プロから学ぶ、空間づくりのポイント。(中家 拓郎さん)
目次
共にストーリーを考える楽しさ
「空間演出×音楽番組 アポローン」
続いて、舞台美術の事例を教えていただきました。
中家さん: 「日本大学芸術学部の日芸祭2017で、放送学科が主催する空間演出×音楽番組「アポローン」にゲストとして、参加させてもらいました。ダンサーさんの踊る空間を演出して欲しいという依頼でした。生放送の番組の一部という特性もあり、自分で事前施工ができないため学生たちが施工でき、CM中の1分で撤収できるものであること、また予算もあり低コストでなければならないことなど、とても難しい条件がありました。」
中家さん: 「30mの白い布を一枚だけ現地で買い、道具は使わず、人の手による「裂く」「結ぶ」という2つの行為によってつくられるミニマムな舞台美術を考えました。意識したのは、制限と対比です。無彩色である白と黒、光と影。幾何学的な配置と直感的なバランス、布というマテリアルのしなやかさと力強さ、ダイナミックなダンスに対する静かな空間の態度。また番組の後半がプロジェクトマッピングによる演出だったので、そこの対比も大切にしました。制作では10人くらいの学生たちが協力してくれて、材料の買い物から完成までを1日で行いました。
この事例で感じたことは、誰かとともにストーリーを考える楽しさです。ダンサーのERlkaさんとの顔合わせの後、帰りの電車が一緒だったんです。電車の中の雑談で、コンセプトやモチーフが決まっていきました。前半・後半で変化をつけたいこと、ダンスだけでなく表情やしぐさで演じたいこと。そして生まれたのが鳥かごのイメージです。コラボレーションをする相手との対話を通して、自分の作品も変化していくのが新鮮でした。」
中家さん :「完成したストーリーは、「捕らわれている少女が自由になる夢を見る」という物語でした。鳥かごの影の中でうずくまっている少女、曲が始まると少しずつ、自分が自由に動けることを知り、走り回ったり、飛ん跳ねたりします。でも最後はまた暗闇に囚われて終演します(苦笑)。悲しいストーリーですが、これは彼女と対話したからこそ生まれたものです。
誰かと対話しストーリーをつくることは、舞台演出だけでなく、空間デザインに共通してることだと思います。僕のアイディアなんてちっぽけなもので、それを一緒に形にする仲間やパートナーがいるから成り立っています。店舗デザインや住宅デザインでも、考え方は一緒。一人一人の考えやアイデアを出し合って、ストーリーを完成させることは、空間デザインの大切なポイントの一つだと思っています。」
番組の様子はこちらから
https://www.youtube.com/watch?v=WUxpIBSrAJo&feature=youtu.be&t=1m
余白をのこすデザイン
「コミュニティビル MINGLE
いま現在、取り組んでいる岐阜県美濃加茂市のプロジェクトについて話していただきました。
中家さん:「岐阜県の美濃加茂市役所でまちづくりコーディネーターとして活躍されている恩人からのご縁で、美濃加茂市の方々と繋げていただき、いくつかのプロジェクトに関わらせていただいています。」
カフェスタンド(tunagu cafe)
中家さん:「 昨年は、日本昭和村という名前で長年親しまれてきた都市公園が、ぎふ清流里山公園(県立公園)としてリニューアルオープンするにあたり、公園入り口にある、おんさい館(みのかも道の駅)の中にオープンする、こだわりのある農家さんの野菜市場(tunagu ichiba)、新鮮野菜と果物を使ったメニューを提供するカフェスタンド(tunagu cafe)のデザインやディレクションに携わりました。一般社団法人tunaguが運営しています。」
【ぎふ清流里山公園】
https://satoyama-park.gifu.jp
中家さん:「今年は、 駅前の3階建ての小さな空きビルを、リノベーションの力でコミュニティビルMINGLEとして生まれ変わらせるプロジェクトに、デザインの部分で関わっています。1階はカフェ・バー、2階はゲストハウス、3階はシェアオフィスになる予定です。地域の人たちを巻き込んで、掃除イベントや活用方法を考えるワークショップまで、なんども行われてきましたが、いよいよ1階部分の工事が始まりました。
これらのプロジェクトには、企業、地元の有志、地元住民、行政関係者、ワーキングホリデーで滞在していた学生など、たくさんの方々が関わっています。だからこそ、全てを作り混むのではなく、あえて余白をつくることが重要だと思っています。
たくさんの人が想いを1つの形にしていくことは、簡単なことではないのかもしれません。家づくりでも家族の想いが最初から同じではないかもしれませんね。最初から決めすぎず、住みながら育てていくような余白の空間をつくってみてはどうでしょうか。 」
中家さん:「デザインは、形の定まっていないものを決めていくことですが、たくさんの人がそれぞれの立場で関わりながら実現していくプロジェクトでは、決めすぎることがときに誰かの想いを壊すリスクがあるのかもしれません。コンセプトを決め、イメージを共有していくにつれて、より具体的な想いが形として現れてきます。その受け皿がないとみんなの想いを形にしたみんなに愛されるデザインはできないと思うのです。
僕が用意できるのはあくまで6〜7割くらいなのかもしれません。そこから先は関わる一人一人によって形になっていきます。」
【MINGLE】
http://nagoya.identity.city/mingle
その他の事例も少しだけご紹介していきます。すべてに共通していることは、デザインのストーリー・意味がしっかりと考えられているということ。そしてそのストーリーを元に、仲間とつくり上げられた空間であるということです。
JAPAN CRAFT BEER GARDEN @LACHIC
三十路祭り in Nagoya
某マンションの1棟まるごとリノベーション計画
最後に中家さんのお話から住まい、インテリアに活かせる考え方をまとめたいと思います。
①素材を良く知ると特徴をデザインに生かすことができる
②素材や物の背景を考え、意味の込められたものを使う
③子供が自主的に行動する工夫を考えてみる
④自分の手でできることはやってみる
⑤対話し空間のストーリーをつくる
結婚式の事例同様、空間デザインでも大切なことは「本質的な意味」を考えることでした。表面的なデザインや、見栄えを考えるのではなく、どういう空間にしたいのか、どんな想いを込めた空間にしたいのか。そういった背景が明確です。だからこそ中家さんのデザインはどれも他にはない魅力があるのだと思います。そして、信頼できる仲間やパートナーとともに、できるだけ自分の手でつくり上げていく。それこそが、良い空間づくりには欠かせないポイントだと教えていただきました。