大須のミッドセンチュリー・ヴィンテージ家具専門店「Palm Springs(パームスプリングス)」がプロデュースするMID CENTURY HOUSE(ミッドセンチュリーハウス)のモデルハウスが名古屋市守山区に完成しました。店主である長崎夫婦の「アイクラーホームを本気で再現したい」という強い想いから誕生したお家です。
アイクラーホームとは、ミッドセンチュリー時代を象徴するJoseph Eichier(ジョセフ・アイクラー)らが手掛けたモダン住宅のこと。
今回は、期間限定で開催されたオープンハウスにお邪魔し、アイクラーホームのポイントや、お家づくりへの想いを店長の長崎さんにお伺いして来ました。
目次
どうしてヴィンテージ家具屋が
家づくりをはじめたのか
名古屋市中区大須にあるPalm Springsの店舗
まずはじめに、ヴィンテージ家具専門店「Palm Springs」がなぜ家づくりのプロデュースをスタートしたのかをご紹介します。
Palm Springsは約10年前から名古屋大須にて、ヴィンテージ家具が大好きなご夫婦が、ミッドセンチュリーのヴィンテージ家具を販売しているお店です。ミッドセンチュリーとは、「1世紀の中間」という意味。インテリアの世界では主に、1940〜1960年代にデザインされた家具や建築物を指します。
長崎夫婦は、アメリカでの買い付けの合間を見て、現地のオープンハウスを見て回る中でミッドセンチュリーの家を意識するようになったと言います。ちょうどご夫婦のお家を建てるタイミングとも重なり、「本気でミッドセンチュリー時代の家を再現しよう」とお家づくりがスタートしました。
Palm Springsの店内。アメリカから一点一点、納得のいくもののみを直接買い付けています。
長崎さん:「家具の納品や、海外へ買い付けに行く中で、「住宅に入っているヴィンテージ家具ってなかなか知らないんじゃないかな?」と思うようになりました。ちょうど自分たちも家を考える始める時期だったこともあり、海外で見て来ているような空間を見せてあげられるものにしたい、当時の建物みたいな感じの空間が作りたいと思い、家づくりがスタートしました。ミッドセンチュリーのお家の中でも、今回はこの土地との相性を考えアイクラーホームのスタイルでいこうってなりました。」
アイクラーホーム(Eichler home)とは
続いて、アイクラーホームとはどのような住宅かご紹介します。
アイクラーホームとは、Joseph Eichier(ジョセフ・アイクラー)らが手掛けたミッドセンチュリー(1940年代末〜70年代)のモダン住宅。当時住宅供給が追いつかず、宅地開発として安価で、人種の隔たりなどもなく誰でも住める家として設計されました。
家の特徴は、まず平屋であること、外の自然と家の中との境界が曖昧であること。公道などパブリックスペースに対しては閉鎖されている一方、プリベートエリアに対してはガラスを多用して開かれた空間になっていることなど、アイクラーの哲学が随所に散りばめられています。
では、アイクラーホームの特徴と紐付けながら、モデルハウスをご紹介します。
水平を強調した外観デザイン
アイクラーホームの特徴は水平に伸びた屋根。日本の気候の関係上、現地と全く同じ薄さには出来ませんでしたが、極限まで薄く仕上げられています。屋根の薄さと梁の高さのバランスは特にこだわったポイントの一つだそう。
アースカラーの外壁に対し、エントランスドアは色味のあるものを採用しているのも、アイクラーホームの特徴。現地では木製の外壁素材を使用していますが、日本は雨が多い気候のため、リブのあるサイディングで再現されています。サイディングはセメントなどを原料とし、繊維質原料を加え成型したもの。耐震性、耐久火性、遮音性などに優れている外壁材です。
エントリーも兼ねたアトリウム(中庭)
エントランスから中に入ると思いがけない空間が待っています。すりガラスの向こう側には、この家の中心となるアトリウム(中庭)があります。リビング、キッチン、居室の三方向に面し、中庭を囲む壁はほぼ全面ガラス貼り。外の閉鎖的なデザインとは対極的に、光と風がたっぷり入る開放的な空間になっています。
ガラス窓で中と外が曖昧な空間
Palm Springsのお二人が数年かけてセレクトした、こだわりのヴィンテージ家具が並びます。
玄関からアトリウムを挟んでリビングが見える配置もアイクラーホームの間取りの特徴。インサイドアウトサイドという考え方の配置です。リビングもガラスが多用され、開かれた空間になっています。ガラスを隔てて部屋と外が一体化しやすく、家が広く感じます。実際このお家も日本の一般的なお家とそこまで広さとしては変わりません。
レトロな雰囲気を演出する突き板の壁
既に工事中よりも、チェリー材の色が濃くなってきたそう。
リビングの一角は、突板の板張りで仕上げられています。日本の60年代頃の家でも時々使われていました。今回のモデルハウスではチェリー材を採用。チェリー材は月日が経つにつれてどんどんと色が濃くなる経年変化を楽しめる木です。
こだわりのテラゾータイル
リビングはカーペットと「テラゾータイル」という人口大理石で仕上げられています。こちらのタイルは、岐阜県多治見市のタイル工場に実際に足を運びセレクトされたそう。テラゾータイルは商業施設などで使われることが多いので、その端材を安く購入することができました。こうした工夫や努力の積み重ねで、アイクラーホームが再現されています。
タイルは夏場はひんやりして気持ちが良いですが、冬場は冷たくなってしまうので、床暖房が敷かれていました。取材当日は、天気は良いものの12℃と外は肌寒い気温でしたが、エアコンなし、床暖房だけでぽっかぽかでしたよ。
室内から外までつながる梁
アイクラーホームの構造的特徴は。軸組工法でつくられた構造体の梁を見せるデザインになっています。化粧梁などではなく、構造の梁が家の外と中でずっとつながっています。ここは譲れない、これをやめてしまったらアイクラーホームではないというくらいの大切なポイントです。
緑に包まれる開放的なテラス
梁の特徴と合わせてポイントなのが、幅のある庇。この庇の長さを生かして広々としたテラスを設けました。土地の形状を最大限に活かした、緑に包まれる心地よい空間。柵や腰壁などは設けず、インサイドアウトサイドという外と中を曖昧にするデザインになっています。
シンプルで機能性を兼ね備えたキッチン
キッチンからはアトリウムが眺められます。
イエローとブルーの造作棚がアクセントになっています。
ダイニングに対してL字の位置にキッチンが配置されています。中庭からの自然光がたっぷり入り込む空間。リビングの壁同様チェリー材の突板で仕上げています。キッチンの横に倉庫(家事部屋)を設け、洗濯機など生活感のあるものを収納しています。
コンロなどの機器はアメリカ製です。その他にも、サッシ、トイレ、お風呂の扉、シャワールームのホースなどは、現地で買い付けしたもの。アメリカは日本よりもホームセンターなどが充実しているので、日本よりも安価に仕入れられたそう。
長崎さん:「予算を抑える方法として内装の仕様を下げるよりも、視覚的に広く見せる建物の工夫をして床面積を削ったり、資材を提案されたものからだけ選択するのではなく、自分で調べて価格を抑えるなど、工夫や努力をする方が良いかなと思います。」
ブロックや岩を使った壁で、暖炉をイメージ
実際のアイクラーホームには、標準で暖炉がついていました。今回は暖炉は入れられていませんでしたが、暖炉をイメージしたブロック壁がリビング中央に設置されていました。存在感抜群でお部屋のアクセントになっています。実際のアイクラーホームのように暖炉をつける場合は、もう少し厚みがあるそうです。
お気に入りのヴィンテージ家具たち
プライクラフト社製ミスターチェア(アメリカ)
Palm Springsはミッドセンチュリー・ヴィンテージの家具専門店。間取りの段階から、大体の家具や照明の位置もイメージしながらプランされました。ヴィンテージ家具は一期一会ということを痛いほどご存知のお二人は、まだ家を建てる計画もない時期から、お気に入りの家具を集めらていました。そのお気に入りの家具たちを引き立たせてくれる空間をつくることも家づくりの目的の一つなのだそう。
そんなお気に入りのヴィンテージ家具の一部をご紹介します。
左:エイドリアン・ピアソールデザインのロングソファ(アメリカ) / 右:シェルフ(ドイツ) / 照明:モダンウォールシャンデリア(アメリカ)
奥:ドレクセル製キップ・スチュアート ブックシェルフ(アメリカ) / 壁の飾り:カーチス・ジェレ ウォールスカルプチャー(アメリカ)
照明:スプートニクランプ(アメリカ) / 壁の飾り:バードスカルプチャー
ウォールユニットシェルフ(デンマーク製)
Palm Springsのお二人のミッドセンチュリー・ヴィンテージ家具や家に対する熱い想いをひしひしと感じました。アメリカに何度も足を運び、さまざまなお家を実際に見ているからこその空間でした。見学会には、東京、千葉、遠くは沖縄からもご来場があったそう。そのくらい、他ではなかなか見られないアイクラーホーム。ミッドセンチュリーや、ヴィンテージ家具がお好きな方にはぜひ一度体感していただきたいお家です。