はるひ美術館で栗木義夫「CULTIVATION-耕す彫刻」をみる

清須市
掲載日:2023.05.16

ドローイングについて

自身で「30年くらい、ドローイングが鍵となっている。」というほど、栗木さんの作品を語る上でドローイングとの関わりを知ることはとても重要な要素になってきます。

展示室1「インスタレーション」の一部

栗木さんは手をとおして考えていく、手探りで思考するということを大切にしています。

恩師である柳原さんが、「彫刻とは、カーヴィング、モデリング、カルチベーション である。」と仰っていたそうで、その中でも、今回展覧会のタイトルにもなっている”CULTIVATION=カルチベーション”は、栽培、耕作、開拓などの意味があり、栗木さんの造形表現の根幹をなしている言葉でもあります。

展示室1「インスタレーション」の一部

栗木さんの考えるカルチベーションは「人とは違う自分らしさを見つけたい、自分らしさってなんだろう。」と、自分を掘り起こしていくことです。そして表現というものをスタイルに陥ることなく可変していくためにドローイングがあります。

ドローイングは
自分の意思が介在していないものは違う
かっこうつけて何かしようとするものも違う
図像を描くとパターンになっていくので、そうならないように配慮しながらも、自分との距離を近づけるために量を描く

と語ります。

今回の展示でもたくさんのドローイングが展示されています。

 

展示室1「Untitled」1979年ー2023年鉄、陶、油彩、クレヨン、ジェッソ、キャンバス、紙、その他インスタレーションの一部

ドローイングは、イメージをビジュアルに起こして対峙していく作業でもあります。

それは、自分が感じることと人が感じることの差を埋めてくれるものであり、橋渡しになるものでもある。と教えてくださいました。

栗木さんのドローイングはいくつかの種類があり、ひとつは音楽を聴くときに出てくる旋律的なもの、ふたつめは自分の記憶をたどる形。そしてその二つが混在したもの。です。

イメージをビジュアル化しドローイングとして成長させていきます。

平面の構成として見えたら、つまらないのでそういう時は自分のものになるまで待ってみるそうです。

展示室1「Untitled」1979年ー2023年鉄、陶、油彩、クレヨン、ジェッソ、キャンバス、紙、その他インスタレーションの一部

栗木さんは、60歳になる頃ドイツで展示した際に、ドイツの作家さんたちとの会話の中で「何で作るんだ」という話題があがり、その時に学生時代に教わってきたことと今自分がしたいと思っていることにズレが生じていると感じたそうで、「自分の表現とは何だ。」と見つめ直すきっかけになりました。

「Untitled」2006-2023年 鉄、陶、油彩、キャンバス、その他

絵を描くことについて(作品解説より)

当初、自分にとって描くことは、対象物を捉えるクロッキーや、立体を作るためのプラン(面)を平面に落とし込む行為だったが、ドイツで活動するアーティスト達と関わる中で心のなかにあるものを描く「ドローイング」という方法を知り、そのような絵の描き方に挑戦するようになった。自分にとってドローイングをすることは、思考がリフレッシュされて新たな可能性を見つけるきっかけになったり、考えていることをビジュアル化し、アップデートし、そこからまた触発されていく、そんな循環がうまくいく方法だと思っている。

展示室1「Untitled」1979年ー2023年鉄、陶、油彩、クレヨン、ジェッソ、キャンバス、紙、その他インスタレーションの一部

栗木さんが教わった恩師である柳原さんと、土谷さんがどういった作家さんなのか、作品を拝見してみたところ、栗木さんの学生の時の作品は確かに影響を受けておりこのお二人の教え子なんだということを、妙に納得してしまいました。

学生の時に制作した作品「untitled」1979年 鉄

栗木さんは、私が10代の頃に河合塾で学んでいた時に教えていただいた先生なのですが、私の先生の栗木さんにも先生がいて、その先生にもきっと先生がいて…..そう思うと美術の文脈の中に自分も繋がっているような気もして、世界が広がる気がしました。

展示室1「untitled」1979年ー2023年鉄、陶、油彩、クレヨン、ジェッソ、キャンバス、紙、その他インスタレーションの一部

血が繋がっているわけではないのですが、家系図のように、先代や先先代の教えや思想みたいなものが受け継がれてきて、枝葉のように別れてそれぞれが成長していってまた繋がっていく様子を思うと、制作する時はイメージや作品にひとりで対峙しているようだけど、その背景には栗木さんを初め恩師や、会った事がなくても作品を通して影響を受けてきたアーティストや、友人、家族、たくさんの人との関わりが私を作っていて、作品になっていっていることを改めて感じました。

数多くの栗木さんの教え子たちは、それぞれ栗木さんにもらった言葉や思考を身体や心の栄養として、自分の畑を耕し種をまき、育て、様々な実を実らせていることでしょう。

そして、「人間は興味があると触りたくなる。」とのことで、触ってもOKな作品が設置されています。

「OPERATION」1990年 鉄

こちらのエントランスの作品のみ触ってもよいとのことなので、触ってみましょう!ただし、溶接部分は尖っているところもあって危険なので、中央部分のみ(やさしく触ってくださいね)

6月24日にもアーティストトークが開催されます。予約も不要なので、ぜひお越しください。

美術館側から見た清須市立図書館の建物

そしてはるひ美術館のお隣には清須市立図書館も併設されています。

栗木清美「fairy」2006年 油彩 キャンバス 清須市はるひ美術館蔵

図書館2階の奥の部屋には奥様の栗木清美さんの作品があります。展示期間は、ただいま展示中で、2023年6月25日頃までの予定です。

金城琉斗「生まれた椅子」 ダンボール、紙、アクリル絵の具 2022年制作

1階の展示スペースには名古屋芸術大学の学生や卒業生の展示があります。こちらは定期的に展示替えされています。展示空間はガラス張りになっていて外からもみることができます。

はるひ美術館にお越しの際は、清須市立図書館にもぜひお立ち寄りくださいね。

 

栗木義夫 CULTIVATION-耕す彫刻

●アーティストトーク
作家本人が作品についてお話しします。
日時:
4月30日(日)〈終了〉、6月24日(土) 各日14:00~(40分程度)
会場:
清須市はるひ美術館
話し手:栗木義夫
聞き手:加藤恵(清須市はるひ美術館 学芸員)
申込み不要(観覧料が必要です)


会期   2023年4月29日(土・祝)~6月25日(日)
開館時間 10:00〜19:00(入館は18:30まで
休館日  月曜日
観覧料  一般 500円 中学生以下無料
     ※20名以上の団体は1人450円
     ※各種障がい者手帳等提示者及び付添人1名は無料
     ※清須市立図書館貸出利用カードのご提示で450円
主催   清須市はるひ美術館
     

清須市はるひ美術館では、2023年度企画展として、彫刻家・栗木義夫(1950-)の展覧会を開催します。
 栗木は瀬戸市の陶芸家の家系に生まれ、やきものに使われる土や窯が身近にある環境で育ちました。日本大学で柳原義達のもと彫刻に対する考え方と表現について学び、その後は自身の制作と向き合いながら鉄を素材とする抽象形態のスタイルを確立させていきます。
 「Cultivation(カルチベーション)」は、栗木の造形表現の根幹を成す言葉です。従来は耕作や栽培といった意味を持ちますが、彫刻概念に深く関わる言葉の1つでもあります。手やからだを動かして身の回りのものにふれ、その変化と対峙しながら思考すること、そして、その姿を美術の道を志す人々に示すことで表現者を育てていくこと。栗木の彫刻から浮かび上がる思想には、田畑を耕し土壌を豊かにするイメージを重ねて見ることができるのではないでしょうか。
本展では、栗木が1990年前後に手掛けた鉄の大型作品から、近年の陶による立体、そして油彩などの絵画作品を一挙にご紹介します。幅広い手法で造形表現を問い続けてきた栗木が作り出す展示空間をぜひご覧ください。


栗木義夫(くりき・よしお)
1950年 愛知県瀬戸市生まれ
1979年 日本大学芸術学部美術科卒業
1981年 愛知県立芸術大学大学院彫刻専攻修了
長年、美術予備校で講師を務める。
現在、名古屋芸術大学特別客員教授。
【主な個展】
1991年 ギャラリー山口(東京)[1993、1995]
1992年 ウエストベスギャラリー(愛知)[1994]
2006年 「栗木義夫彫刻展」瀬戸市美術館(愛知)
2007年 GALLERY M(愛知)[2010、2012、2013]
2010年 田口美術(岐阜)
2012年 KUNSTLERGRUPPE arche(ドイツ)
2014年 田口美術/宝鑑美術(岐阜/愛知)
2016年 masayoshi suzuki gallery (愛知)[2017]
2018年 「Fell One’s Way」Gallery O2(石川)
2019年 「Kaizen」Museum der Stadt Schopfheim(ドイツ)
    「Outside Window」DiEGO表参道(東京)
2021年 「Poetry of Memory」amschatzhaus(ドイツ)
2022年 「Crafting Poem」侶居(三重)
    「Anthology of Works」DiEGO表参道(東京)

【主なグループ展】
1979年より新制作協会「新制作展」に出品(2012年退会)。
「大垣市野外彫刻展」(1981)、「それぞれの空間表現展」岐阜県美術館(1986)、「フィーリングハウス」三重県美術館(1988)、「都市空間と木の造形展」名古屋市美術館(1988)、「新鋭作家展」ギャラリーせいほう(東京、1991, 1992)、「五人の造形展」さいとう画廊(愛知、2005-2009)、「International workshop for visual artist in Remisen」(デンマーク、2006)、「Art terra workshop Hannover」(ドイツ、2010)、「silent white + white shadow RODE UND LANFER」(ドイツ、2017)、「栗木義夫・栗木清美二人展」田口美術(岐阜、2019)、「愛知県美術館リニューアル・オープン記念 全館コレクション企画 アイチアートクロニクル1919-2019」愛知県美術館(2019)、「瀬戸現代美術展2019」(愛知、2019)、「2021年度第3期コレクション展」愛知県美術館(2022)、「瀬戸現代美術展2022 プレエキシビジョン elements」旧祖母懐小学校(愛知、2022)、 「瀬戸現代美術展2022」菱野団地(愛知、2022)、「2022年度第3期コレクション展」愛知県美術館(2023)。

【パブリックコレクション】
岐阜県大垣市くまの南公園
Universitäre Psychiatrische Kliniken Basel(スイス)
愛知県美術館

スポット詳細

版画で作品を制作しながら、イラスト、デザイン、講師のお仕事をしています。好きな美術館は、豊田市美術館とルイジアナ美術館。愛知県在住。

Instagram:@ito_licca

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