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岐阜県岐阜市、金華山を望む長良川の堤防近くに、スペシャルティコーヒーのみを扱う自家焙煎コーヒー豆専門店「SHERPA COFFEE ROASTERS(シェルパコーヒーロースターズ、以下:シェルパコーヒー)」があります。
オーナーを務める中垣文寿さんは、コーヒーのおいしさや魅力を伝えるために2006年にお店をオープン。現在は岐阜県でも66名ほどしかいないSCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)公認コーヒーマイスターです。
自身がコーヒーを飲んで感動した経験から、多くの人にコーヒーの魅力を伝えたいと考える中垣さん。店内には豆の特徴・香味をマッピングしたマトリックス図を設置したり、コーヒーの飲み比べを提供したりと、味の違いや自分の好みがわかりやすくなるような配慮がされています。
コーヒーを選ぶのに迷ったら、中垣さんに相談すると、香味の好みをていねいにヒアリングし、おすすめの豆を選定してくれます。自分にとって最高の一杯に出会う手助けをしてくれますよ。
今回は、中垣さんがコーヒーに込める思いやこだわりについてお話を伺いました。
コーヒーのおいしさに感動!
多様性に惹かれてコーヒーの世界へ
-コーヒーの世界に入ったきっかけを教えてください。
中垣さん:「もともと私は印刷会社に勤めていて、漠然と自分の仕事がしたい、お店を持ちたいなとは考えていました。そのときはコーヒーにハマっていたわけではなく、喫茶店のように、日常から少し離れてゆったりできる時間や空間に興味があったので、いつかそういう仕事ができないかなと思っていた程度です。その後、会社を辞めて喫茶店で働いていたのですが、旅先で飲んだコーヒーのおいしさに感動したことがきっかけで、コーヒーに興味を持つようになりました。」
-衝撃を受けるほどおいしいコーヒーだったんですね。
中垣さん:「そうです。それで、コーヒーについて調べたりいろいろな種類を飲んだりしていると、産地や焙煎の具合、抽出方法、コーヒー豆の鮮度などによって品質が大きく変わることを知り、どんどん興味が湧いてきました。一口に鮮度と言っても、生豆の鮮度から違えば焙煎した後の鮮度でも変わってきます。コーヒーの研修や勉強会とかにも参加し、突き詰めるほど自分の淹れたコーヒーがどんどんおいしくなるので、コーヒーは奥が深くて多様性に満ちたものだと気づきました。
そして、おいしいコーヒーを飲んでもらいたい、コーヒーの魅力を伝えたいと思いこのお店をオープンしました。」
-開店当初から現在のようなスタイルだったのでしょうか?
中垣さん:「コーヒー専門店という体ではありましたが、紅茶や自家製のジュースとかも出していました。なので、どちらかというと喫茶店として見られることの方が多かったと思います。お店を続けるなかで、どうしたらコーヒーの多様性を伝えられるか、自分が感じている魅力をお客様に伝えられるかということ模索し続けて今の状態になりました。」
コーヒーの複雑な香りや味わいを視覚化して
できる限り分かりやすく伝えることが使命
-入口の正面にある大きなプレートは何ですか?
中垣さん:「コーヒー豆の香味や特徴をマッピングしたマトリックス図です。縦軸が焙煎の深さ(上にいくほど深煎り)、横軸が香りの濃さ(右にいくほど濃い)で分類しています。
コーヒーの苦味や酸味は好みが分かれるので、お客様の好みを聞いてどのあたりが良いか視覚的に判断して地図のように選び出せればと思い、マトリックス図を設置しました。」
-カードに書かれている「ドライフルーツ、ピーチ、シトラス……」の言葉は何ですか?
中垣さん:「飲んだときに感じる代表的な香りです。コーヒーは800〜1,000種類の香りがあると言われているのですが、その中でも特に伝えやすくてわかりやすい香りをピックアップして書いています。
カードの色は豆の産地で分けているのですが、こうして見ると青(アフリカ)は完熟系が多い、緑(南米)はマイルドでキャラメルのような柔らかいタイプのものが多い、など産地で特徴があって、自分の好みの傾向も視覚的に分かるのではないでしょうか。」
-これならコーヒーに詳しくない人でも選びやすく分かりやすいですね!
中垣さん:「マトリックス図を作ったら、お客様との会話も増えましたね。コーヒーの香味は言葉だけでは伝えきれないことも多く、短い時間でお客様の好みを把握しきれない部分もありました。
でも、せっかく来ていただいたならおいしいと思ってもらえるコーヒーを提供したいので、その人が本当に求めるものを、できる限り整理して分かりやすく伝えるのが私の役割だと思っています。」
-コーヒーの飲み比べもその一環でしょうか。
中垣さん:「はい。マトリックス図は5年くらい前から、飲み比べは3年くらい前からはじめました。飲み比べはサーバーで2種類提供するのですが、豆の紹介カードも一緒にお渡しします。カードには豆の品種や標高、精製方法、産地などの他、飲んだときに感じる香りやQRコードでGoogleマップ上で農園の場所がわかるようになっています。
飲み比べでなくても、グループで来店されたお客様にはシェアしながら飲み比べができるよう、カップを付けてお出しします。コーヒーの楽しみの一つである多様性は、同時に飲み比べることで簡単に体感できるので、ぜひお試しいただきたいですね。」
-同時に飲み比べると全然違いますね!私はインドネシアの方が好みかもしれません。自分の好きな傾向がわかると、今度は産地や農園にも興味が続いていきますね。
中垣さん:「そう感じてもらえると嬉しいです。特にこの2つは香味の違いが分かりやすい種類です。あとはコーヒーの生豆を焙煎する際に果肉ごと使うのか、果肉を落としてから使うのかという精製方法(プロセシング)で香味がどのように変わるのか。エチオピアでもいろんな産地があるので、産地による香味の違い、同じ農園の同じ場所で作っても品種によって味がどう変わるかなど、いろんな違いを味わってみると、さらに多様性も感じられると思います。」
今後は”伝える”活動にも力を入れるために
個人から組織へと体制変更
-コーヒーの魅力や多様性を伝えるための活動として、コーヒー教室やワークショップも開催していますか?
中垣さん:「ちょうど5月上旬にお店を拡張して、客席以外のスペースを作ったところです。以前はお昼からお店を営業していて、午前中にコーヒー教室やワークショップを不定期で開催していました。でもここ数年は午前中から営業していたのでしばらくできていなかったのですが、このスペースができたのでお店を営業しながら開催できたらと思っています。水道・シンクやIHがあるので、器具のお試しも可能です。」
-コーヒー豆の産地や農園にも行くことはありますか?
中垣さん:「これまでは妻と2人でお店を続けていたので、農園に行くとなると長期間お店を閉めなければならず、まだ行けていません。しかし、農園へ行ったり勉強会に参加したり、私自身が成長できるような環境を作っていかないと、おいしいコーヒーをお客様に提供し続けられないと感じました。そのためには、チームでお店を回すことが重要で、今年から人を増やして体制づくりをしています。」
-そうなると知識や技術の共有も大切ですね。
中垣さん:「はい、個人ではなく組織としてお店を維持するには、味と品質の管理が重要です。豆の品質や味の状態を評価して見極めるカッピングでも、私と妻、新入社員の3人が把握できるように共有しています。
体制づくりがうまくいけば、今後は海外の農園へも足を運んで産地の情熱や農園主を身近に感じてもらうような発信の仕方もしたいですね。」
-今よりもコーヒーの魅力を伝えるためにできる幅が広がりますね!
中垣さん:「そうですね。まだ自分が伝えきれていないところはあると思うので、勉強できることは多いと思いますし、そういうことを一つひとつ地道に、真摯にコーヒーと向き合ってお客様に伝えていきたいです。その結果、みなさんが幸せになったり、コーヒーを飲んで感動してもらったりすれば何より嬉しいことですね。
コーヒーは複雑で多様性に満ちているからこそ感動できると思います。例えば、コーヒーが苦手な人が飲めるようになったり、全然詳しくない人が自分好みのコーヒーに出会えたり、そういうきっかけになりたいですね。これだけ多くの種類があるので、どれか自分にぴったり合う種類はあるのではないかと思います。」
SHERPA COFFEE ROASTERSで
新しいコーヒーの世界が広がるかも
シェルパコーヒーで取り扱うコーヒーは20種類ほどあり、どれも品質と香味にこだわり抜いたスペシャルティコーヒーです。特徴の異なる種類を飲み比べると、きっとコーヒーの多様性や奥深さに気づくでしょう。
コーヒー豆やボトル入りコーヒーの販売もしているため、家でもシェルパコーヒーの味が楽しめますよ。
自分にとって最高の一杯を探しに、シェルパコーヒーを訪れてみてはいかがでしょうか。