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歴史ある老舗喫茶店が点在する名古屋。今回ご紹介する「喫茶まつば」は、戦前の昭和8年に円頓寺商店街に創業しました。名古屋めしの一つである小倉トースト発祥の店から味を受け継ぎ、名古屋市内にある喫茶店の中では最も古い店といわれています。
80年以上続く伝統を守りながら、3代目店主舟橋和孝さんの新しい感性で自家焙煎コーヒーを提供し、街の喫茶店として親しまれています。
円頓寺商店街の中に店を構える「喫茶まつば」。2018年、店舗をリニューアルオープンしました。
店の前にあるオープンテラスが目印です。
木目とレンガの風合いがナチュラルな印象の店内は、席の配置にゆとりがあり、ゆったりとくつろげる空間です。テーブル席と電源コンセント付きのカウンター席が設けられています。
店舗のリニューアル時に、インテリア類をすべて新調しましたが、絵は以前の店でも飾れていたものです。
現在のインテリアと馴染んでいるので、ぜひ注目してみてくださいね。
昭和8年創業。3代続く街の喫茶店
はじめに、喫茶まつばさんの歴史についてお伺しました。
舟橋さん:「私のおじいさんが栄にあった「満つ葉」というお店で10年ほど勤めて、のれん分けという形でこの場所に店を開いたのが昭和8年(1933年)のことです。創業以来、自家焙煎のコーヒーを営んでいます。私の父が2代目店主として営んでいましたが、2018年にお店のリニューアルと同時に、私が3代目としてお店を引き継ぎました。」
– 舟橋さんが3代目として「喫茶まつば」を引き継ぐことになった経緯を教えてください。
舟橋さん:「祖父の代から続く喫茶店を両親が営んでいたので、お店を継ぐことは必然だと思っていたんです。ただ私が大学を卒業するとき、父はまだ若かったこともあり、外で勉強しようとコーヒー卸会社に就職しました。本当はもう少し早く店を継ぐつもりでしたが、ちょうど円頓寺商店街にかつてのような活気がなくなってしまい、決断できませんでした。」
名古屋で最も古い商店街といわれる円頓寺商店街。昭和初期から戦後にかけて、通りの両側には、お店がぎっしり立ち並び、繁華街として賑わっていました。しかし平成に入った頃、それぞれの店主の高齢化、後継者問題により、「シャッター商店街」と呼ばれるようになったそうです。
舟橋さん:「当時は大型スーパーの出店も重なり、商店のシャッターがどんどん降りていく中、円頓寺に来る人たちも減ってきて、今ここで商売をやるのも……。私自身、結婚して家庭を持ち、色々な事情もあって、タイミングが合いませんでした。」
そんな円頓寺商店街に新しい風が吹きはじめたのは、今から10年ほど前。名古屋駅からそう遠くない場所にありながら、下町情緒が残るこの古き良き場所で、店をはじめたい人と空き店舗のオーナーを繋げてくれる建築家の市原さんの取り組みがきっかけでした。円頓寺に少しずつ新しい店ができ、懐かしさと新しいカルチャーが共存した活気ある商店街となったようです。
舟橋さん:「急に変化したわけではなく、この10年でじわりじわり雰囲気が変わっていきました。円頓寺の古い人たちが新しいものを受け入れる柔軟性があった感じがします。
私はここの円頓寺商店街で生まれ育ち、昔からの商店街を知っていますから。外から来た人たちの頑張りだけではなく、自分も一緒に商店街を盛り上げていきたい思いがあり、店を継ぐ決心をしました。」
舟橋さんは、コーヒー卸会社で20数年の勤務を経て3代目に。同時に店舗を改装し、2018年に新たなスタートを切りました。
店のリニューアルと共にコーヒーの味も新たに
現在、コーヒー豆は全部で8種類ほどそろえています。会社員時代に焙煎業務の実績を積み、コーヒーマイスターの資格を持つ舟橋さん。これまで培った経験と知識をいかし、コーヒー豆の選定から焙煎まで、創業以来の味を一新されました。
– コーヒーのこだわりを教えてください。
舟橋さん:「名古屋をはじめとする中部地区の老舗コーヒー屋さんは、苦いタイプのコーヒーが主流で、未だに酸味を好まないお客さんがほとんどです。元々コーヒーは苦いものではなく、焼いたときの焦げから苦味が発生するので、焼けば焼くほど特徴あるコーヒーもすべて苦くなり、味の差別化がなくなるんです。
せっかく会社でコーヒーを学んできたから、昔ながらのコーヒーを提供するのではなく、コーヒー本来の特徴である酸味をわかりやすく引きだす味を追求しました。」
舟橋さん:「スペシャルティコーヒーやサードウェーブを専門にする店というより、当店はもともと「街の喫茶店」というコンセプトからきています。万人に飲みやすいよう考えて、メインの「マイルドブレンド」は、すっきり飲みやすい味に焙煎ブレンドしました。ただ、以前からのお客さんのために、少し苦めの「クラシックビターブレンド」もつくりました。あとは、苦いのが苦手な方に「ライトブレンド」もあり、ブレンドは3種類用意しています。」
高品質の豆を仕入れ、鮮度もこだわっています。コーヒー豆は焙煎した直後よりも、3日位たった方が、味がはっきり出やすいそう。焙煎は、コーヒー豆の個性を最大限にいかすことを大切にされています。
ストレートコーヒーは4種類。舟橋さんご自身が好きな味わい、産地や味のバランスを考え個性豊かなコーヒー豆を厳選しました。
月替わりのマンスリーコーヒーも。12月は、酸味と滑らかな質感・甘味を感じるフルーティーな一杯が味わえます。
コーヒーは注文が入ってから、豆を挽いて1杯ずつ丁寧に淹れてくれます。
舟橋さんは、会社員時代に直営喫茶店で店長を務めたり、喫茶店開業支援としてコーヒーの淹れ方を指導したりとさまざまな業務に携わりました。20年以上経験を積んだ熟練の技でハンドドリップしていきます。
丁寧に淹れられたコーヒーは、雑味がなくすっきりした口当たり。2杯目以降は半額になるサービスも◎そのほか、エスプレッソやカフェラテなどのアレンジコーヒーも多彩にそろえていますよ。
伝統の味が残るフードメニュー
サンドイッチやトーストのフードメニューは、舟橋さんがお店を引き継いだときにほとんど改良されましたが、創業当時から変わらないのが「元祖小倉トースト」。小倉トースト発祥の店といわれる「満つ葉」から受け継いだ伝統の味です。
サクッとしたパンに、中はみずみずしい粒あんが特徴。シンプルな味わいながら噛むほどにやさしい甘味を感じられます。
モーニングは(8:00〜12:00)は、ドリンクの値段でトーストやゆで卵が付く「モーニングサービス」、ドリンク代+280円で食べ応えのある「モーニングセット」が注文できますよ。
円頓寺商店街を見守り続けている喫茶まつばは、懐かしさと新しさが融合するお店です。舟橋さんが追求するこだわりのコーヒーをぜひ味わってみてくださいね。