広小路伏見の交差点の南西に佇む、明治40年(1907)創業の居酒屋「大甚本店」。「名古屋随一の名酒場」という呼び声も高く、週末を中心に全国から酒場ファンが訪れています。
昭和29年(1954)に建てられて以来大きな改装をしていないという、店内のレトロな雰囲気も魅力。そして、日本酒やビールとの相性が抜群の料理の数々は、のんべえ心をつかんで離しません。
目次
昭和を感じる褐色を帯びた空間
名古屋のメインストリートである広小路通沿いにある、明治40年(1907)創業の「大甚本店」。
「現在の建物は昭和29年(1954)に建てられたもので、壁や床、テーブルは当時のままです」と話してくれたのは、四代目の山田泰弘さん。ポスターや店内の随所に置かれた調度品からも、歴史を感じることができます。
種類豊富な小皿料理に思わず目移り
「大甚本店」の名物と言えば、台を埋め尽くす小皿料理の数々。一品ずつ丁寧に、店頭で手作りされています。種類が多く思わず目移りしてしまいそう!
食べたい小皿料理を指差し、スタッフにお盆へのせてもらいます。それを各自の席へと運ぶセルフスタイル。混雑していてもすぐに肴にありつける、よいシステムです。
数ある小皿料理のなかで定番は、創業当時からあるという「いわしの煮付け」と「鶏の旨煮」。
「いわしの煮付け」は醤油のコクと程よい甘さのバランスがいい逸品。生姜の風味が味を引き締めています。よく煮込まれており、身はふっくらとした食感。骨までおいしく味わうことができました。
「鶏の旨煮」は、キンカン(卵が形になる前の黄身の部分)の食感が楽しい一皿。キンカンが濃厚なのに対して、鶏肉は上品な味わいです。
定番の2品があまりにおいしかったので、席を立ち小皿料理を再び品定め。筆者の大好物であるタコの煮物をチョイスしました。愛知県内で水揚げされたタコを使っているそうで、コリコリの食感が堪らない!
四代目がすき焼きもおすすめしてくれました。シンプルで濃すぎない味付けが素晴らしすぎる。これはビールにも日本酒にも合う、懐の深い逸品!
奇をてらわないシンプルな料理が多いですが、素材にこだわって丁寧に作られる一皿は家庭ではなかなか再現できないクオリティ。毎日でも通いたくなる、素朴な味わいが魅力なのです。実際に週に4~5回通う常連さんも多いといいます。
主に柳橋中央市場から仕入れられ、鮮度が抜群の魚介類も店の自慢。
店内の「鮮魚コーナー」には、調理前の魚介類が並んでいます。煮付けや塩焼きなど、好みに応じて調理してもらうことが可能。また、人数に応じて刺身を盛り合わせてもらうこともできます。
「長年付き合いのある業者から旬の魚を優先的に卸してもらえるのが、おいしくリーズナブルに提供できる秘訣」と四代目の泰弘さんは教えてくれました。
店の入口付近にある燗場に立っているのは、三代目の山田 弘さん。大甚本店では親しみをこめて「おくどさん」と呼ばれている、古いかまどを使って徳利をあたためています。かまどを用いることでムラなくあたためることができ、燗酒がよりおいしくなるのだとか。
大きな樽のなかに入っているのは、広島県西条の酒蔵・賀茂鶴の「超特撰特等酒」。この上等な酒を樽に入れているのは、全国でも「大甚本店」だけのよう。
「樽酒」と聞くと香りが強烈というイメージがありますが、「大甚本店」の樽酒はこれに当たらず。木の香りをほのかに帯び、日本酒本来のおいしさを十分に感じることができます。
最後はそろばんでお会計。皿や徳利、瓶、グラスごとに値段が決まっています。会計が終わるまで、食べ終わった皿などは机に上げておきましょう。
日本酒やビールと“ド直球”にマッチする肴が充実している「大甚本店」。最近はハイボールやワイン、クラフトビールなどドリンクの種類も増え、楽しみ方の幅も広がっています。
この日も開店時間である15時45分の直後には、平日にも関わらず満席状態に!一度訪れたら通い詰めたくなる、不思議な吸引力がこの酒場にはあります。