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ここは「パリのアトリエ」か、それとも「おとぎの森」か……。店内に足を踏み入れた瞬間から、全くの別世界が広がるフラワーショップ「APPRIVOISER(アプリボアゼ)」。その大人っぽくもファンタジックな空間に、ぎゅっと心をつかまれる女性も多いはず。なんと店主は、陽気な男性です。
今回は、この素敵なお店を始めて13年目を迎える店主・兼松さんにインタビュー。
ラ・カーサの家づくりに対する想いにも共感いただき、ラ・カーサテラス内にアプリボアゼ 江南店をご出店いただいています。花と緑の不思議な力に魅せられた自身の経験を振り返り、お店やお花、そして庭への湧き上がる想いを嬉々として語ってくれました。
はじまりは「いけばな」
高校卒業後、ほんの思いつきで京都にある生け花の専門学校へ通うことにした兼松さん。「思いつきではあったけれど、今思えば盆栽などをたしなむおばあちゃんが手入れしていた庭で遊んでいた子供の頃の記憶が、どこか心地よく残っていたのかもしれません。」
そこは、日本で最古かつ最大の会員数を誇る「池坊」でした。ここで、室町時代から続く最も古い様式「立花」、江戸時代に成立したシンプルな様式「生花」、戦後に定着した型のない様式「自由花」と、3つのスタイルを学んだそうです。
「現代のフラワーアレンジメントは、いけばなとは全然違うものに見えますが、僕のアレンジのベースにはここで学んだことがかなり生かされています。今もスタッフと同じ花材でアレンジメントを作り比べることがありますが、僕のバランスの取り方はやっぱりいけばなの基本からきていると感じますね。特に枝の出し方とか(笑)。」
2年間いけばなと向き合う中で、花の不思議な力に魅せられたという兼松さん。「同じ花材でも、四季によって異なる風情があって、その移ろいや儚さも含めてうつくししいと感じるようになりました。葉っぱが黄色くなったり、虫食っていたり。そうした季節の表現にどっぷりはまってしまいました。」
「Flower Noritake」との出会い
専門学校を卒業して地元名古屋の花屋でアルバイトをしていた時、衝撃を受ける出来事がありました。花やグリーンからはじまるボタニカルライフを提案する雑誌「花時間」で目にした、あるアレンジメントの写真。「見た瞬間、ズドーン!ズキューン!ときました(笑)。これかわいい!って。すごくナチュラルでいて、自然の景色がそのまま詰まっているアレンジメントでした。今でも忘れないですね。」
読んでみると、それは地元名古屋のフラワーショップ。「ここで働きたい!」と思ったお店こそが、テレビ塔のそばで30年以上続く「Flower Noritake」。今やInstagramのフォロワーは6万人を超え、その人気は全国に広がっています。フローリストにとって憧れの存在。すぐにお店に行ったものの、働きたい人は順番待ちで数知れず。そこで、まずはフラワー教室に通うことにしました。
通い始めて1年が経つ頃、オーナーにもう一度「働きたい!」という意思を伝えた兼松さん。タイミングも良く、ようやくスタッフとして迎えてもらえたそうです。「ノリタケさんで4年間お世話になりました。今でも一番きれいなものをつくるお店だと思っています。大好きですね。」
絆を作る、馴染みになる「APPRIVOISER」
Flower Noritakeで4年間の修行を終え、兼松さんが春日井市に自分のお店を構えたのは30才の時でした。店名は、星の王子さまの物語から見つけた言葉。「自分が大事にしていきたいと思っていることにとても近かったからです。APPRIVOISER(アプリボアゼ)とは、フランス語で“絆を作る、馴染みになる”という意味。花と緑を通じて、お客様との信頼関係を築いていきたいですね。」
深い紺色の壁を基調とした店内には、四季を彩る切り花はもちろんのこと、観葉植物やドライアレンジメント、花器やアンティーク雑貨など、思わず手にしたくなるものばかり。定期的にフランスを訪れてはアンティーク雑貨を仕入れているのだとか。それらが上手く調和したディスプレイによって、兼松さんらしい独特の世界観を創り出しています。
7〜8割を占めるという切り花は、その植物が持つうつくししい色合いを楽しめる旬と鮮度にこだわって仕入れているのだとか。「最もうつくししいのはほんの1〜2週間だけ。その花の旬を逃さないようにしてあげたい。あとは、主役になるような花と、名脇役になれる花、そして草花や枝ものなどをバランス良く揃えることで、お客様のオーダーにピッタリの素敵なアレンジがいつでもできるようにしています。」
ドラマのキャスティング感覚で
「フラワーアレンジ」
フラワーアレンジをする時のイメージを、兼松さんはドラマのキャスティングのようなものだと言います。「メインは必ずしもバラやユリといった存在感のある花でなくてもいいと思っています。草花でもいいからまずは主役を決めて、それを引き立てる脇役たちをキャスティングしていきます。ドラマ仕立てにしてイメージするとまとまりやすいんです(笑)。」
贈り物の場合はその目的や贈られる人の年齢・性別・予算、それに贈る側の要望があれば聞いて、その雰囲気に合うようドラマを作り上げていくのだとか。「予算がある場合は人気俳優のダブルキャストでいこうかとか、映画のような壮大さを表現しようとか。その日、店に並んだ季節の花たちの顔を見ながら、そんなことを考えてアレンジしています。」
季節の花たちがかもし出す雰囲気を大切にし、遊びを取り入れながら主役を引き立てる兼松さんのアレンジに、多くのファンがいるのもうなずけます。
いまの暮らしに合った「庭づくり」
ギフト用のアレンジはもちろんのこと、ブライダルのブーケや装花を手がけたり、店舗では定期的なレッスンを行うなど、積極的に「花と緑の魅力」を発信している兼松さん。教室ではアレンジメントだけでなく、寄せ植えコースもあります。「2年前に江南にあるラ・カーサ・テラスに店舗を構えたことをきっかけに、庭づくりにも関わるようになりました。」
家で過ごす時間をより豊かに、より楽しめるようになる庭づくり。花屋の視点で描く兼松さんのガーデンスケッチは、とても好評のようです。「まずはそのお庭で何がしたいのかをお客様に聞いています。季節の花を愛でるのか、BBQなどのアウトドアスペースにもなるのかなど。管理に手間をかけたくない場合には剪定があまり必要ないものや、伸びても雰囲気が良いものを選びます。それでもやはり、庭はひとときの癒しを与えてくれる大切な空間なので、四季の移ろいや風情を感じられる落葉樹を1本はお庭に入れるようオススメしています。」
いけばなで培った季節との向き合い方、憧れの花屋で学んだ世界観の表現、それに兼松さん自身の感性が合わさって、さらに魅力的な進化を遂げているようです。インタビューの間ずっと見せてくれた、にこやかでウキウキとした表情に、植物への深い愛情を感じました。ぜひ一度、お店を訪れて見てはいかがでしょう。