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三重県鈴鹿市にある「和洋菓子キクノヤ」。地元の人々に80年以上愛され続けている和洋菓子店です。和菓子を担当するのは二代目の恒一(こういち)さん、洋菓子を担当するのは三代目の真治(しんじ)さん。
そして、祖父の和菓子の味を引き継ごうと奮闘しているのが、今回お話を伺った小林知史(ちふみ)さんです。代々、やさしい美味しさを引き継ぎながら三世代でお菓子づくりをされています。
「和洋菓子キクノヤ」とは
キクノヤは、知史さんのひいお爺さんが1934年(昭和9年)に創業。菊屋というお店で修行をしていたことから、名前をいただき「キクノヤ」という店名になったのだそう。
その後、二代目の恒一さんが、戦後にはじめて食べたケーキに感動し洋菓子づくりの修行を積み、技術を習得。そのことがきっかけで、キクノヤは和と洋、どちらも展開するお菓子屋さんになりました。その後、三代目である真治さんが洋菓子を引き継いだことから、二代目恒一さんは、再び和菓子を担当。代々、味を引き継ぎながら三世代でお菓子づくりをされています。
子どもの頃の夢は「キクノヤさん」
小林 知史さん
今回お話を伺ったのは、祖父の和菓子の味を引き継ごうと奮闘している小林知史さん。大学ではグラフィックデザインを専攻し、Webデザイナーとして活躍されていた彼女。なぜ、和菓子づくりの道に進まれたのでしょうか。
知史さん:「物心ついた頃から、私にとってキクノヤは日常でした。カスタードクリームを混ぜる父のそばで、保育園のバスを待っていたりしていました。父やおじいちゃんがお菓子をつくっている姿を見ているうちに、キクノヤを継ぐというのが夢になっていたんです。保育園の卒園文集にも「キクノヤさんになる!」と書いていたくらい。
中学・高校と過ごす中で、自分は絵を描くことが好きだし、デザイナーもおもしろそうだなと芸大に進みました。でもずっと心残りがあったんです。大学に通っている間も、中退して製菓学校に行こうかなと思うくらい……。でも、デザイナーとして経験を積みたいという想いがあったので、自分が納得するまでは、やり切りたいという想いがありました。」
デザイナーの道か、お菓子の道か。悩み続ける知史さんに、あるできごとが訪れます。
知史さん:「久しぶりにおじいちゃんに会う機会がありました。そこで、おじいちゃんが「僕もう80歳だよ」って言っていたんです。そのときに、本来であればもう引退しているべきだよなと思ったんです。職人1人でショーケースのお菓子を全部つくるのは、やっぱり大変なんですよね。朝も早いですし、身体を壊したら商品が並ばなくなってしまう。だから、おじいちゃんは人一倍健康にも気を遣っていたように思います。
そういうおじいちゃんの姿を見ていて「孫として何もできていない」と思ったんです。おじいちゃんは今まで弟子をとったこともなかったので、もし急に倒れたら、キクノヤの味が途絶えてしまうとも思いました。
今から和菓子づくりをはじめて、どうにかなるのかなという不安ももちろんありました。でもやってみないと、ずっとこのまま尾を引いてしまう。おじいちゃんが大事にしてきたものを、ちゃんと請け負える存在になりたい。味を引き継ぎたい。そう思い、和菓子づくりに挑戦してみよう!と決心したんです。」
味だけでなく、
お菓子づくりに対する姿勢も引き継ぎたい
こうして和菓子づくりの道に進むことを決めた知史さん。今ではおじいちゃんの工場に通い、和菓子づくりに奮闘する毎日なのだといいます。
知史さん:「味だけでなく、おじいちゃんのお菓子づくりの姿勢も引き継ぎたいなと思っています。普通だと何かをつくっているときに、妥協をしてしまったり、どうしても気持ちが込められないときってあるじゃないですか。でもおじいちゃんは違うんです。
おじいちゃんは60年以上お菓子づくりをしているんですけど、今でも自分で丸めたまんじゅうが蒸しあがると「わぁ〜うまくできた!」と喜ぶんです。ちゃんと自分がつくったものに感動できる。それってすごいことですよね。「お客さんが喜ぶように、できるだけ大きくしたいよね」とか、それを口にしながらつくっているんです。そうあるべきだし、自分もそうありたいと思っています。」
手づくりだからこそのやさしい味
今回は、和菓子をつくっている工場も見学させていただきました。創業時から使われている歴史ある建物。代々引き継がれている道具の数々。キクノヤの和菓子はすべて手づくりでつくられています。
「まさか孫と和菓子がつくれる日が来るなんて思ってもいませんでした。毎日が夢のようですよ。」と笑顔で出迎えてくれた、二代目の恒一さん。
お店の人気商品である「かりんとうまんじゅう」の製造の様子を見学させていただきました!
黒糖の生地
まんじゅうの中に入れるこしあん
黒糖の生地で、こしあんを包んでいきます。現代では包餡(ほうあん)は機械で行うことが多いそうですが、キクノヤでは手作業で行われています。
いつもこうして向き合い、たわいもない話をしながら作業をされているのだそう。知史さんも、恒一さんもとても幸せそうです。
包んだまんじゅうは、蒸し器で10分ほど蒸しあげます。
「蒸しあがるまでに、よかったら食べてね〜!」と、お祖母様がお茶菓子を出してくださいました。小林家のみなさんのあたたかさにスタッフ一同感動。
かりんとうまんじゅうが蒸しあがりました。ふわっふわです。
蒸す前と比べるとこんなにも大きくなりました。
油でカラッと揚げれば、キクノヤ自慢の「かりんとうまんじゅう」が完成です!揚げたてをいただいてみましたが、カリカリの生地にやさしい甘さのあんこがたまりません。知史さんもこの揚げたてが大好きなのだそう。もちろん冷めてもおいしいですよ。
ありがとうございました!帰る頃には、すっかりお二人のファンになってしまった筆者です。