三重県いなべ市にある阿下喜駅から徒歩約5分。名古屋市から車で1時間ほどの距離に「岩田商店」はあります。
昔ながらの商店街の面影を残しつつ周辺には住宅もあり、坂を上がる手前に見えてくる白とシルバーの建物。ガラス面からはオシャレな小物も見えて、「ここは何のお店だろう?」と誰もが興味をひく外観です。
※2022年10月取材時の情報です。
目次
岩田商店はギャラリーとショップが展開されている店舗であり、いなべ市の知名度の火付け役である「松風カンパニー」の系列店のひとつ。2017年11月にオープンして今年で5年目を迎えます。今回は松風カンパニーの取締役兼、岩田商店を立ち上げたオーナーでもある松本耕太さん(以下:松本さん)に、岩田商店ができたきっかけやこれから目指したいことなどお話を伺いました。
岩田商店ができたきっかけは
”想い”のかけ合わせ
いなべ市に来る機会が増えるきっかけづくり
岩田商店がある阿下喜地区は、もともと街全体が商いの街。食料はもちろん、本や服などなんでもある商店街として栄えていた場所だったそうです。実際、岩田商店の建物も以前は金物屋兼住居であり、その名残を店内のディスプレイに活かしていました。「岩田」という名前も、許可を得て当時の店名をそのまま使っています。
また同地区には、松風カンパニーの系列店である「上木食堂」があります。上木食堂は松本さんの独立第一歩となる、地元の野菜をふんだんに使い、古民家を活かした人気飲食店。岩田商店と上木食堂は徒歩5分ほどの距離にあります。
– なぜ、阿下喜にギャラリーを作ろうと考えたのですか?
松本さん:「上木食堂をはじめて半年ぐらい経った時に、今の大家さんのお知り合いの方から「ここを何かで使ってくれないか」と、直々にお願いされました。上木食堂は名古屋方面のお客様に来てもらうことも多く、ご飯を食べてとんぼ返りされる人も多くいました。その頃は食堂がオープンしてまだ半年で、おすすめスポットや面白い場所など、この近辺のことを僕自身もあまり知らなくて。特に6年前まではそのような場所もなかったので、自分でなにかもう1つやろう!とは考えていました。
この場所にギャラリーがあれば、毎月展示の入れ替えなどをすれば色んな人が出入りするじゃないですか。作家さんやその作家さんが知り合いを呼んでくれるなど、飲食店とは違った人の導入があって面白みがあるのでは?と思いました。」
– この立地にギャラリーがあるのはとても斬新なアイデアだと感じます。
松本さん:「ご飯を食べに来るだけじゃなくてその作家さんの作品を見に来るなど、別のアプローチでいなべ市に来る機会が増えたらいいなって思っています。」
実際、筆者がランチで上来食堂に訪ねたとき、順番待ちのお客様に「岩田商店もあるので行ってみてください。」と促されている様子も目にしました。待ち時間にアート鑑賞も良い流れだなぁ〜と感じます。
地元にも、物づくりやアートに触れる機会を!
– この近辺にギャラリーはあまりないですよね。一見住宅街の中にポンッと異空間な場所があるので、地元の方にとっても新鮮なのではないでしょうか。
松本さん:「岩田商店立ち上げの際にタックを組んでいた女性スタッフが、いなべ市で生まれ育った地元の人でした。彼女が言うには、「子供の頃にここに住んでいて、文化的なものに触れる機会が全然なかった。」と言っていました。アートやクリエイティブに興味がある人にとっては、物足りなさを感じる場所でもあったらしくて。地元に文化的なものがなく、「ここにギャラリーを作りたい!」という彼女の強い想いがあったからこそ出来上がった場所でもあります。僕一人の想いだけではないのですよ。」
アートを身近に感じられる
「岩田商店」
想像以上に広い!岩田商店のギャラリー&ショップスペース
岩田商店を訪れて1番驚いたことは、店舗内が想像以上に広い点です。1階には大型のギャラリースペースとショップがあります。ショップで販売されている商品はアーカイブとして、過去に展示されていた作家さんの作品が販売されています。
またギャラリースペースはストーリー性を表現するには十分な広さです。訪れるたびに違う作品が並んでいるのが想像できて、作家さんを知るきっかけにもなり、自分の「好き」と出会える場所だと感じます。
ものづくりをする人にとって挑戦できる2階スペース「ニーエフ」
– 2階スペースは通称「ニーエフ」と呼ばれているのですね。こちらの空間ができたきっかけや用途を教えてください。
松本さん:「2階を作ったきっかけは、今は作家活動をしている岩田商店の元スタッフの一言です。「1階のスペースは広すぎて、中堅ぐらいの作家じゃないと個展をするのは難しいかも。3畳ぐらいの狭いスペースなら、点数が少なくても気軽に個展ができるのではないか?」という提案でした。物づくりをする方にとって、チャレンジの幅をより広げるための空間がニーエフです。」
– 個展をやりたい人にとっては、1階は少しハードルが高い広さなのですね。岩田商店では個展は誰でもできるのですか?
松本さん:「誰でも挑戦できますよ。自分のキャパの範囲を選んで借りて、「まずはこの空間だけで自分の展示をしてみよう!」とチャレンジできるスペースです。初めて個展をするならば、スタートアップとしては狭いスペースだとやりやすくなります。2階は3畳の部屋が2つに加えて、6畳、8畳の計4部屋です。物づくりをする人にとって発表する場所があれば、さらにさまざまなことに挑戦できます。目標や見てもらうきっかけが大事なのです。2階で展示の幅を広げて、そしていつか作家として成長したら1階で個展をしてみたい!という目標になればいいですね。色んな人に2階は使ってもらいたいです!」
– 物づくりする方にとって岩田商店は挑戦できるフィールドがあり、目標にもなる場所ですね!
岩田商店 ✕ 作家さんたち
岩田商店の月替りのイベントは、松本さんと繋がりがある作家さんや友人のつながり、松本さんが好きな作家さんに「個展をしませんか?」と依頼しているとのこと。岩田商店で個展をされた数ある作家さんの中から、筆者が気になった方をピックアップしました。
間芝 勇輔さん
岩田商店のロゴもデザインされて、松本さんの友人でもあるのだとか。
遠山 敦さん ✕ 小島 邦康さん
展示会に合わせた出版物。かわいいイラストとともに阿下喜の魅力が綴られています。
木村 修さん
阿下喜出身であり、地元でも有名な建具職人の匠。上木食堂でも使っている八角のお盆も木村さんの作品です!
スタジオ ワニさん
長崎県波佐見町で夫婦で活動する陶芸作家。古伊万里のモチーフが愛らしいです。
櫻井 祥子さん
愛知県西住のイラストレター。岩田商店での個展のために作られた、オリジナルトートバックです。
今年で5周年!岩田商店が考えるこれから
– 今年で5周年を迎える岩田商店。これからの展望を教えてください。
松本さん:「幅広い世代はもちろんですが、特に中高生や大学生など若年層に見てほしいという想いがあります。岩田商店の展示を見て、「自分も好きなものを続けてみよう!」とか、「こんな大人がいるんだ〜」って思ってくれたら嬉しいですね。
また20代・30代の年代にも、アートに触れるきっかけになってもらえたら幸いです。岩田商店の展示が興味に繋がって、作品を購入して飾るといった楽しみや、気に入ったものを所有する楽しみを体感してもらいたいですね。そんな意味も込めて、色んな世代の人たちがさまざまな感性に触れる場所でありたいです。いなべに訪れた方が、「いなべ市に行くなら、岩田商店でこんな展示しているから寄って行かない?」というような、もっと楽しめる場所でありたいな~と思っています。」
5周年を迎えるにあたり、今後どんどん大きく展開されていくことが予想され、さまざまな可能性を秘めている岩田商店。店内は小さな美術館のようで、時間を忘れるほど見応えがある展示の数々です。「見方がわからなくても、ただ好きで全然いいんです!」と松本さんは言います。いなべ市を訪れる際は、気軽にアートを楽しんで、あなたの「好き」を見つけてみてはいかがでしょうか。