【Rinakoより愛を込めて。NYC日記】刺激を求めて「NY Art Book Fair」

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掲載日:2019.12.10
【Rinakoより愛を込めて。NYC日記】刺激を求めて「NY Art Book Fair」

夏が過ぎ去って、少し気持ちが落ちているニューヨーカー達は、秋になったからと言っても、まだまだ刺激を求めている。そんな彼らは、こぞってエネルギーが集まるとある場所へと向かう。そこは「NY Art Book Fair 」だ。現在は、日本でも開催されるこの祭典は、ニューヨークではじまり、今年で14回目を迎える。各国から大手出版社やインディペンデント パブリッシャー、若手のアーティストなどが集まる。単に本やアートを売り買いする場所だけでなく、業界人たちが名刺を渡し、コネクションをつくる場ともなっていおり、会場はごった返している。

雑誌の編集をしていた私もわかることだが、自分の想いを乗せて本を1冊作るのは、想像を絶するエネルギーが必要だ。自分の血と涙を注いだ一冊。

期間中、会場となるMoMA PS1には、アーティスト達が魂込めた渾身の本が、何万冊と集まり、建物自体からメラメラと炎を放っていた。そんなエネルギーの熱でヒートアップしている場所へと向かってみた。

LISSON GALLERY / THE ANNOTATED READER(レッスン ギャラリー/ジ アノテーション リーダー)

NY Art Book Fair

巨大な会場を迷路のようにぐるぐる回っていると、一体私はどこにいるのか分からなくなった。蟻の巣のような建物で一番大きなスペースを制していたのが、ここ【THE ANNOTATED READER】。ほかのブースのほとんどは、1畳程のスペースなのに、ここは6畳以上のスペースを使っており、通り抜ける人々は足を止める。

NY Art Book Fair

壁一面に飾られた束をよく見てみると、どれにも注釈が付いていた。その束をじっと見ていると、店番をしていた女性がこう説明してくれた「アーティストやデザイナー、ライターそしてミュージシャンなどクリエイター達に“もしも終電を逃してしまったら”その少ない時間で、この文章を読む人に何をしてあげたいと思うかを書き込んでもらいました」

細かくコメントしてあるページや、下線を引いただけのもの、挿絵やイヤフォンと一緒にスキャンしていたりと、各ページを担当した人が何を想い、書き込んだのか、その工程を考えると、想像は無限に広がる。

“あの有名作家が読む愛読書5選”や、“死ぬまでに読みたい本!”なんて企画は、正直もう見飽きた。私が知りたいのは、アーティスト達がその本のどこを読んで、何を頭の中で感じて、どう向き合ったのか。そこが一番重要なのだ。読む人によっては、さらりと通り抜けてしまう一行も、他の人からしたら、人生を変える言葉になっているかもしれない。答えにありつくまでのヒントが書いてある教材のようで、ちょっと特した気分になった。

NY Art Book Fair

展示のど真ん中に設置された自動販売機では、全てのページのPDFが入ったUSBが購入可能。

NY Art Book Fair

この本を企画したアーティストのライアン・ガンダーと、評論家で作家のジョナサン・P・ワットに最優秀賞を与えたいと、私は思った。このような本を作ってくれてありがとう。

【LISSON GALLERY / THE ANNOTATED READER】
住所:504 West 24th Street New York 10011(NewYork)
   138 Tenth Avenue New York 10011(NewYork)
営業時間:10:00~18:00(火~土)(月曜日は予約制)
web:https://www.lissongallery.com/news/the-annotated-reader-at-nyabf

Silent Sound / Olaf Breuning(サイレント サウンド/オラフ・ブルーニング)

NY Art Book Fair

ここMoMA PS1には、さまざまなブースがあるのだけど、中でも私が一番楽しみなのが、入って直ぐ目に入るドーム型の会場だ。その隣に設置してあるテントは、ラッシュ時の通勤電車のように混み合っている。人混みに負けて素敵なものを見過ごしてしまいそうで、なんだか、惜しい。ゆったりとスペースがあるここでは、本達が伸び伸びと自分たちの魅力を伝えているように感じる。

NY Art Book Fair

その中でも一際目立ったのが【Silent Sound】。テーブルの上に並んだ写真が何やら笑っているように見える。野菜が顔のようになっている写真を見てクスッと笑っていると、ここのクリエイティブディレクターであるコリーが「これは僕のお気に入りなんだ」と声をかけてくれた。「僕たちはロサンゼルスを拠点とする小さな出版社なんだよ。これは、スイス出身のオラフ・ブルーニングが、フードアートの可能性を芸術的な視点から実験的にインスタグラムにポストしたことからはじまったんだ」

NY Art Book Fair

小さい頃、雲は色んな形に見えた。大人になってからは、目まぐるしい生活に追われる日々で、もうどの形にも見えない。
ちょっとした幸せは、特別に旅行へ行くとか、色々なものを見たり体験するだけではなく、意外と日頃にこっそり隠れているのかもしれないと気付かされたのであった。日常に潜んでいる小さな喜びを見逃さず、毎日心に余裕を持ちたい。

【Silent Sound / Olaf Breuning】
instagram:https://www.instagram.com/silentsound/ (Silent Sound)
https://www.instagram.com/olafbreuning/ (Olaf Breuning)
web:https://www.silentsound.us/product/olaf-breuning-faces

homie house press(ホーミー ハウス プレス)

NY Art Book Fair

さまざまなブースを回って、もうお腹いっぱいと出口へ向かっていると、最後に見ようと飛ばしていた場所があった。あの寿司詰め状態のエリアだ。人も物も多く、頭がぼーっとしてきた時、奥の方で女の子達真剣に話しを聞いている店があった。

NY Art Book Fair

「私達は、民族や人種、移民、政治、性別などをフォトジャーナリズムを通して世に発信しています」淡い色の写真が表紙に使われている“Clear as Black”を手に取ると「これは、私がプエルトリコに行って、アルビノに悩まされている人々にインタビューした作品よ。プエルトリコは今、世界で一番アルビノを持病している人が多いの。私自身、移民の娘としてコロンビアから移り住んで、“ホーム( 居場所)”をつくることに難しさを感じていたの。“私の居場所を作りたい”とそう思って始めたのがこの小さな出版社よ」

社会に直面した題材をガーリーなエディトリアルと淡い色の写真を使うことで、ジャーナリズムを読んでいる!というお堅い入りではなく、ZINEを読んでいるという少し気楽な気分で読むことができるから、若い読者への反応もいいだろう。

NY Art Book Fair

「どうして、これを題材にしたのですか」一人の少女が質問した。

アメリカでは、ディスカッションの場が多い。そのことに対してどう思うのか、それが間違っていても構わない、自分がどう感じたのかを伝えることが大切なのだ。意見がない人間は、いなくても同然と思われてしまう。日本で生まれ育った私には、それがとても難しく、まだまだ訓練が必要だ。

私がブースから離れようとしたとき、まだ少女達は、彼女達がつくるZINEについて真剣に話をしていた。

【homie house press】
instagram:https://www.instagram.com/homiehousepress/
web:http://www.adrianastories.com

NY Art Book Fair

半日以上、この場を堪能した私は、いよいよ出口へと向かった。

昨年購入した本のアーティストにばったり遭遇した「私、去年あなたの本買ったよ」「え!うれしい!僕の作品気に入ってくれたんだね」些細な会話だけど、心の中があたたかくなる。

その人が、どのような人なのか、どうしてつくったのか、その趣旨を実際に聞けるこの場は、一冊の本を通して、人と人を繋ぐ場にもなっていている。重たい本を店から家まで運ぶのは、ちょっとめんどくさい。だからこそ、ネットショッピングで済ませる人や、そもそも紙から離れてデジタルへとシフトした人も多いだろう。しかし、つくった人から実際に受け取る一冊は、読者の世界を広げてくれて、新たな場所へと誘ってくれる。本、本来の役割を「NY Art Book Fair」は再提示してくれていると私は思った。

神奈川県横浜市出身。2018年より渡米。日本でファション誌の編集者として勤務した後、現在は、ニューヨーク マンハッタンにあるアート学校でグラフィックデザインを学ぶ。

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