伝説の北欧家具デザイナーたちとライセンス契約を結ぶ飛騨高山の家具メーカー「キタニ」。型にはまらない50年間の軌跡とは。
目次
なぜ飛騨で北欧家具を?
社長インタビュー
高山市周辺は、日本を代表する飛騨の家具(椅子)の産地です。そのエリアでなぜ北欧家具をつくりはじめたのか、なぜ北欧の巨匠デザイナーからライセンスを託されたのかという疑問を、株式会社キタニジャパンの代表取締役である東庄豪さんにぶつけてみました。
東さん:「キタニは1967年の創業から、茶葉やプロパンガスなど当時のニーズに合わせて幅広い商売を行っていました。そして次第に飛騨の家具メーカーから製作の一部を任されるようになりました。」
しかし、消費者のニーズに応えて大量生産した椅子は、同時に大量の使い捨てを引き起こすことに。ゴミ捨て場で自社の椅子を目の当たりにした当時の社長(先代の会長)は、「本当にしたかったことはこれなのか?」と、夢のある家具づくりへと乗り出したのです。
東さん:「デザインから製作までを自分たちで行った初めての椅子は、稚拙ながらも展示会のお客様やプロに評価していただけました。夢見る力が、いよいよビジネスとして動き始めた瞬間ですね。」
そして、オリジナル家具ブランドの設立や海外の人気メーカーとのコラボなどを経て、販路を拡大。有名人夫婦が買った家具として話題になると、感度の高い雑誌などで取り上げられることも多くなりました。
転機は1994年。当時の社長(先代の会長)が視察で訪れた北欧諸国で、驚くべき光景を目撃します。
東さん:「現地の老人ホームで使われていた椅子が、コレクターの間では1脚数十万で取引されるような名作の数々だったんです。北欧の人々は良質な椅子を大切にメンテナンスして、日常のなかで使っていたんです。」
これこそがキタニの目指す姿だと確信した彼は、コンテナにたくさんの中古家具をつめて日本へ。折れたり剥がれたりしている中古家具を見た社員たちは「社長がゴミを買ってきた!」と呆れたそうです。
東さん:「しかしある日、福祉椅子の製作に行き詰まった職人が、ダメ元でコンテナを覗いてみたんです。すると、まだ日本にはないデザインや福祉先進国ならではの優しさが詰まった家具がたくさん。フィン・ユールやハンス・ウェグナーといった刻印を見つけて興奮する職人もいました。」
その好奇心は、フォルムや構造の研究へ。「なぜ?」を繰り返しながらの解体、そして修復(リペア)がはじまりました。結果、1,000点以上にものぼる北欧家具を修復。これが今のキタニの技術と美意識につながっているのです。
東さん:「1995年に、最高の家具職人としての称号を持つウィルム・ラーセン氏の後継ぎとしてキタニが承認されました。その後、イプ・コフォードラーセンやヤコブ・ケア、そしてフィン・ユールらとの復刻ライセンス契約を結んでいただいています。」
2021年現在、キタニで取り扱うのは6名のデザイナーによる33点のライセンス家具。
数々の挫折や壁を乗り越えた根底にあったのは「いつでも夢と挑戦だった」と東さんは教えてくれました。
キタニおすすめ家具紹介
世界的デザイナーたちへの敬意の念と、購入した方の喜ぶ顔を想像しながら、1点1点を丁寧に手作業で仕上げるというキタニの椅子。実際のオススメ商品をお伺いしました!
芸術品とも評される椅子「FJ-01(フィン・ユール/1953年)」
フィン・ユールがデザインした、彫刻のように美しい曲線を持つイージーチェア(安楽椅子)。1953年に完成したことから「53チェア」「No.53」とも呼ばれています。
動物の角のように優しく曲がるアームレストと、フレームから浮き上がるような高級感のあるシートデザインが特徴的。職人による丁寧で確実な木工技術と、シート張りの熟練技術がバランスよく溶け合った芸術のような椅子です。
張りは、「ミシン縫製」と「手縫い」の2パターンから選んで仕上げています。
英国女王が購入して話題に「IL-01(イプ・コフォードラーセン/1956年)」
前脚から肘を通して後脚へとつながる繊細なディテールの「IL-01」は、イプ・コフォード・ラーセンの作品のなかで最も完成度の高いデザインです。
コンマ以下まで削り出した細身のフレームにも関わらず、安心して身体を委ねられるよう強度面を計算した極限のバランス感。薄さとクッション性の限界に挑戦したデザインが見事に調和し、存在感を高めています。
エリザベス女王が購入したことから「エリザベスチェア」と呼ばれることも。
キタニでは、北欧家具のライセンス家具だけでなくソファ・デスク・キャビネットなどの家具や、国内外で活躍するデザイナーによる優れたデザインの家具も取り扱っています。
飛騨の職人たちが時間と想いを込めて手作業で仕上げる家具は、きっと何代にも受け継ぎたくなる愛用品になることでしょう。
恵まれたロケーションも見どころ
飛騨高山の家具メーカーのなかでも、ちょっとだけ異質の存在として知られるキタニ。チャレンジ精神から勝ち取った独自の技術は、これからもきっと多くの人を魅了し続けてくれそうです。
おまけに。
こちらに立ち寄った際は、山に向かって張り出したテラスからデッキから高山市内の素晴らしい眺望をお楽しみください。
定期的にコンサートやイベントも行われているそうなので、お出かけ前にチェックしてみてくださいね。
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