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名古屋の中心から少し離れた、笠寺の鉄工所跡地にある「稲熊家具製作所」。オリジナル家具を中心に個人住宅や店舗什器、オーダーメイド家具まで幅広く展開。国産材の無垢材を用いて素材の持つ質感と形の調和を追求し、一つひとつの家具を手仕事によって丁寧に作り上げています。
今回は、家具の製作から販売まで一人で手がけられている、家具職人の稲熊祐典さんにお話を伺ってきました。
木工との出会い
稲熊家具製作所の稲熊祐典さん
稲熊さん:「木工に興味を持ったのは、名古屋学芸大学時代です。卒業後は、高山の木工芸術スクールに通い、木工や家具の基礎を1年間かけて学びました。その後は、家具工房に3年ほど勤め、2013年に「稲熊家具製作所」をオープンさせました。最初は工房だけのスタートだったのですが、家具に実際に触れていただける場所をつくりたいと、2014年にショールーム兼ショップをオープンしました。」
設計士である稲熊さんのお兄さんが手がけたショールーム。鉄工所の倉庫をリノベーションした開放感のある空間です。
家具がつくられているアトリエ。ショールームの横に隣接しています。
長く使ってもらえるものをつくりたい
まずは家具のこだわりを聞かせていただきました。
稲熊さん:「北欧の家具にとても影響を受けていることもあり、家具製作で意識していることは、無駄をなくすことです。シンプルなデザインにすることで、長く使ってもらえるものをつくりたいと思っています。木材・アイアン・ファブリック、それぞれの素材の質感とデザインの調和を心がけているのもポイントです。」
オーダーメイド(Dining Table /Dining Chair/Dining Bench) Photo : Ryoji Yamauchi
オーダーメイド(Cup Board) Photo : Ryoji Yamauchi
稲熊さん:「家具のお届けまでの期間は、ご注文いただいてから2~3カ月ほどです。造作家具の場合は、建物との絡みがあるので、半年前からご相談いただいています。つくる時間よりも、ヒアリングやデザインを考える時間の方が長いですね。最初の案から、お客様と相談しながら、デザインの細部を組み立てていきます。」
木材へのこだわり
素材の質感を大切にしている稲熊家具では、木材へのこだわりも人一倍です。主に国産の楢(ナラ)・楓(カエデ)・胡桃(クルミ)が使用されています。
稲熊さん:「できるだけ国産の木材を使うようにしています。以前、材木屋さんに行ったときに「どこ産ですか?」と尋ねたところ、「おそらく中国かロシアですね。」という答えが返ってきて、とても引っかかったんです。仲介業者を介しているので、どこ経由で来たのかわからないのかわからず、品質も落ちてしまっていることがありました。
オーダーをいただいて製作するとき、どこどこの木を使いますと堂々と言いたいという理由から、国産材にこだわるようになりました。お客様も気持ちがいいし、安心だと思うんです。もちろん価格は安くはありませんが、国産材は品質も安定しています。」
木材の品質を確保するためには、乾燥の方法も大切なのだそう。
稲熊さん:「木材の乾燥方法には、天然乾燥と人工乾燥の2つがあります。天然乾燥は、屋外や倉庫で製材を1〜3年ほどかけて乾燥させます。時間はかかりますが、木材の本来の色味が残ります。
人工乾燥は、乾燥装置の中に搬入し、装置の中で熱を加えたり、除湿したりして、木材を短期間の間に乾燥させる方法です。短期間で値段も比較的安いのですが、濃い色の木材だと変色してしまうこともあります。海外の木材は、人工乾燥のものが多いので、乾燥方法という視点からも、できるだけ国産材を選ぶようにしています。」
アトリエの一部でも木材を乾燥させています。実際に家具になるまでには、1〜3年もの時間がかかるのだそう。