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名古屋を代表する喫茶店のひとつコンパル。昭和22年の創業当時から変わらないコーヒーと名物のサンドイッチを求めて、多く人々が訪れるレトロな純喫茶です。
地元の人々はもちろん、遠くからのファンも多い名店ですが、コンパルがどんな歴史を歩み、こだわりがあるのか知らない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回はコンパル大須本店へお伺いして、社長の若田秀晴さんと、店長の播磨良明さんにお話をお聞きしました。
昭和22年創業。
はじまりは大須の一角から。
コンパル、大須本店は、名古屋市営地下鉄「上前津駅」8番出口より徒歩5分ほど、万松寺の北にあります。
入り口横には食品サンプルが並び、懐かしさを感じます。
落ち着いた照明の店内は、ビロードの椅子や飴色のテーブルなど、昭和レトロ感たっぷりの雰囲気を醸し出しています。
取材時は平日の午前中にも関わらず、お一人で訪れる常連さん、お友達同士、商店街で働く人々など、さまざまなお客さんで賑わっていました。
社長・若田さんのお父さまである創業社長がコンパルをオープンしたのは、戦後間もない昭和22年のこと。戦争で中国へ行ったときに、「金春」という繁盛している飲食店があったそうです。日本に帰ったときに、金春のように繁盛させたお店を開きたい、そんな願いを込めてコンパルと名付けました。
若田さん:「私の父は、戦後復員して今の国際センター駅近くにあった喫茶店「森永キャンデーストア」に就職しました。そこで1年ほどコーヒーを覚えた後、昭和22年に独立して大須にある美容室の一角を借りて喫茶店をはじめたら、とても流行ったそうです。それで翌年の昭和23年に現在の場所へ移り、最初は5坪のスペースを借りて営業をはじめると、お客さんが全員ついてきたんですね。その後、店舗を拡張し、昭和57年に改装され現在に至ります。」
店内は改装されていますが、随所に昭和20年代の面影が色濃く残っています。椅子は開店当初から布を張り替えて使い続けているのだとか。床の木材も当時のものを活かしています。
中でも注目して頂きたいのが、店内奥にある青いタイルの壁です。実は、この場所には小さな池があり、このタイルを敷きつめていました。その名残りで壁面に使われているそう。
リメイクした壁から、その歴史が感じられます。
若田さんによると、昔はソフトクリームをつくる機械や熱帯魚が泳ぐ水槽があったそうです。今とはまた少し違った雰囲気だったのですね。
お店の一角には、ピンクの電話が……!飾りかと思いましたが、10円を入れると現在もちゃんと使えますよ。小さいお子さんから「これは何?」と聞かれるのだとか。
昭和30年代。開通したばかりの地下街に次々と出店
コンパルのコンセプトは「メトロで結ぶ」。名古屋市内に9店舗展開しており、地下鉄の駅近くや地下街にお店を構えています。
大須で開業してから10年後、最初に名古屋駅、続いて栄に出店し、高度成長と共に地下街に店舗を増やしていきました。地下鉄が開通したばかりの昭和30年代は、まだ地下街という文化はなかったので、コンパルはいち早く地下で営業をはじめた先駆けだったといえます。
名古屋市内にだけ出店するのにも理由がありました。
若田さん:「お客さんにいいものを提供したい、というのが父のモットーですから、クオリティ管理のためです。口に入れるものは、ごまかせないと、父に言われましたね。」
創業から変わらない味わいのコーヒー
コンパルで提供されるコーヒーは、深みのある濃厚な味わいとまるみのあるコクが特徴。創業当時から変わらないこだわりの一杯です。
毎日、社長の若田さんがお店をまわり、コーヒーの味わいを確かめて、状態を見てブレンドや焙煎を調整しているそうです。これは創業社長のときからずっと受け継がれています。
コーヒー豆は独自の配合でブレンドしていますが、豆の種類や割合については、企業秘密。もともと創業社長と若田さんしか知らなかったそうで、現在も社長や一部の限られた幹部しか知りません。
学生時代のアルバイトを含めて、16年ほど携わっているという店長の播磨さんですが、社員でもどこの豆を使っているか全くわからないそうです。すでに工場で挽いた豆を店舗に配達されるので、豆自体をほとんど見たことがないとのことでした。
コンパルでアイスコーヒーを注文すると、このようにデミタスカップに入ったコーヒーと氷の入ったグラスが運ばれます。ご自分で熱々のコーヒーをグラスに注いでアイスコーヒーをつくるのがコンパルスタイル。
急速冷却することによって、酸化しにくく、ホットコーヒーのような風味と香りを味わいを楽しめます。これも創業当時から変わりません。
上手に入れるコツは、思い切って一気に注ぐこと。氷が溶けたときに、口に含んだ濃さが変わらないよう、ホットコーヒーより濃く抽出しています。
お好みでフレッシュクリームを入れます。こちらのクリームは、添加物を加えず生乳を乳脂50%以上に濃縮してつくられています。市販の生クリームよりも乳脂肪分が濃く、原価が高いため、他ではなかなか味わえないそうです。
コーヒーの風味とクリームが引き立て合う、まろやかな味わいでした。
名物のエビフライサンド
コンパルのサンドイッチメニューは全部で25種類ほど。中でもエビフライサンドは名古屋名物としても有名ですよね。本格的なサンドイッチメニューを展開しはじめたのは昭和35年のこと。開発の経緯などをお伺しました。
若田さん:「創業当初はコーヒーを専門としており、簡単なトーストやサンドイッチも提供していました。昭和33年頃、名古屋駅にサンドイッチをメインにした喫茶店を出店するため、神戸のレストランで勤務していたシェフをスカウトし、メニュー開発をしたのがはじまりです。」
その後、創業社長、現在の社長、工場長が開発に携わり、数々のサンドイッチメニューを生み出しました。エビフライサンドが誕生したのは、昭和63年のこと。しばらく経ってから、タレントのタモリさんが「名古屋といえばエビフリャーだ」と発言したことにより、テレビや雑誌に取り上げられ一気に認知度が上がったそうです。
大きなエビフライ3本、ふんわりたまごとキャベツが挟まれた、ボリューム満点なサンドイッチです。自家製のカツソースとタルタルソースが具材とマッチして、お腹も心も大満足ですよ。
サンドイッチはオーダーを受けてから、すべて店内で手づくりしています。中に挟むソースやドレッシングなども自家製のものを使い、おいしさと安心・安全にこだわっています。
ちなみに、ソース全般は自社の工場でつくっていますが、レシピは企業秘密。どこのパンを使っているかも、もちろん企業秘密。ただ、パンの製造会社は、コンパルのために特別なパンをつくっていると、教えてくださいました。
エビフライサンドだけではない!人気メニュー
店長の播磨さんに人気メニューを伺いました。
播磨さん:「やはりエビフライサンドを筆頭に、カツサンドとミックスサンドが人気ですね。意外とホットドックも人気で、こちらは昭和30年に誕生し、食事メニューの中で一番古いと思います。」
横から見てもすごいボリュームですね。具材はシンプルにソーセージとキャベツですが、しっかり下味をつけたキャベツの焼き加減とパンのフワフワ感が合い、食べ応えがあります。
サンドイッチメニューはすべてテイクアウト可能ですよ。
1日の中で最もにぎわうモーニングタイムは、ドリンク代にプラス130円でハムエッグトーストを提供しています。
若い人たちに人気のクリームソーダ。「特別ではなく、オーソドックスなクリームソーダです。」と播磨さん。ほかにも、カフェオレや抹茶ミルクなども人気です。
コンパルのメニューは、レシピや見た目などは、誕生から一切変わっていないそうです。本物の昭和レトロを味わえますよ。
「大須の街が今のように地元の若い人や観光客が訪れるようになったのは約20年前。それまでは、シャッターを閉めているお店が多く、環境が変わりましたが「おいしいものを提供したい」というスタンスを貫いてきました。街が様変わりしても、環境に流されることなく、スタンスを変えずに、同じスタイルでいきたい」と社長の若田さんは話してくださいました。
こだわりのメニューをノスタルジーな雰囲気の中で味わってみてくださいね。
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