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現代のテキスタイルにはない発色や色柄、そして生地の質感。そんな古い着物が持っている魅力を生かした作品を、「裂き織り(さきおり)」という技法で表現している作家・梅村直さん。特に明治から昭和初期までの着物に使用された絹糸は、現代の改良されたお蚕とは異なるため、しなやかで柔らかく上質なのだとか。
今回は、そんな上質な着物生地から世界にひとつだけのニュアンスを紡ぎ、軽くて丈夫なバッグなどを制作している梅村さんのお話を伺いながら、多治見にある手しごとのお店「tsunagu」で開催中の展示会とワークショップに参加してきました。
裂き織りとの出会い
裂き織りとは、使い古した布を細く裂いたものを緯糸(よこ糸)に、綿糸や麻糸などを経糸(たて糸)にして織り上げた織物のこと。起源は江戸時代の東北地方で、寒冷地の暮らしでは繊維製品が貴重だったからだと言われています。
梅村さんが裂き織りと出会ったのは大学時代。北欧の組織織りを学ぶ中で、複雑な織り方であっても機械で大量生産できてしまうものより、単純な織り方でも自分らしい織りを表現できる裂き織りの技法に興味を持ったそうです。
もともと日本の古いものが大好きだったという梅村さん。お母様の影響で、子供の頃から一緒に骨董市巡りをしていたのだとか。高校生になると一人で出かけて古い着物を集めるようになったのだと言います。「昔の着物柄は斬新でおもしろくて、その色柄に惹かれて生地を集めはじめました。2枚と同じものに出会えないワクワク感もあって、その出会いを大事にしたいと思うようになりました。」
着物の裂き織りで日常アイテムをつくる
「裂き織り」と「古い着物」が結びついたのは、社会人になってから。趣味で織物の教室や作品を作っていく中で、高校生の時に買い集めた着物生地を使うことを思いついたのだとか。着物の良さを出すには裂織が最適だと思い、試しに着物を裂いて織ってみたところ、着物だった時とは全く違う色柄になることに驚き、ハマっていったのだといいます。
着物から織り上がる生地の質感と、想像もしなかった色柄が表現できることに可能性を感じ、本格的な作品の制作がスタートしました。そこで最初に作り始めたのがバッグ。「父が陶芸をやっていたこともあり、自分が作ったものを日常の暮らしで使えるっていいなと思っていました。この生地で日々使えるものを作るなら、丈夫さと軽さも生かせるバッグにしようと。それを自分も愛用して持ち歩いていたら、ギャラリーなどで声をかけていただき、置かせてもらえるようになっていきました。」
現在も、各地の骨董市などを巡り厳選した絹素材の古い着物からアイテムを制作。昭和初期までの古い着物は、現代では再現できないほど手間と時間をかけて作られており、草木染めによる優しい風合いや上品な光沢が特徴。上質な着物なので生地を裂く時にも良い音がするのだとか。着物をほどき、洗って、裂いて、そして再び織り上げる。そうして本来持っている美しさを蘇らせます。
世界に2つとない、一点モノを愛用する
そんな素材の良さを感じられるよう、梅村さんの作品はどれもシンプルで長く愛されるデザインに仕立てられています。シンプルながらもバッグの底が円形や正方形になっていたり、ちょっと変わっていて、それでいて使いやすい。作品に合わせた配色はもちろんのこと、洋服なら軽くて発色の美しい絹糸を、バッグなら強度を上げるために木綿糸を二本取りにするなど、着物生地だけでなくたて糸にも配慮し、使う人のことを想いながら心を込めて、その美しい唯一無二の柄を織り上げていきます。
最近では、日本の草木染めのニュアンスが北欧を思わせる色柄となり、30-40代の女性から注目されるようになりました。上質なものが、毎日使えるものになる。バッグだけでなく洋服やストール、ヘアアクセサリー、ブローチなど、アイテムの幅も広がっています。
古い着物から再生される梅村さんの裂き織り作品を通して、素晴らしい日本の伝統着物に想いを馳せたり、誰かが大切に着ていただろうものを、これからは自分が愛用していく嬉しさを、日々の暮らしに取り入れてみる。素敵なバトンタッチだと思いませんか。
「naonao」梅村直
https://naonao-sakiori.com