目次
岐阜県本巣郡で、無垢材のまな板を中心に各種キッチン用品を製造販売している『woodpecker(ウッドペッカー)』。「木と一緒に暮らす」をテーマに、それぞれの木の特性を生かし、まな板・カッティングボード・木のお皿などを製作しています。厳選した木材を使用し、1枚板から商品に適した部分だけを削り出し、一つひとつ丁寧につくられています。
2007年の設立後、今では全国150店舗以上のインテリアショップやライフスタイルショップで取り扱われている注目のブランドです。今回は、代表の福井賢治さんに、woodpeckerの看板商品「いちょうの木のまな板」の誕生秘話、まな板のお手入れ方法まで、じっくりとお話を伺ってきました。
はじまりは、妻のためにつくった
一枚のまな板から
woodpecker 代表:福井賢治さん
木工業が盛んな岐阜県で、祖父の代から続く木地師(神輿や神棚、仏檀の製造を手がける職人)の家に生まれた福井さん。どのようにしてwoodpeckerをはじめられたのでしょうか。
福井さん:「小さい頃は、カンナくずがごろごろと転がり、木の粉が舞うような場所で育ちました。祖父や父の働く姿を見続けてきたことが、木工職人としての原点といえるかもしれません。
私が木工をはじめたのは30代の頃です。職業訓練学校で一年間みっちりと木工を学び、数年間は家具メーカーと父のもとで修行を重ねました。しかし正直なところ、木地師の仕事はあまり景気がよくなく、これからどうしようかなと悩んでいました……。
そんなとき、ある転機が訪れたんです。結婚して第一子を授かった記念に、妻のリクエストでまな板をつくりました。そのときに、祖父の代から付き合いのある材木屋さんに、「まな板をつくるなら、いちょうの木が良い」と教わったんです。それが、いちょうの木のまな板の誕生のきっかけです。」
奥さまのためにつくった「いちょうの木のまな板」
福井さん:「いちょうの木のまな板を実際に使っていくうちに、柔らかさや使い勝手の良さを実感していきました。それまで使用していたヒノキとは感触が違い、「これは面白い!」と思いましたね。
ちょうど友人が結婚したり、引っ越したりするタイミングが続き、いちょうの木のまな板を友人たちにもプレゼントしたんです。いろいろな人に使ってもらう中でも、やはりいちょうの木ってなかなか良いのだと少しずつ実感していきました。
そうして、2007年に「woodpecker」を設立しました。約11年前ですね。woodpeckerはキツツキという意味で、木にまつわる仕事をずっとやっていけたら良いなという想いを込めています。」
木のまな板の良さは、まだまだ広げ甲斐がある
現在では、全国150店舗で取り扱いのあるwoodpeckerのアイテムですが、創業当時は福井さん自身が各地で売り歩くスタイルだったそう。
福井さん:「初めて出展したのは、岐阜の柳ヶ瀬で開催されている『小さなクラフト展』というイベントです。そこで初めて販売したのですが、多くの方が手にとってくださって、購入いただいた方もいらっしゃいました。なかなか良い感じだなと手ごたえを実感しました。
東京で行われるフェスティバル『アースデー東京』への出展を機に、カタログ・名刺・ロゴ・ホームページをつくりました。友人のデザイナーと夜な夜なつくりましたね。ドキドキしながら出展したのですが、そこでも思った以上に高評価で驚きました。
イベントに出展する中で、木のまな板って意外に知られていないんだなということに気がつきました。「どんなまな板を使っているんですか?」と聞くと、ほとんどの方が「普通の白いまな板です」と答えるんです。そうか、あれが普通なんだなと。それなら、木のまな板の良さというのは、まだまだ広げがいがあるなと実感しました。」
初めて出店した「小さなクラフト展」
「アースデー東京」
福井さん:「そこから各地のイベント・クラフト展・フェスなどに出展するようになりました。まな板しか販売していないので、「木のお皿が欲しい」「洗濯板が欲しい」「もう少し小さいサイズが欲しい」など、皆さん色々とリクエストしてくれるんです。出歩いていると、そういう生の声を聞けるんですよね。「じゃあ次はそれをつくっていきますね」「次回の展示会に持っていきますね」という風に、お客さまの声を少しずつ反映しながら商品が増えていきました。」
毎月第3日曜日、ぎふ柳ケ瀬で開催されている「サンデービルヂングマーケット」
福井さん:「ほぼ毎月岐阜の『サンデービルヂングマーケット』には出展しています。そこでは、普段オンラインで買えないような訳ありの商品も持っていくんです。ヒビが入っていたり、初めから少し黒ずんでしまっているような。これはこういう理由でお値打ちなんです。もし不備があれば、また来月くるので教えてください。というスタンスで販売しています。
傷があったり、怪我があったり、人間と同じなんですよね。実際に直接お話できると、そうした木の特性などもお伝えできます。少しかっこよく言うと「木育」ができて、しっかり納得してもらって、ちょっとお値打ちで買える。それって全然悪いことじゃないなって。なので、今後もできるだけいろいろなイベントに出展して、直接お客さんとお話できるようにしたいなと思っています。」
料理人や愛される「いちょうの木」の魅力とは
看板商品である「いちょうの木のまな板」をはじめ、すべてのアイテムが職人の手によって、一つひとつつくられています。
料理人や板前がこぞって愛用するという、いちょうの木のまな板。いちょうは、古くからまな板に適した木材と言われています。
福井さん:「いちょうの木は、含まれる油分が多いため、水はけがよく、においも残りにくいなどさまざまな良さがあることから、古くから料理人に愛用されてきました。
いちょうの木は包丁で切るとトントントンとまな板に優しい音がします。ヒノキなどに比べて柔らかく弾力性があるので、音を吸収してくれるんです。まな板は、硬すぎると包丁を傷つけてしまうし、柔らかすぎると傷が多くついてしまいます。いちょうは硬すぎず柔らかすぎず、ちょうどいい硬さなんです。刃当たりがやさしいので、包丁が長持ちしますよ。」
左側:いちょう 右側:ヒノキ
実際に、いちょうとヒノキを比べてみました。
福井さん:「建材に使用されるヒノキに比べ、いちょうは木目の本数が少ないんです。ヒノキの約3倍の速さで成長すると言われています。いちょうの大木ってよく神社とかで見かけますよね。それだけ柔らかい木なので、建材には使えない木なんです。まさに、まな板のための木材ですね。」
木のまな板を長く使うためには
続いて、木のまな板のお手入れ方法について伺いました。
福井さん:「最初にお伝えしておくと、木のまな板は絶対に黒ずみます。天然の木なので、黒ずまない方がおかしいです。住宅なども木の部分は、だんだんと黒ずんできますよね。それと同じ。ですが、黒ずみにくく、まな板を良いコンディションで長く使うためには、いくつかのポイントがあります。
まずはじめにまな板を水でぬらします。まな板を水でコーディングすることで、食材の水分や油分、アクなどを染み込みにくくする効果があります。水で膜を張るんです。」
福井さん:「使い終わった後はタワシで切り傷の中の汚れを掻き出します。スポンジより柔らかい棕櫚(しゅろ)のタワシがおすすめですね。野菜やフルーツくらいなら、水とタワシで十分です。生肉、生魚の場合は、中性洗剤を使って、しっかりすすいでください。そして、隅々までしっかりとふきんで拭き取ります。ここで水気を拭き取ることで黒ずみなどを遠ざけることができます。
最後は、風通しが良く、直射日光が当たらない場所で乾かします。吊るしたり、ステンレスのまな板スタンド等で底面を浮かしてあげると良いですよ。」
福井さん:「それでも、黒ずみって気になりますよね。そこで黒ずみの部分を削ったカンナ屑を保健所に持って行き調べてもらいました。結果は、一切害はありませんでした。カビや菌の仲間だそうです。空気中にもたくさん菌は飛んでいますし、食べられるカビもあります。それとなんら変わりありません。先日NHKの番組でも同じように調査をしていましたが、そこでも問題ないという結果でした。なかなか木工屋がここまですることはないかもしれませんが、少しでも、安心して買ってもらいたい、安心して使っていただきたいですからね。」
ずっと長く大切に使うために
福井さん:「woodpeckerでは、削り直しも承っています。使い続けていくと切り跡がつく んです。最初のこの感じは1カ月くらいですね。毎日洗って乾燥するので、少しずつ変化して行きます。色が変わったり、凹みが出てきたり、それも味なんですけどね。いちょうの木は復元力があるので、凹みにくいのも特徴ですが、使っていくうちに少しずつ表面が凹んでくるので、ネギがつながってしまうという感じで、だんだん切れなくなってきてしまいます。ですが無垢の木なので、削り直しができます。こうして長く使い続けられるところは木のまな板の大きな魅力です。」
削り直しは、ミニサイズ1枚300円〜。送料はお客様負担。期間は、混雑状況にもよりますが、基本的には長くて一週間ほど。
▼詳しくはこちら
http://store.hello-woodpecker.com/?mode=f2#refine
実際に3年ほど使ったまな板
削り直しをしたまな板。新品のようにキレイになります。
さっとカンナをかけるだけで、上の写真のような状態に。
福井さん:「10年前くらいに買われた方で、3年おきに削り直しに出されている方がいらっしゃいますね。他には、料理教室の先生は、毎年年末になると、生徒さんが使っているまな板をごそっと送ってきてくれます。それを削って一年が終わります。そして年始にまたそれを送り返してまた1年間使ってもらうというのを、ここ数年繰り返しています。それでもまだ厚みが残っていますよ。きちんとお手入れをしていけば、10年は使えると思います。
削り直したまな板を送り返したときに、発送のメールをするんですけど、8割くらいの方が「キレイになってとてもびっくりしています。」「大切に使いますね。」と、お返事をくださるんです。一度買って終わりではなく、削り直してからがお付き合いのはじまりなんですよね。」
福井さん:「イベント出展などでお話をしていると、「削る人がいなくなってしまって、どうしたら良いかわからない。」「お手入れ方法がわからないから、プラスチックを使っています」という声をけっこう聞くんです。せっかく木のまな板を使いたい方がいるので、それってもったいないですよね。
今はまだ自社のものしか削り直しは承っていませんが、ゆくゆくは自社以外のものもメンテナンスできる体制もつくりたいなと考えています。」