身近な存在すぎて普段はあまり意識せずに通ってしまっている、「チェーン店」の魅力を再発見する企画「東海地方のローカルチェーン」。各地域で愛されているソウルフードがあると聞けば、草をかき分けてでもハントしに行くライター・安田淳がお届けします。
記念すべき第1回目は名古屋市中川区に本店を置き、東海市にも店舗を構える愛知のローカルチェーン「ハローキッド」。毎日店頭で挽く新鮮な肉を使って作るハンバーグは絶品で、足繁く通っている愛知県民も多いはず。
ところで、本店の駐車場で存在感を放ちまくる「カウボーイ風の巨大マスコット」の名前をご存知?親しみやすさの一方で、意外に知らないことだらけの「ハローキッド」の魅力を深掘りします!
※2024年2月取材時の情報です
目次
時代を先取りする先代社長「マスター」の存在
今回訪れたのは名古屋市中川区にある「ハローキッド 太平通店」。現在愛知県に2店舗展開する「ハローキッド」創業の地です。
70年代のアメリカをイメージした内観がとてもナイス!この店自体が1976年にオープンということもあり、「作られたレトロ感」ではなく「経年して味が出てきた」という表現が正しいです。
何を隠そう学生時代に「ハローキッド」のハンバーグをよく味わっていた筆者にとって、懐かしく感じるのが「わさびマヨネーズ醤油」。ピリッとしたわさびの風味とマヨネーズ醤油の味がマッチしていて、やみつきになる味わいです。
「たまには違うハンバーグを」と思いつつも、ついついこればかりオーダーしてしまう魔性の一品!
「実は最近、過去のメニュー表が見つかりましてね。今やうちの代名詞になっているわさびハンバーグが、『スパイシーハンバーグフェア』で提供していた商品のひとつだったことが判明したんですよ」と教えてくれたのは、2代目社長の小島崇平(こじまそうへい)さん。
各国のスパイシーな食材を使った限定ハンバーグを提供する企画のなかで、「日本代表」の「わさびハンバーグ」が断トツの人気を得て定番化していったのだとか。
小島社長はさらに遡り「ハローキッド」の歴史を教えてくれました。
小島社長:「僕の父親でもある初代社長……僕は『マスター』って呼んでます。マスターは洋菓子店をはじめ、さまざまな飲食事業を展開していました。1965年には『ハローキッド』の前身となるハンバーガーショップの経営にも乗り出したと聞いています。」
マクドナルドの日本第一号店が銀座三越にオープンしたのが1971年のことなので、「マスター」は時代の先をゆく人物であったことが伺えます。
そして1976年に「ハローキッド 太平通店」を創業したマスター。「当初はファミリーレストラン色が濃かったそうですが、次第に人気の高いハンバーグをフィーチャーするようになったと聞いています」と小島社長は話してくれました。
気になりすぎる巨大マスコットの存在
「ハローキッド」といえば、アメリカンな雰囲気の内装も魅力的。創業当初からこの雰囲気だったのか気になり、聞いてみました。
小島社長:「マスターは西部劇映画が好きで、店内の雰囲気にもよく表れていると思います。店名も『ビリー・ザ・キッド』という作品名から名付けられたんです」
この店で「西部劇」と聞いて思い起こすのが「アレ」です。
そう、駐車場にどんと構える「カウボーイ風の巨大マスコット」。店の前を走る幹線道路からも目立ちまくる「ハローキッド」のシンボル的な存在です。
安田:「前から気になっていたんですが、あのマスコットには名前があるんですか?」
小島社長:「いや、特に名前はないんです。通称「ハローキッドおじさん」って呼ばれてるくらいで。」
安田:「えっ!?あんなに目立つ存在なのに正式な名前がないのはかなり意外ですね……。開業当初から存在していたのですか?」
小島社長:「はい、当初からありました!でも、何度か取り壊して駐車場を広げるという話もあったのですよ。」
安田:「なんでまた!?お店のシンボルなのに……。」
小島社長:「創業から10年、20年経ってだんだん「ダサい」存在に変わってきた時期もあったのですよ。でも48年目に突入した現在となっては「レトロ」の領域に入ってきて、「エモい」存在になりつつあります。」
正式な名前がないことや取り壊しの危機にあったことなど、マスコットに関するさまざまな事実が判明。多くの人々に長年親しまれているシンボルを、できるだけ長く残して頂くよう社長にお願いしておきました。
まるでステーキのような食感!?
代名詞の荒びきハンバーグ!
さて、「ハローキッド」のおいしさの秘訣を引き続き探っていきましょう。
店イチオシの「超荒びきハンバーグ」は、ゴリゴリとした歯ごたえと肉本来のうまみを感じられる「粗挽きをこえた“荒びき”」。豪快で荒々しい味わいが特徴です。
そのなかでも人気を誇るのが「焦がしとろとろチーズの荒びきハンバーグ」。とろりとしたチーズが肉肉しいハンバーグと絡みます。「罪悪感」と食べた後の「肉食った感」が半端ない!
「超荒びきハンバーグ」は黒毛和牛を12.5mmという粗さに挽いた、インパクト抜群の食感。最初にオーダーした「わさびマヨネーズ醤油」が4.7mmの「中挽き」だったので、図らずしも食べ比べをしたことになります。
「12.5mmと4.7mmは別物」というのが筆者の率直な感想。12.5mmのハンバーグはステーキを味わっている感覚で、4.7mmは正統派のハンバーグを味わっている感覚でした。甲乙は付けられない!
小島社長:「ハンバーグって『工夫できるとすればソースの部分』というのが一般的な考え方で、『それでは面白くないな』と感じていました。マスターが以前より思い描いていた『ステーキみたいなハンバーグ』を追求した結果、12.5mmという荒びきにたどり着きました」
店頭で肉を挽くことにこだわっている同店において、粗さを調整すること自体は容易だったのだとか。試行錯誤の末、絶対的な名物である「超荒びきハンバーグ」が完成したのです。
ハンバーグやステーキ以外でおすすめしたいのが、ずばり「シーザーサラダ」。パルミジャーノ・レッジャーノチーズの固まりが席の前まで運ばれ、スタッフが目の前で削ってくれます。削りたてのチーズの香りが素晴らしく、心からおいしいと思える一品。
最後にもうひとつ愛でたいのは、元気なスタッフの声が飛び交う店内の雰囲気。明るい気持ちで店を後にすることができます。
「私がよく伝えているのは『先手必“笑”』。『呼ばれたら伺う』だけではなく、なにかお困り事がないか『先手を取って伺う』ことではじめて『ありがとう』に繋がると思っています」と小島社長は語ってくれました。
おいしい食事、オールディーで楽しい店内空間、そしてスタッフの明るく丁寧な接客。大型の店舗でありながら、すべてに対して妥協がない!もうすぐ創業半世紀を迎える「ハローキッド」には、「外食の楽しさ」が凝縮されています。