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名古屋鉄道名古屋本線「呼続」駅から徒歩7分、2022年1月にオープンした「街と珈琲」。
18年にわたり親しまれてきた「隠れ家ギャラリーえん」を閉め、新たな形としてオープンしました。
今回は「街と珈琲」の立ち上げの経緯や想いなどについて、代表の服部 浩太郎(はっとり・こうたろう)さんにたっぷりお話を聞きました。
「街と珈琲」とは?
白塗りの壁に青が映える店構え。道路に面して大きく開かれた窓は、お店と外の境界があいまいに感じるほどです。形と色がさまざまで可愛いコーヒードリッパーが並ぶ様子も見えます。
1階にはカウンター4席、靴を脱いで上がるテーブル席、そして座敷があります。2階はイベントスペースとして貸し出しを行っています。
店内には、えんじ色の珈琲ロースター(左奥)をはじめに、コーヒーに関する本もそろっています。テーブル席中央に配された木は本物なのだとか。
天井が高く、窓の外からそよぐ風を感じながらゆっくりとした時間を過ごせます。
美味しい食事
ちょうどランチ時ということもあり、まずはお惣菜がいただける定食をオーダー。
野菜はできる限り、無農薬・無肥料または有機肥料を使った野菜で調理しているそう。お惣菜それぞれで味付けが異なるので、一口食べては白米を頬張るとお口の中が幸せでいっぱいになります。
たっぷり盛られたお米があっという間になくなっていきました!
こだわりのおやつとコーヒー
食後の楽しみと言えば、おやつ!
「街と珈琲」では、バナナ焼きを楽しむことができます。なんでも、このバナナ焼きは服部さんご自身が毎週のように通って食べていたものだとか。
川名にある「パピリカ」(現在は姉妹店の関係)で見かけた、小学生がおやつとして買って食べる姿や、お母さんが子どもと一緒に買いに寄っている光景が印象強く、「そんな光景を呼続でも!」と、販売を決めたそうです。
一口飲んで深煎りのブレンドとは思えない味に驚き。深煎りイコール苦味という概念をくつがえす一杯。服部さんによると、甘みとコクを引き出す焙煎をしているからこそ出る味なのだとか。
どのコーヒーにしようか迷った方に、オススメです。
店内でゆっくり会話しながらもよし、テイクアウトで自宅で楽しむのもよし。自分に合った方法で気軽に楽しむことができます。
街づくりとしてのカフェ
「街と珈琲」の立ち上げ以前に、「隠れ家ギャラリーえん」というカフェを運営されていた服部さん。今のお店がある場所から目と鼻の先にある前の以前の店舗は、18年の間、常連さんや近隣の方に親しまれてきたカフェでした。
築70年の古民家(2003年の立ち上げ当初)を活用し、手作りランチや、コーヒー・スイーツなど現在の「街と珈琲」でも人気のメニューや、その他にも貸しスペースとして個展やリサイタルなどのイベントも行われていました。
そんな中、当時から取り組まれていた、服部さんのライフワークでもある「街づくり」が起点となり「隠れ家でない、もっと開かれた場所でカフェをやろう」という想いから、「街と珈琲」立ち上げプロジェクトが始動しました。
-「街と珈琲」の立ち上げではクラウドファンディングという手段をつかわれたそうですが、なぜでしょうか?
服部さん:「子どもが生まれる前から、13年間ほど街づくりの活動を行ってきました。
はじめは地域の方に声をかけて、30代〜70代のメンバー5、6人が集まりました。今は10人ほどが中心となって活動をしています。例えば、季節に1度新聞を発行したり、街を散歩するイベントや、年2・3回のマルシェなどの企画運営を行っています。
街づくりの活動は、自分が生まれ育った呼続に商店街を復活させたい想いでスタートしたのですが、とんとん拍子ですすむような話でもなく、活動に行き詰まりを感じていました。
自分一人でやるには勝手過ぎるというか、街の人を巻き込みながら活動の認知度を上げていく必要があると考え、クラウドファンディングをスタートしました。」
服部さん:「隠れ家ギャラリーえん」をしていた当初から、どんなことをしたいかという話をよくお客さんとしてました。
近所に大手ショッピングセンターができたり、以前に比べて通りを歩く人が少なくなったり、知っているお店が駐車場に変わったり、自分が大切にしていた地域の活気が失われていく危機感みたいなものがあって。
クラウドファンディングをはじめた当初は、満額集まるか不安に思ったこともありましたが、計画していた期間内に達成することができました。
「隠れ家ギャラリーえん」の常連さんや、イベントスペースを利用してくれた作家さんなど、たくさんの方が支援に参加してくれました。
クラウドファンディングのリターンは、あえてパキッとした形がないものを対価としました。
半ば実験的でしたが、支援をしてくれた方々が目に見えないものに魅力を感じたり、自分が住んでいる以外の土地にあるカフェを応援しようと思ってくれたことで、目指していることの方向性が間違っていないのだなと確かめることもできました。」
-街づくりを行い、地域が活性化されることでどのようないいことがありますか?
服部さん:「地域に知り合いがいるというのはとても大切なことで、子どもの世代に残していかなければならないものだと思います。
例えば、自分が住んでいる街に大人の人で知り合いがいるというのは、平たく言うと防犯になるし、ひとりではない、寂しくないということです。
そういった人のつながりで芽生える心強さが、多く芽生えるほど、コミュニティーが大きくなったり、更に派生して別のコミュニティーができることにつながります。
僕が子どものころに感じた地域と共に生きる感覚をもう一度復活させ、子どもたちの世代に残していけるよう、人と人が繋がれる場所をつくっていきたいです。
-カフェを「街と珈琲」として新たに立ち上げることで、具体的にどのようなことを実現されるのですか?
服部さん:「商店街のようにたくさんお店を作るのは難易度が高い。そこで、商店街に詰まっている要素を「街と珈琲」に盛り込むことにしました。
コーヒー、おやつ(バナナ焼き)、お惣菜という街と人をつなぐ要素の他に、「お店の中の小さな商店街」をつくることにしました。
ひとつ40㎝四方ぐらいの木の箱を小さな商店街の1個分の敷地にみたて、この中を自由に使って色々なことができる場所として提供します。そしてこの箱が何個も積み重なって小さくても、大きな商店街になる。ということです。」
-「隠れ家ギャラリーえん」をオープンされる前は何をされていたのですか?街づくりを考えるということに繋がっているご経験などがあれば教えてください。
服部さん:「はじめから自分で商売をしようと考えていました。大学を卒業した後に、コーヒーの焙煎をするお店で1年働いて「隠れ家ギャラリーえん」をオープンしました。
実家が自営業だったこともあり、自分のお金は自分で稼ぐということを自然に感じていました。」
-建築学科のご出身なんですね。なぜコーヒーを選んだのですか?
服部さん:「大学在学中の99年にヨーロッパへ研修に行く機会があったのですが、その時にイタリアで飲んだエスプレッソがすごくおいしくて、衝撃的な体験でした。
元々コーヒーは好きでよく飲んでいたのですが、研修がきっかけで、卒業後は建築関係か、コーヒーかという二択になりました。
最終的にコーヒーを選んだのですが、街づくりをする中で、建築学科にいた時に勉強したことが役に立っているなと感じることがあります。
例えば、建築を学んでいると、都市計画やコミュニティーについて学ぶ時間もあります。建物は街の中に立つものなので、地域のあるべき姿や、そこに住む人について考えている今に繋がっているなと感じます。」
-仕事をしていて嬉しい瞬間について教えてください。
服部さん:「そうですね。お客さんが珈琲美味しいと言ってくれた時ですね。
他には、お客さん同士が知らない間に仲良くなっている時。靴を脱いで上がるスタイルは、人との距離を縮める効果があるようです。
あと、店舗の窓の側に立っていると小学生が「マスター!」と手をふってくれる時です。外に開けたお店になっているなと実感する場面でもあります。」
今後について
-今後どのようにしていきたいですか?
服部さん:「街を賑やかにすること、コーヒーを飲んでもらうこと。将来的には商店街を復活させることです。
呼続の商店街には空いている店舗が多くあるのですが、テナントとして貸し出しているわけでもない。僕たちが取り組んでいる街づくりの活動をより多くの人に知ってもらい、人と人がつながることで、街を賑やかにしていきたいです。」
今回お話を聞く中で、服部さんの「地域のあり方」に対する考え方に触れ、自分の街はどうだろう?と考えるきっかけとなりました。
もし自分の街に、親しく立ち話ができる人がいたり、気軽に立ち寄ることができるお惣菜屋があったら、日常が今よりもっとてかけがえのないものになるんだろうなと感じました。
「街と珈琲」を通じた、地域活性化の活動がどのように展開していくか、目が離せません。自分の地元でなくても、会いたい人やモノ・コトがある呼続に定期的に足を運んでみたい気持ちになりました。
服部さん、お忙しい中お時間をいただきありがとうございました。