大須の町と共に70年。家族の思い出の家を、みんなのお茶の間に。「古民家cafeたとか」
目次
地元と旬のものを使った
からだと心においしいメニュー
料理を担当するマスターの貞夫さんは、もともと食べることが大好き。「調味料1つないと、それを買いにいかずにはいられないくらい几帳面なんですよ」と佳奈子さんがいうように、食に対するこだわりは人一倍。
そんなたとかのランチは、地元の食材と旬のものを生かした手作りメニューが並びます。時には妙子さんの管理する畑からとりたての野菜が並ぶことも。
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「枯れ節ごはん」ランチ おかず・小鉢・サラダ・味噌汁つき 700円
看板メニューである「枯れ節ごはん」。「枯れ節(かれぶし)」とはカツオをいぶした「荒節(あらぶし)」にカビ菌をつけて、熟成させた発酵食品。一般的な「花かつお」と呼ばれる削りぶしと比べて、香り高く、味はまろやか、アミノ酸によるうま味も豊富です。
削りたての「枯れ節」をほかほかのごはんにのせて。その上に、たまご、納豆のトッピングも選べます(各50円)。味噌汁の味噌も、マスターの手作りで、大豆とこうじを半年寝かせたもの。サラダのドレッシングにも自家製の梅で作った梅酢を使っています。
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冬季(10月から)の牛すじカレー サラダつき 800円
※夏季(6月から)はスパイシーカレー
牛すじは大須の有名店、姉妹のお母さんも大好きだった肉屋「せんだ」のもの。スパイシーカレーはマスターオリジナル配合のスパイスが絶妙の夏の味。
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ところ天 甘酢300円 黒糖350円
夏のおすすめのひとつご紹介します。
ところ天は北名古屋市の五十嵐商店のところてんをつきたてで提供。テングサを10時間煮詰めてつくられたところてんは、無添加、生なので1週間しか日持ちしません。
ひんやりつるんとした喉ごしで、いくらでも入ってしまいそう。酸っぱいのが苦手な人のために、黒糖味もあります。
ほかにもひなまつりのちらし寿し、クリスマスのチキン、お正月のすき焼きなど季節にちなんだメニューや、あずきから手作りのぜんざい、佳奈子さんお手製のケーキなど。
どれも素材、味、見た目いずれにも妥協のない姿勢を貫きながら、よそゆきではなく、ほっこりあたたかみが感じられる家庭的なメニューが並びます。
大須の移り変わりを
見てきた家
小さい頃から住んでいた思い出の家をカフェに……。そんなすてきなアイデアを実現されたお二人に、この家で育った頃の思い出や、カフェにして残そうとしたいきさつなどについてうかがいました。
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昭和の遊びが描かれた図鑑を見ながら、当時の思い出を語ってくれた妙子さんと佳奈子さん
– この家は、和洋折衷で、当時としては珍しい家だったんじゃないですか?
妙子さん:この建物は、昭和25年に私たちの祖父が建てたものです。構造はすべて当時のままですが、耐震工事をして、屋根もふきかえました。
祖父はとてもこだわりがある人で、ここを建てるときも細部までいろいろこだわったので、当時の建物の2倍のお金がかかったと聞いています。
仕事は下駄の鼻緒屋をしていたのですが、非常に多趣味で、地図に詳しかったり、字も上手、電気、機械、カメラにも詳しくて、大工仕事もしてしまう器用な人だったんですよ。
佳奈子さん:本棚に日本の歴史の本がずらっと並んでいたわよね。
妙子さん:蓄音器なんかもうちには早くからあって、壊れた時はラッパの部分を手洗い場の管に再利用したり、アイデアマンでしたね。この家は、そういう祖父のセンスがあちこちに生かされていると思います。
佳奈子さん:この家は収納場所も多くて、こんなところまで?っていうものもあるんですよ。最近発見したところもあるくらい(笑)
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いろいろな場所に収納スペースが確保されている
– ところでこうやってお二人を見てると、ほんとに仲良し姉妹だなあと思うんですが、小さいときから仲が良かったんですか?
妙子さん:まあ子供の時はけんかもしたけど、基本仲良しよね。結婚してからはなかなか会えなかったけど、名古屋まつりの時はこの家にみんなで集まってお寿司を作ったりしたわね。
佳奈子さん:小さい頃、近くの日の出神社でよく遊んだわよね。あと虫取りしたりね。
– このあたりで虫取りしてたんですか!?
妙子さん:家の前の白川公園でね。当時は白川公園界隈は通称アメリカ村と言われていて、アメリカ人の家が建っていたんです。白い柵に囲われていて、中の芝生にきれいなたんぽぽが咲いてたから、手を伸ばしてそれをとった思い出があるわ。
佳奈子さん:大須商店街が通学路になっていたから、そのあたりでも遊んでたわね。ちんどん屋とか、紙芝居の人が来ていたり。
妙子さん:大須観音は建っている方向が今と違って、昔は東を向いていたわ。いま建物があるところは露天みたいなのが並んでて、浅草の仲見世みたいな感じだったわね。
– この辺りの風景もずいぶん違ったんでしょうね。
妙子さん:このへんは民家ばかりで、人通りはそんなになかったですよ。ただ大通りだから、大きい車はけっこう通っていましたね。当時は道がしっかり舗装されてなかったから、車が通ると家がガタガタ揺れてました(笑)
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カメラが趣味だった祖父が撮っていた写真。右の2枚は小さい時の妙子さんと佳奈子さん。右上はお母さんと、右下はおばあさんと。
「た」と「か」の思いに
みんなの笑顔が集まって
– この家は築70年ということですが、きれいに保存されてますよね。
妙子さん:ここは私たちが結婚して出て行った後、最後は母が残って一人暮らしをしていたんです。その母が毎日きちんと天井まで掃除していたんですね。だからここまできれいに維持できたんだと思います。母が亡くなった時はほんとにショックで……。その悲しさを紛らわそうと、姉妹で忙しく相続手続きをしていたら、ここを空き家にしないで、生かそうという話になって。
– それがオープンのきっかけに?
妙子さん:そうですね。もともと人の集まる場所を作りたいという思いはあったんです。父も母も賑やかなのが大好きで、人が来るといつも喜んでいましたしね。
佳奈子さん:私も具体的にはイメージしてなかったけど、コーヒーが好きだし、カフェみたいなものをやってみたいという思いはありました。
妙子さん:2人とも面白いことを考えるのが好きなのよね。だからあれこれアイデアを出し合って。準備期間も楽しかったですよ。お友達がみんなで片付けを手伝ってくれて。いらないものはあげたり、逆にお店に必要なものをもらったり。お友達のおにぎり屋さんに秘伝のおいしい握り方を教えてもらったりもしました。
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30年習っている習字の腕を生かして、季節のメニューは佳奈子さんの手書き。看板の文字は佳奈子さんの習字の先生の作。
佳奈子さん:看板の板ももらったのよね。それで字を私のお習字の先生に書いてもらって。
妙子さん:みんなの好意が集まってできたお店よね。あとは、家にある古いものを工夫したり。これは母の教育だと思うんですが、捨てずに、買わずに、あるものを再利用するという考え方があるんです。そうすることが、喜びなんですね。
佳奈子さん:オープンしてからは、お客様のご縁にも恵まれて。みんなお人柄がよく、多才な方も多くて。プロの写真家や、建築家とか、50代でドラムを習いはじめたって人も。そんな方々との会話が楽しいですね。あと、寝てる人も多いわね(笑)
かつては家族の笑顔があった場所に、ここを愛する人々の笑顔が集まって。
街や時代が変わっても、ここだけは変わらずに、みんなの「お茶の間」であり続けてほしいなと思います。