良質な音楽と、思い思いのくつろぎがある風景。大人の秘密基地「ジャズ茶房 青猫」

良質な音楽と、思い思いのくつろぎがある風景。大人の秘密基地「ジャズ茶房 青猫」

市営地下鉄東山線「藤が丘駅」から住宅街へ歩いて5分程度。通り沿いにさりげなく置かれた看板が「ジャズ茶房 青猫」の目印。お店は階段を降りた地下にあります。知らなければ、思わず見逃してしまいそうな場所です。

ジャズ茶房 青猫

この階段を降りていきます。ジャズに関わる端くれとして、「いい店があるよ」と聞いてずっと気になっていたものの、なかなか来る機会がなかったお店。

まるで「秘密基地」に向かうような気分で、鉄の扉を押します。

ジャズ喫茶らしくない、ジャズ喫茶

ジャズ茶房 青猫

ドアを開けると、正面にカウンター席。鉄とコンクリートの無機質な空間に、スポット照明がつくり出す陰影。日常のペースとは違う、ここだけの時間が流れているような錯覚を覚えます。

ジャズ茶房 青猫

右奥のCDの棚。照明が描く形に注目。

ジャズ茶房 青猫

入って右側のスペース。JBLのスピーカーが奏でる音楽と向き合うスタイル。

ジャズ茶房 青猫

左側はグループや友達と語り合えるスペース。

お店はL字型になっていて、奥行きのある右側は音楽をじっくり聴きたい人のための空間。もう片側は気楽に会話が楽しめる空間になっています。

「青猫」は「ジャズ茶房」という少しひねりの効いた名前になっていますが、今では全国的にも数少ない「ジャズ喫茶」のひとつ。かつてジャズが時代の先端の音楽であった1960〜70年代には、街には何軒ものジャズ喫茶がありました。

当時のジャズ喫茶といえば、頑固そうなマスター、本格的なオーディオから流れる大音量のモダンジャズ、会話禁止、「通」な曲をリクエストしなければいけないなど……。ジャズマニア以外には敷居が高いイメージがありましたが、「青猫」にはそういった「変な汗が流れる感じ」はありません。

インテリア・音楽のセレクト・オーディオ・メニューの隅々にいたるまで独自の世界観が散りばめられていますが、それが「押しつけ」や「しばり」ではなく、大人の遊び心として、訪れる人にとってはその世界に包み込まれる「居心地の良さ」になっています。

ジャズ茶房 青猫

入口のドアの裏側には、各国語で書かれた「押す」の文字。

砂時計

コーヒーの時を刻み続ける砂時計。

お酒を飲みながら、ひとり良質な音の世界に浸る。コーヒーをお供に読みかけの小説を開く。友人や趣味の仲間と話しこむ。そんないろんな過ごし方ができる「ジャズ喫茶らしくないジャズ喫茶」。

2006年のオープン以来、ジャズやオーディオ好きはもちろん、カメラや読書、車などのマニアたちや、近くの大学生や会社帰りの人、ランチやデートなど、さまざまな場面・人々に愛されてきたゆえんは、そのあたりにあるのかもしれません。

透明な音の世界に潜るひととき

ジャズ茶房 青猫

カウンター横の棚にずらりと並ぶCD。ジャズ喫茶といえば、LPレコードのイメージですが、「青猫」の音源はすべてCDです。

「社会人になった頃、ちょうどレコードがCDに切り替わる時期で。好きなタイプの音楽もあまりレコードの音に合わないと思うこともあって、持ってたレコードも売ってしまいました」と語るマスターの高橋久承(ひさつぐ)さん。

マスター・高橋さん。飄々としたたたずまいながら、その仕事はとても丁寧で細やか。

そもそも、いわゆる「王道」のジャズがあまり好きでないという高橋さん。「ジャズを聴きはじめた当初は名盤と呼べるものから聴いていましたが、どうもピンと来るものがなく……いろいろ聴いているうちに、『ECM』というレーベルに出会って、この音だと思いました」

スティーブ・キューンの作品

こちらのピアニスト、スティーブ・キューンの作品も、高橋さんがずっと愛聴しているECM盤の1つ。

ECMはドイツの会社で、ジャズの有名どころでは、キース・ジャレットやパット・メセニー、先日亡くなったチック・コリアなどの作品で知られるレーベル。
“The Most Beautiful Sound Next To Silence”(沈黙の次にもっとも美しい音)と評されるその音作りは、硬質で透明感ある音。ジャズ喫茶でよく流れている迫りくるような厚みのある音とはある意味、対極にある音です。

「自分の好きな音が流れている店がないんですね。ないなら自分で作ろうと思って。」それが「青猫」をはじめるきっかけともなりました。

「青猫」のオーディオは、この「ECM」をはじめとした現代音楽系のサウンドが際立つシステムが組まれています。スピーカーはJBL。プリアンプ、パワーアンプ、プレーヤーは「ゴールドムンド」というスイスのハイエンドブランドのもの。オーディオマニアには「レアな組み合わせだね」と言われるそうです。

ジャズ茶房 青猫

3,000枚以上あるという棚を眺めると、まず目につくのはやはりECM盤。そしてジャズの名盤はもちろんのこと、高橋さんが好きなクラシック、フュージョン、邦楽作品も。

メニューの表記にも、ジャズの「静かなものから、激しいものまで何でも」とある通り、リクエストにも対応してくれ、持ち込みも可能。ジャズ好きの方は、お気に入りの一枚を「青猫の音」で再体験してみる、というのもありではないでしょうか。

ジャズ茶房 青猫

正面の壁にあるのは、佐藤貢さんというアーティストの作品。海の漂流物のみで作られたというオブジェを眺めながら、音の深海へ潜る。そんなひとりの時間もいいですね。

高橋さんの比較的最近のおすすめ盤 ベースのマーク・ジョンソンの作品。ピアノに奥様のイリアーヌ・イライアス。ジョー・ロバーノのトランペット、スコフィールドのギター。イリアーヌといえば、ボーカリストの自分的にはブラジルものの弾き語りを思い出すのですが、こちらはピアノでの参加。「Shades of Jade / Marc Johnson(ECM1894)」

カフェとしても、クオリティ高いメニューの数々

お客さんが作ったという店主のミニチュア。

「青猫」が満足させてくれるのは聴覚だけではありません。ドリンクと食事も、種類・内容ともに充実しています。

特に人気があるメニューの1つが、取材時は売り切れで食べられませんでしたが、限定8食の牛バラ肉の煮込みカレー(1,100円)。スパイシーで濃厚なカレーに、ごろりと入った大きなバラ肉が特徴で、ファンも多いそう。

トマトソース丼

今回いただいたチキンのトマトソース丼(1000円)。ガーリックが効いたトマトとチキンに、トッピングされたバターの風味がごはんとよく合います。ほかにもパスタやサラダ、お酒にもよく合うアンティパストの種類も豊富。

デザート類は、専任のパティシエによる青猫オリジナル。ラムレーズンが入った大人の味のガトーショコラやりんごの焼きタルト、バナナとナッツのシフォンケーキなど。今回いただいたチーズケーキは、メープルシロップの香りをつけたニューヨークスタイル(450円)。甘すぎず食べやすいけど、しっかり濃厚でクリーミー。添えられたハーブの一枝が目にもうれしい一皿。

ドリンク類で特徴的なのはチャイ。写真のスパイスが効いたマサラチャイに加えて、アップルチャイ、いちごミルクチャイ(いずれも650円)もあります。

高橋さん自身がお好きということもあり、中国茶にもこだわりが。鉄観音(700円)は強めにローストした香りが際立っています。

スペシャリティの豆を3種類ブレンドした青猫オリジナルのコーヒー(600円)。酸味は少なめ、ほどよい苦味。持ち帰りの豆(550円)も買えます。

もちろん、ビール、ウイスキー、ブランデー、梅酒などのお酒も楽しめます。

共感する人が集う場

ジャズ茶房 青猫

リスニングスペース横にある本棚にはジャズ関連本や映画、海外小説などが並びます。「青猫」の店名の由来は、高橋さんの好きな萩原朔太郎の詩集のタイトルから。そんな縁もあってか、読書好きが集まる場所でもあります。

コロナ以前は、日本最大の読書コミュニティ主催の読書会が定期的に開催されていました。

高橋さん自身は特に海外の小説が好きで、高松雄一訳のロレンス・ダレルの散文や、ミルハウザー、ポール・オースターなど柴田元幸が訳した本もよく読むそうです。ちなみに柴田氏はその読書会の企画で毎年お店を訪れていたのだとか。

お客さんのすすめで始めた青猫Notebook。現在は11冊目になりました。

マスターの嗜好を集めて、濃縮した空間。そこに共感する人が集まり、場を作っていく。個性的なお店になかなか出会えない昨今、このようなお店が存在していることがとても貴重に思えます。

最後に高橋さんに「青猫って、どんなお店ですか?」とたずねてみると、少しおどけた調子で、「普通に暮らしていたら、一生耳にすることがないような音楽が流れている店ですね」という答えが返ってきました。

一生耳にすることがないような音楽、また聴きにいきたいと思います。

ジャズ茶房 青猫

ジャズ茶房 青猫

ジャズ茶房 青猫

スポット詳細

【ジャズ茶房 青猫】
住所   :愛知県名古屋市名東区藤が丘49アンフィニビル B1
電話番号 :052-776-5624
営業時間 :13:00-23:00(コロナウイルス対策のため、変更の場合があります)/日曜13:00-19:00
定休日  :木曜

ライター歴25年、出版社→広告プロダクション→広告代理店→印刷会社と渡り歩いた後、現在はフリーライターとして企業の機関誌、広報誌などを中心にお仕事しています。また過去にTwinkle Booksというオトナのためのちびっこ古本屋を運営、絵本ナビゲーターとして商業誌に寄稿していました。

またジャズヴォーカリスト・音楽講師としても活動していて、新聞系カルチャーセンター、名古屋市・豊田市・常滑市など自治体主催の講座も行っています。愛犬はジャックラッセルテリア。最近気になるものは灯台とダムとウィッチクラフト。

ライター仕事のサイト:http://sugarcube-d.com
音楽仕事のサイト:http://www.vocalhoney.net
note:https://note.com/maricojazz

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