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カンボジアの美しい天然素材を使用したカゴ雑貨や、カゴバッグ、トレイなどを製造販売している『moily』。カンボジアで採れる「ラペア」という素材を使用し、一つひとつ現地の人による手編みでつくられています。
学生の頃、バックパッカーとして16カ国を旅していた代表の池宮さん。「貧困から抜け出すには、自らお金を生み出さなければ」と現地で雇用をつくりたいと、カゴづくりをはじめました。今回は、moilyの誕生秘話、カンボジアの村について、かごのこだわりなどたっぷりとお話を伺ってきました。
すべてのはじまりは、
ボランティアで訪れたカンボジア
moilyの代表兼デザイナーである池宮 聖実さん
moilyのはじまりは、池宮さんが2009年にボランティアとしてカンボジアを訪れたことからはじまります。
池宮さん:「大学三年生の終わりに、「貧しい人たちの役に立ちたい」という想いでボランティアとしてカンボジアに行きました。カンボジアって貧困で苦しんでいる国だし、学校に行けない子も多いし、日本の私が助けてあげなきゃという気持ちでした。
でも、実際に現地を訪れてみると全く違いました。「なんて幸せそうな国なんだ。お金や物ではなくて他のもので満たされている。」と衝撃でしたね。私が日本で21年間学んできたことはなんだったのだろうって。カンボジアの人たちは、日本とは全然違う価値観で生きていて、自分の目で見ることと、メディアが発信することって、だいぶ違うのだなということをそのときに知りました。」
世界16カ国を周るバックパッカーの旅に出発
ネパールにて。ネパールでは公立学校で教師をされていました。
当時教員を目指していた池宮さん。その年の教員採用試験を見送り、翌年2010年に世界16カ国を周るバックパッカーの旅に出発します。
池宮さん:「私はこれから人に教えていく立場になっていくのだから、本当のことを自分で見て伝えていく教師にならないといけないと思い、世界を旅することを決心しました。訪れる国はなかなかリアルな情報が日本に入ってきにくい、中東諸国やアフリカ、東南アジア、南米を選びました。
各国では、本当のことを自分の目で見たいという理由から、公立学校で教師をしたり、孤児院で働いたり、多くの学校を訪問しました。なるべく現地の生活に入り込むようにしました。アラブの遊牧民であるベドウィンたちと洞窟で生活したり、またあるときにはマサイ族とともに踊りながらヤギの肉を食べて生活をしました。」
ケニアにて。
池宮さん:「そして、どの国も貧困で苦しんでいる人たちが多くいました。最低限の収入がないから、学校にも行けないし、病院にも行けない。ある国の学校で教師をしているとき、突然一人の生徒が学校に来なくなりました。なんでだろうと自宅を訪ねると、「親が働きに行くから、兄弟の面倒を見なければいけないから学校に行けない」と。貧困問題が人ごとで無くなっていくと同時に、途上国の人が支援や寄付に依存していることも各地で感じました。
この時現地に収入源を作ることは、私にできる貧困問題を解決する第一歩だと思いました。16カ国を周る中で、どの国が好きとか嫌いとか決められないくらい、大切な人たちと出会いました。どの国でスタートするかを決めるのはとても迷いましたね。でも、すべてのきっかけを与えてくれたという理由から、カンボジアをmoilyの立ち上げの国に選びました。」
かごとの出会い。
まだ、誰もやったことがないことがしたかった。
左:オーバルトレイ(S ¥2,700〜L ¥4,320) 右:スクエアトレイ(S ¥2,484〜XL3,780)
旅を終え、3年間の準備期間を経て、池宮さんは再びカンボジアを訪れます。
池宮さん:「とにかく誰もやっていないものをやりたかったんです。まだ埋もれていて価値が見出せていないけれど、本当はブラッシュアップすれば光るもの。その国、その村の力になるものが良いなと。それを探しに行こうと2014年に再びカンボジアを訪れました。
現地で自転車を買い、毎日走り回りました。ある日、「そういえば初めてカンボジアに来たときに、かご屋をみかけたな」と思い出したんです。5年間一度も思い出したことはなかったんですけど、あまりにも毎日「何かないかな」と考えていたから思い出したのだと思うんですよね。探して、探して、ようやくかご屋を見つけました。「やっぱり可愛い。よし、かごにしよう!」と直感で決めました。」
ポットスタンド(¥2,000〜¥2,808)
ランドリーバスケットM ¥5,400
池宮さん:「直感で決めてしまったので、日本のかごの需要やクオリティは全く分かっていませんでした。どのくらいの需要があるのだろう、どんな種類のかごが人気なんだろうということを知りたくて、雑貨屋で働いた経験のある友人に連絡したことがありました。そしたら、「かごなんてもう飽和して売れないから辞めなよ」と。友人に相談したら、反対されるとこのときに知りましたね(笑)。それ以降、今までの私を知っている人には話さないと決めました。どうしてもかごが売りたかったので、悔しさをばねに自分を信じて突き進みました。」
「moily」という店名に込められた想いとは
そして、2015年、ついにmoilyが誕生しました。「moily」という店名には、16カ国の旅の中で感じた、池宮さんのある想いが込められていました。
池宮さん:「バックパックの旅では、できるだけ日本に情報が入ってきにくい土地を選んで訪れていました。そのとき思ったのは、国籍や人種などフィルターをかけて見がちだけれど、「どこへ行っても人は結局人なんだな。」ということです。
すごく仲良くなると、「この人、日本のあの子に似てるなぁ」とか、「賢くて、理屈で攻めてくるタイプね」とか、「外国人の彼女が何人もいるプレイボーイタイプね」とか、それぞれの個性が分かってくるんです。マサイ族って俊敏なイメージがありますよね。けど、いつも皆よりワンテンポ遅くて、忘れ物も多くて、着こなしがイマイチ。そんな人もいるんです。日本人と何も変わりません。」
ショルダーカゴバッグ ¥12,960
池宮さん:「どうして、これまで国籍や見た目で人を判断していたんだろうって思いました。人間というくくりだけでいいなって思えたんです。その想いを忘れないように店名にしました。「moi」は、カンボジアのクメール語で「一つ」という意味です。そこに英語の「ly」をつけて、”みんな一つ”という意味を込めました。」
moilyのかごの特徴
ここからは、moilyのかごについてご紹介していきます。かごの素材は、「ラペア」と呼ばれる藤の一種で、カンボジアやベトナムの一部に生息する植物。日本で用いられている藤と比べ、カビにくく、強度も強いと言います。
池宮さん:「かごの特徴は「ラペア」という素材です。強度もあり、ささくれも少なく、水にも比較的強いので、じゃぶじゃぶと水洗いすることも可能です。素材の良さを生かすよう、色をつけたりニスを塗らず、無塗装で使用しています。使えば使うほど艶が出てきて、少しずつ色が変わり、経年変化を楽しめますよ。」
カンボジアのかごは、現地でこのように使われています。
池宮さん:「ラペアが採れる周辺の村では、昔から生活用品としてかご編みが行われてきました。もともとは、野菜を売ったり、魚を取ったり、パンを運んだり、道具のひとつでしかなかったんです。だから結構汚くても良くて、ざっくりとしたつくり。使い勝手は良いけれど、日本で売るにはだいぶ違うなと思ったので、何カ月もかけて商品づくりをしました。」
左:スクエアトレイ(S ¥2,484〜XL3,780) 右:オーバルトレイ(S ¥2,700〜L ¥4,320)
池宮さん:「もう一つの特徴は、美しい編み目ですね。これほど硬くて丈夫な素材をここまできれいに編めるのは、職人の技術力の高さのおかげです。だからこそ、デザインを考えるときには職人たちとよく話し合うようにしています。
「もっと小さいものをつくって欲しい」「こんなデザインを作って欲しい」という要望を日本でもらうこともあるのですが、まずは職人さんと話し合います。「こんな小さいの編めない」「無理だ」と言われることも。それが努力したら解決できる問題なのか、素材の問題なのか、私では判断ができません。そうした部分を誰よりも知っているのは職人です。美しい商品をつくるためにも、職人の声を大切にするようにしています。」