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名古屋市名東区にある「南インド家庭料理カルナータカー」。インド料理店はたくさんあるけれど、「南インド料理」とは一体どんなものでしょうか?
今回は、カルナータカー店長の土屋さんが本場インドで修行したお話や、南インド料理にかける想いなどを聞いてきました。
地下鉄東山線「藤が丘駅」から徒歩約13分、閑静な住宅街に位置するカルナータカー。外観の竹ぼうきのひさしやお花の飾りから、すでにインド感が漂ってきます。
壁にはびっしりとインド映画のポスターや世界地図、インド国旗などが貼られています。
「やるならドーサしかない」
南インド料理をやろうと思ったきっかけ
移動販売車からはじまり、2012年に実店舗をオープン。今年10周年を迎えるカルナータカー店長の土屋さんにお話をうかがいました。
土屋さんはもともと、ある財団法人で調理師として14年間勤務していました。そこには海外から研修生が集まり、さまざまな国の料理をつくっていたといいます。土屋さんは世界一周の経験もあり、そのときにインドにも訪れています。
ところが業務委託の都合で、ある日職を失ってしまいます。そんな中「エスニック料理で何かやりたい」と思ったときに、南インド料理のドーサが浮かんだといいます。
※ドーサとは:
米とウラド豆をすりつぶし、発酵した生地をクレープのように薄く伸ばして焼いたもの。南インドでは朝食のメニューとして人気があります。
土屋さん:「やるならドーサしかない!と思ったんです。当時、日本で南インド料理をやっているところはまだ全然ありませんでした。誰もやっていないものをやりたかったんですよね。インドはナンだけじゃないんだと、知ってほしかったんです。」
2010年、土屋さんは南インド料理を勉強するため、南インドのバンガロールという街を訪れます。財団法人に勤めていたときに知り合った研修生の家を訪ねて、家庭料理を学んだり、ときにはレストランに飛び込みで行ったりすることもあったそうです。
土屋さん:「突然レストランに行って、勝手にたまねぎをむくのを手伝ったりしたんです。横でドーサをつくるのを見て学んだこともありました。」
現地で修行を積んだ土屋さん。しかし「すぐに店を出してもダメだ」と思ったそうです。
土屋さん:「ドーサで店を出したって、知名度がないからすぐに潰れてしまうと思いました。そこで、まずは移動販売車で試してみようと思ったんです。当時はドーサの説明をしてからじゃないと提供しないという頑固なスタイルでやってましたね(笑)」
ドーサや南インド料理を知ってほしい。そんな想いで提供を続けた土屋さん。「小麦粉食と米食の文化の切れ目を探したい」と、バイクでインド縦断の旅をしたこともあります。
そもそも南インドカレーってなに?
知名度が低かった南インド料理ですが、カルナータカーをはじめて10年、やっと人々の間に浸透してきたと感じているそうです。
土屋さん:「北インドは小麦粉食、南インドは米食という大きな違いがあります。南インドのカレーは米と絡めて食べるため、水分が多くサラサラしているのが特徴です。日本も米が主食ですから、南インドカレーは日本人の口に合うと思いますよ。」
カルナータカーのシンボルであるドーサは、店舗で手作りしています。
土屋さん:「米・ウラド豆・フェヌグリーク・水を専用の機械で挽きます。ウラド豆が発酵するため少し酸味があるのが特徴です。その中に、スパイスで味付けしたじゃがいもを入れたものがマサラドーサです。」
他にも南インド料理には、豆とトマトの酸味が効いたスープ状のサンバールなど、北インドとは違うさまざまな料理があります。
店名「カルナータカー」の意味
土屋さんが修行したバンガロールは、南インドのカルナータカ州に位置します。店名はその地名から取っていますが、他にも秘密が。
土屋さん:「最初は移動販売車からはじめたので、車の「カー」とかけたんです。本当は「カルナータカ」と語尾は伸ばさないんですが、勝手にかけ合わせて作った造語なんですよ。」
カルナータカーでは店舗の2階も使用して、時々インド映画上映会やインド音楽コンサートなども行っています。
土屋さん:「第一に南インド料理を普及することはもちろんですが、インド文化の発信もしたいと思ってやっています。カルナータカーを通して、インドの魅力を知ってもらえたらいいですね。」
本場インドの味!
カルナータカーの南インドカレー
カルナータカーでは化学調味料を使用しておらず、グルテンフリーでベジタリアン対応の体にやさしいカレーを提供しています。(オプションで魚や卵も選択可。)
ランチはごはん、サンバール(酸味のある豆と野菜のカレー)、チャイがおかわりできるAセットがおすすめです。(ディナーはお休み中。2022年1月現在)
カレー3種はその日の看板から選べます。この日、選んだのはサンバール、ミックス野菜のココナッツカレー、ムング(緑豆)のカレーです。
どのカレーもスパイスはしっかり効いているのに、辛くなくやさしい味わい。食べやすく、するすると口の中に入っていきます。
定番の豆カレーは米と相性ぴったり。
左のココナッツカレーは、かぼちゃとココナッツのやさしい甘味が広がります。特に女性や子どもに人気のありそうな味です。
右のトマトの酸味が効いたサンバールはオクラ入り。お米と混ぜても、単体で飲んでもOK。サンバールは日本人にとっての味噌汁のような定番の存在です。他とは違う酸味が、よいアクセントになっています。
ココナッツチャツネとトマトチャツネ。カレーと混ぜて食べると、違う味わいを楽しめます。
おかわりを提供してくれるのも、インドスタイル。
食後のチャイもおかわり自由。傾けると「カラカラ」と音が鳴る不思議なグラスです。
ここまで本場の味で、おかわりのスタイルまでインドを再現しているお店は他にはありません。インドの話を始めると止まらない土屋さんのキャラクターも相まって、カルナータカーにはインド好きなコアなファンが集います。
無添加の自家製パパド
土屋さんは、現在パパド(豆せんべい)作りにも力を入れています。コロナ禍で夜営業ができなくなったことと、南インド料理が日本で認知されてきたことをきっかけに「誰もやっていないことをやりたい」とはじめたパパド作り。
土屋さん:「インドでパパドは砕いてカレーにかけたり、お酒のつまみで食べたりします。ただ、インド製のものは添加物も使っているし、塩分が多いんですよね。それで、無添加で塩分も控え目なオリジナルパパドをつくろうと思いました。」
インド製とカルナータカーのパパドを食べ比べると、その差は歴然。自家製パパドは豆の香りを存分に感じられ、風味が豊かです。パパド作りのために、専用の機械も導入しました。ギョーザを作る機械をもとに、中国の業者に特注でつくってもらったそうです。
土屋さん:「パパドは豆・スパイス・塩・油・水を配合して作っています。2か月間試作を続け、今では10種類のパパドをつくっています。自店で販売するだけではなく、レストランや食材店に卸すことも徐々にはじめていますよ。ドーサを広めたときと同じように、多くの人に知ってもらえるようがんばります。」
最後に南インドカレーの楽しみ方を聞きました。
土屋さん:「豆カレーやサンバールと、分けて食べるのもいいですが、食材を混ぜて自分の好きな味を探すのが南インド料理の醍醐味です。カレーを混ぜて、味の変化も楽しみながら食べてほしいですね。」
「南インド料理やドーサを、たくさんの人に知ってもらいたい」その一心で移動販売時代から続けてきた土屋さん。これからも挑戦は続きそうです。