森のアトリエで生み出される、作陶家・吉田直嗣さんの 黒と白の器。
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白磁陶芸家・黒田泰蔵氏に師事
4年間陶芸に没頭し、大学を卒業した吉田さん。卒業後は伊豆高原の陶芸教室の講師に就職されました。
– どのような陶芸教室だったのですか?
吉田さん:「修学旅行生が大勢訪れるような観光陶芸の教室でした。多いときには、1日100〜200もの人が訪れ、営業後に焼き上げをするという毎日。当然、自分の制作は何もできませんでした……。知り合いの陶芸家の方に相談したところ、辞めた方が良いと即答されました。その方が、伊豆高原在住の陶芸家・村木雄児さんを紹介してくれたんです。村木さんを訪ねたところ、黒田泰蔵さんを紹介してくださって、ちょうどアシスタントを探しているタイミングでした。陶芸教室の仕事を終えた翌日から、弟子入りさせてもらいました。」
吉田さん:「でも実は、弟子入りした当初、黒田さんがどんな方がよくわかっていなかったんです。入って3日目くらいに黒田さんの作品を整理しながら、学生時代に憧れて自分が真似ていた人だと気がつき、とても驚きました。そこから3年弱お世話になりました。黒田さんは作業の合間に色々な話をしてくださいました。僕が道具としての器ではなく、器の形を追い求めているのも師匠の影響ですね。」
その後2003年に独立された吉田さん。独立から5年間は黒い器だけを制作していたのだそう。その背景には、こんな理由がありました。
– シンプルな白磁で知られる黒田さんですが、なぜ吉田さんは黒い器を選ばれたのでしょうか?
吉田さん:「まず、師匠と同じは避けたいという想いがありました。その時点で僕の中で、白磁という選択肢はなかったんです。
もうひとつは、自分はろくろを引いているのが好きで、形をダイレクトにみてもらいたいということ。なので、テクスチャーの強いものや、色味がたくさん入っているものは自分のイメージとしてはありませんでした。黒の鉄釉を選んだ一番の理由は、器のフォルムを表現するのに最適な色だからですね。
器のフォルムは、自分がイメージした形をできるだけストレートに表現するようにしています。つくりたい形は常に漠然とはあるんですけど、明確な形にはなっていないんです。ろくろを引いているうちに、だんだんと擦り合わせていきます。」
– 白磁の器をつくられたきっかけは何だったのでしょうか?
吉田さん:「独立してから5年ほど経ったころ、紅茶屋の友人とコラボレートしたことがきっかけです。その方と一緒にイベントを開催したり、僕の個展に来てもらったりしていたのですが、黒いカップで紅茶を飲んでもおいしくないんですよね(笑)。それならばと、最初はティーカップ限定で、白磁をはじめました。磁器は陶器とは異なる難しさやおもしろさがあって、いつのまにか半々くらいになっていましたね。」
できるだけシンプルに。できるだけ自然に。
黒い陶器。白い磁器。どちらにも吉田さんの共通したこだわりがありました。
– 釉薬や素材のこだわりを教えてください。
吉田さん:「陶器も磁器もどちらも、できるだけ原材料や制作の工程はシンプルにするよう心がけています。僕が使っている釉薬も粘土も、とても一般的でプレーンなものです。特殊な材料を使うのではなく、ろくろの引き方や焼き方で、少しだけ自分らしさを加える。それで十分だと思いますね。」
– 作品のインスピレーションはどのように受けるのでしょうか?
吉田さん:「あまりひとつのものからダイレクトにインスピレーションは受けないようにしていますね。ストレートに真似しやすいものはたくさんあるので、そういう風にはならないようにしています。積極的に自分からどこかにインプットしにいくということもないです。色んなものを意識的に見るというよりは、自分の中に自然と溜まっていったものが、何かのタイミングで湧き出てくるものかなと思っています。」
できるだけシンプルに。自然に浮かんだイメージを大切に。吉田さんの器は、まさにそのふたつを表現したような器です。“焼き味”とか“土味”など、焼き物業界で評価される指標ではなく、フォルムのうつくしさを追い求める姿勢は、まだまだ止まりません。