の梯子」「絵の橋」「絵のオリオン」「絵のストレッチ」タイトルもすべてに「絵の……..」ということばが入っており、絵画である。ということを強調していますね。さて、わかりましたか?

正解は……..

正解はこちら。「絵のストレッチ」です。

180度回転させてみました。いかがでしょうか。みなさんはどちらが上だと感じますか。頭もストレッチされますね。
どちらを上にして展示するのかは、作品を手に入れた人の特権ですね。

今回の展示の中でも一際目立つ大きな作品。

こちらは「untitled」

ポストカード ほどのサイズのドローイングが大きなタブローになっていることがわかります。自分はどこにいるのだろう。という気持ちになります。

写真の部分も丁寧に描かれており、画面を構成する要素の一つとなります。

私のお気に入りのドローイングはこちら。筆跡が特に好きです。

私の絵の雰囲気と近いとさつきさんから指摘を受け、知らず知らずのうちに影響を受けているのだと感じました。
心地よいと感じるものを心に受け止めて、無意識に表現につながっているんですね。

さつきさんは登山さんの作品の中に、さまざまな作家さんのかけらを見つけるのだと言います。長谷川繁さんや、O JUNさん……..。登山さんと交流の深い作家さんです。

そんな折に、お花が会場に届き、「登山が好きそうな色や形のお花だ。」とさつきさん。

オレンジベースのやさしい色合い。補色の紫の小花が効いてます。

河合塾に来て、登山先生に出会えてよかった。絵が描きたくなるし、描き続けよう。と改めて思う展覧会でした。

心よりご冥福をお祈りします。

 

スポット詳細

会期:2022年9月5日(月)〜9月18日(日)10:00~18:00 ※会期中無休

会場:Art Space NAF (名古屋市千種区今池2-1-10 河合塾千種校北館1階)

入場料:無料

http://art.kawai-juku.ac.jp/tokai/institution/gll/

 

登山博文 1967年−2021年 福岡県生まれ。1997年愛知県立芸術大学大学院美術研究科修了。線や面、色彩、さらには描き方や描く順序など、画面を構成するさまざま要素を純化させることで成立する絵画を一貫して追求。限りなく少ない関数へ還元されたその作品は、同時に多様な解釈を許容する寛容さを備える。「引込線2013」旧所沢市立第2学校給食センター(2013年)、「あいちトリエンナーレ」(名古屋、2010年)、「放課後のはらっぱ 櫃田伸也とその教え子たち」愛知県美術館・名古屋市美術館(2009年)などに参加。

版画で作品を制作しながら、イラスト、デザイン、講師のお仕事をしています。好きな美術館は、豊田市美術館とルイジアナ美術館。愛知県在住。

Instagram:@ito_licca

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