名古屋から車で1時間ほどの距離にある、三重県いなべ市阿下喜地区。昔は濃州街道の宿場町として栄えており、今も町家の面影が残る空気感があります。
その一角に約150年以上前に建てられた古民家を改装して、2016年11月にオープンした「上木食堂(あげきしょくどう)」。地元の素材をふんだんに使い、オープン当初からお客さんが並ぶ人気店です。
上木食堂はいなべ市の知名度の火付け役でもある「松風カンパニー」の系列店のひとつ。
今回は上木食堂のランチを実食し、松風カンパニーの取締役兼、上木食堂のオーナーでもある松本耕太さん(以下:松本さん)に上木食堂の立ち上げから現在、今後のお話を伺いました。
※2022年10月取材時の情報です。
目次
独立したい気持ちの中、
舞い込んだタイミング
-愛知県出身の松本さんがいなべ市を選んだきっかけは、寺園さん(※)からのお誘いがきっかけだったとか?
松本さん:「そうですね。寺園とは名古屋で働いていたときに出会いました。「古くなって壊そうとしている旅館があるけど、お店をやりたいのであれば松本どう?独立と移住が同じタイミングにはなるとは思うのだけど。」と誘いがあって。もともと独立を考えて飲食業界に入ったのですが、どこに店舗をかまえるか悩んでいました。いいタイミングに加えて寺園の誘いもあるし、飲食店が求められている場所で店をやるほうが理にかなっているよな!という感じで決意しました。」
– 初めて建物を見たときは、どんなお気持ちでしたか?
松本さん:「想像よりも道から一本手前に建物が入っているし、商店街といってもシャッターが閉まっていて、お店はあまり開いていないんだな〜と正直最初は思いました。でも、だからといって不安はなくて。あとはもうやるだけだな!という感じでしたね。」
– もともとお店をするならこんな感じにしよう!というイメージはあったのですか?
松本さん:「独立はしたいけど、思い描いているイメージはありませんでした。実際に建物を見て、古民家という箱を使ってどのような店を作っていくかな?というようにイメージを膨らませて考えましたね。」
– 決められた条件の中、松本さんの味・色を店舗に継ぎ足していったのですね。
※八風農園 寺園風さん:https://life-designs.jp/webmagazine/happu-farm/
残すもの、加えるものが共存している
こだわりの世界観
古いものと、現代ものがミクスチャーされた店内
– 店内のこだわりを教えてください。
松本さん:「店内は、当時のままの部分を多く残しています。 塗装を塗り直しただけとか耐震の補強を入れたぐらいで、ハード面はあまり触っていません。ちょっと誤解を恐れずに言うのですが……。実は、「古民家カフェみたい!」って言われるのはイヤだったんです(笑)。流行りに乗ったつもりもないですしね。僕は、「普通はこうだよね」という感覚は好きではなくて、人と少し違う感覚でいることが好きです。昔の空間に自分が個人的に好きな椅子や照明を置いて、「古民家なのになんでこれが置いてあるの?」というように。ギャップを楽しみながら店作りをするのが好きですね。」
– 上木食堂は、松本さんがいいと思える昔のものと「好き」が共存した世界観なのですね!
松本さん:「そうですね。例えば、古民家に普通の座布団を置いていたら、ただ単に普通の座布団じゃないですか。でも、知り合いに座布団カバーの色味を伝えて、オーダーしたものを店舗で使ったり、エプロンはスタッフで揃えてみたりしています。手に入らないものは自分の気に入っている色に染めて、こだわりは人一倍強いと思いますね(笑)。」
ストーリーを感じる食器たち
– 上来食堂で使われている食器にとても惹かれました。器にもこだわりがありますか?
松本さん:「食器もこだわって買い集めていますよ。小道具屋や古道具屋、リサイクルショップなどでふらっと立ち寄った時に収集したものもあります。岩田商店を通して知り合った作家の方のお盆も主流で使わせてもらっていますし、地元の方からの頂き物も多いです。「蔵を壊すから・リフォームするから、食器いるか~?」など、オープン当初から声をかけてもらって譲ってもらっています。自分が良いと思ったものを取り揃えて、上木食堂で使っています。 」
自然と会話が生まれる店内の空気感
筆者が店内に入って感じたのは、自然と会話が生まれる空気感が心地よいことでした。例えば、大きな机を囲んで知らない人同士の「美味しいね~」が生まれる客席。スタッフの方が野菜の下ごしらえをしている目の前で、料理を楽しめるカウンターなど。お客様同士やお客様とスタッフの距離が近いのです。
「キッチンの構造上、作業する場がこの空間になるのですが、結果的にお客様から 「このお野菜は何?」と、声をかけていただくこともありますよ。」とスタッフの方は言います。昔は旅館だった店舗。だからこそ、店内はその温かい空気感すらも残しつつ、上木食堂は続いているのだと感じました。