店主がカフェと工房をセルフビルド。のどかな田園風景の中で、つくる楽しさを体験できる「木工房&カフェ 結」|岐阜・垂井町
2018.6.1
名古屋から車で約1時間。岐阜県不破郡垂井町にある、木工房・カフェ「結(むすび)」。思わず深呼吸したくなる田園風景の中に、お店は突然現れます。自然素材にこだわった家具・木工製品を製作する木工房に、カフェと展示室が併設されています。
実は、木工房やカフェの建物はすべて代表の黒川さんが一人で建てられたものなんです。今回は代表の黒川大輔さんにお話を伺ってきました。
「結」があるのは、岐阜県不破郡垂井町。濃尾平野が一望できる少し小高な場所に位置します。

カフェ「結」。入った瞬間、木の香りがふわっと広がります。
木工との出会い
「木工房・カフェ 結」の代表である黒川大輔さん
本業は定時制高校の教員である黒川さん。どうして木工房をやりはじめたのか。きっかけからお伺いしました。
黒川さん:「もともとの趣味は、木工ではなくトライアスロンだったんです。ですが、30歳の頃に限界を感じてやめてしまいました……。やることがないなと思っていたそんなとき、新築した自宅用にテーブルを自分でつくったんです。それがきっかけで、木工の楽しさに目覚めました。そこからはどんどんのめり込んで、小さな物置小屋を借りて、小遣いで道具や材料を買いながら10年ほど趣味で木工をやっていました。40歳のとき、「趣味で木工製品や家具をつくるのには限界がある。もっと深い技術を学ぼう!」と家具職人の工房に弟子入りをして、本格的に技術を学びました。」
家具の練習でつくったというミニチュアの椅子。実寸大をつくるよりも、難しいのだとか。
黒川さん:「本格的に学んでいく中で、「木工を一生の仕事にしたい。そのためには材料や工具が置ける広い作業場が必要だ。」と思うようになりました。そこで土地を探したり、建設費用を見積もりをしましたが、費用が高く諦めかけていました……。
そんなとき、あるクラフト展で一人の大工さんに出会いました。私の木工製品を買ってくださって、会話の中で工房をつくりたいという話をしたところ、「それなら自分で工房をつくったらいいやん」と。その瞬間、「これだ!」と思いましたね。それから約半年間、日中は滋賀に通い、大工仕事を学ばせてもらいました。」
こうして家を建てる技術を一通り習得した黒川さん。物置小屋の貸主の方から現在の土地を譲ってもらい、約半年かけて木工房をつくりあげました。
黒川さんがセルフビルドで建てた木工房。

中にはたくさんの工作機械や材料が。ここで黒川さんの家具や木工製品はつくられています。
カフェも4年かけてセルフビルド
続いて「カフェ結」についてお話を伺いました。こちらも黒川さんの手によって、セルフビルドで建てたもの。セルフビルドとは、「自分たちでできるところは自分たちでつくる」という考え方です。
黒川さん:「木工房で木工教室やワークショップを定期的に開催していました。そこでつくったものを展示したり、みんなでつくったものを見ながら話せる場所が欲しいと思うようになりました。そこで木工房同様、セルフビルドでカフェをつくりました。学校の仕事が始まるまでの昼の時間帯しか作業ができないので、完成まで4年くらいでしたね。
カフェの塗り壁や、半屋外のギャラリースペースの三和土(たたき)は、SNSで呼びかけたワークショップで、多くの人と楽しみながらつくりました。こうした体験は今ではレジャーの一つなんですよね。都市部ではなかなかできないですし、田舎でも一から自分で準備するのは大変です。他にも、ピザ窯づくり、小屋づくりなど、「こんな暮らし方、遊び方もどうですか?」というライフスタイルを提案するワークショップを定期的に開催しています。」
セルフビルドの様子

ワークショップの様子
ワークショップの様子
外にある石窯もワークショップでつくりました。ピザを焼いたりしているのだそう。
黒川さん:「建物のテーマは「シンプル」です。長方形の片流れという一番シンプルなデザインで建てました。また、できるだけエネルギーを使わないようにするために、南北は狭くなるよう細長い形状にしています。真冬でも日差しが奥行きいっぱいまで差し込むように計算されているので、寒い季節もストーブ一台でぽっかぽかですよ。」
黒川さん:「もう一つのテーマは「天然素材しか使わない」。新建材は使わず、窓枠から家具まですべて木材でつくりました。壁は昔から日本でよく使われている土壁を採用しています。下地として竹を貼り、その上から藁(わら)の入った土を塗っています。左官のプロから見ると、ひび割れを減らすためにこの上からもう一塗りしなければいけないのですが、このひび割れも味わいがありますよね。こうした手作り感もセルフビルドの魅力ですね。」
天井まですべて木でつくられています。

ドアノブも黒川さんのお手製。優しい木の質感が魅力的です。
ワークショップで塗った土壁
カフェがあることで、
木工製品や家具のイメージができる
カフェの中にあるテーブルや椅子などの家具や、鍋敷きやシェイカーボックスなどの木工製品はすべて、工房で黒川さんが製作したものです。カフェに訪れたことをきっかけに、家具を依頼される方も少なくないのだと言います。
黒川さん:「例えば、シェイカーボックスなんかも使い方がわからなかったりするんですよね。でもこうしてカフェがあることで、実際に手にとっていただいて「何を入れようか」とイメージしていただいたり、使い方をお伝えすることもできます。家具も座ったり、お茶を飲んだり、実際に使っていただくことでその方に合う合わないがわかると思うんですよね。カフェがあることで、実際に家具や木工製品をみていただけるようになったのは、とても良かったと思います。」
最近では、デザイナーからの製作依頼も増えてきたという黒川さん。ここからは少し黒川さんの家具や木工製品の事例をご紹介していきます。
岐阜県池田町にある「neshian」というお店のテーブル。
折りたたみ式の桜のテーブル

新築のご自宅用に製作したカウンター下のサイドボード

鉄筋を溶接して脚にした杉のテーブル

野外イベント用に製作した組み立て式の小屋ブース
曲げ木の技術を利用した、シェーカーボックスなどのインテリア小物や杉の曲げわっぱ
岐阜県関ヶ原町に7月オープン予定のカフェの家具一式。

家具づくりの際には、こうした模型を使ってお客さんと完成イメージを共有します。写真にすると、本物と見間違えるほどの精巧さです。
最後に黒川さんの今後の展望を聞かせていただきました。
黒川さん:「今年の4月には、カフェスペースの隣のギャラリースペースだった場所に、かご屋「moily」さんのお店がオープンしました。今は、木工房、カフェ、moilyさんのお店だけですが、もっと色んな人のショップが点々としているような場所にしていきたいと考えています。
これからの時代は、食だけ、服だけ、という商品展開のお店よりも、その場所に行けば自分たちのライフスタイルを豊かにしてくれるというショップが求められてくると思います。服屋さんの隣にカフェがあったり、カフェの中に本屋さんがあったり、そういう場所が増えていますよね。でも、ただの寄せ集めだとモールになってしまいます。そうではなく、共通したコンセプトや想いのお店が集まるようにしないといけないかなと。「あそこに行けば、何かつくれる。生活を豊かになる。」そんな場所にしていきたいですね。」
今年の秋からは、庭のスペースにガーデンデザインの事務所をつくる計画が始動する予定とのこと。もちろん建物はセルフビルドで建てれるそう。今後の「結」からも目が離せません。
木工房・カフェ「結」は、「まずは週末にのんびりショートトリップ気分で訪れて欲しいです。」という黒川さんの言葉通り、自然豊かで訪れるだけでも心も身体も癒される、そんな場所です。セルフビルドとは思えないほどの建物の完成度には、黒川さんの技術の高さ、木工への想いの強さを感じました。名古屋から車で約1時間。週末にふらっと訪れてみてはいかがでしょうか。
【木工房・カフェ「結」】
住所 :岐阜県不破郡垂井町敷原173 MAP
電話番号:090-7957-3166(木工房) 090-2345-8130(カフェ)
営業時間:金曜日(13:00〜16:00)、土・日曜日(13:00〜17:00)
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