ウェディングデザインのプロから学ぶ、自分らしい家づくりのヒント。(中家 拓郎さん)
目次
その場のもつ力を借りた
「One Night Circus」
中川運河の使われてない倉庫での非日常のパーティ「One Night Circus」
中家さんの原点となっているウエディングを教えていただきました。
中家さん: 「まだウエディングの実績がほとんどない頃、中川運河の使われていない倉庫で、非日常のパーティを演出しました。いろんな方のご好意で特別に貸して頂いた場所で、イベントを含め前例はありません。初めてその場所に行ったとき、その空間に圧倒されました。数日かけて掃除業者に入ってもらった後でしたが、外階段は錆び、フローリングは塗装が剥げており、電気が通ってないので無数にぶら下がる蛍光灯はオブジェでした。しかし、古い倉庫がもつ無骨なかっこよさがありました。だから、きっと誰も見たことがないようなパーティを作 れると確信しました。
一般的な感覚からするとウエディングの会場としてふさわしい場所とは言えません。しかし、このときの新郎新婦にとってはここが最高の場所でした。音楽バンドをやっていてライブで人を楽しませるのが何より楽しいという新郎、料理が好きで友人に振る舞うのが何より好きという新婦、そんな、周りの人を楽しませたり驚かせたりしてきたお2人だからこそ、スタッフも含め、一夜限りのサーカス団を結成し、サーカスような非日常のパーティでゲストを楽しませました。そんな提案に、この場所は唯一無二の会場となりました。
一人一人が歩んできた人生が違うので、ウエディングもその人に合った場所があります。誰かにとっての最低が、誰かにとっては最高かもしれません。「一般的」「常識」「当たり前」という言葉では括れないものがあります。いかにその人のこれまでの人生、これから先の人生に寄り添い、その人の価値観を尊重した提案ができるか、僕が大切だと思うのはデザインのセンスよりも、それを読み取り形にする力です。」
結婚式と建築。一見別々に感じる二つですが、考え方は一緒だと言います。
中家さん: 「この倉庫のような何もない会場だと、現場の測量からはじまり、どこに何を配置して、どれくらいのテーブルがいくつ必要とか、どういう配置が良いのかをゼロから考えるので、建築の知識も必要です。特にこういう場所だと、リノベーションの感覚に近いです。窓の位置、壁の素材、今あるものをどう活かして、どこを取り除くのか、引き算・足し算を考えます。倉庫の外に置いてあったドラム缶をスタンディングテーブル代わりにしたり、既成の概念にとらわれないことも大切です。」
「今あるものをどう活かして、どこを取り除くのか」リノベーションにとって一番大切なポイント。住宅の事例だけでなく、こうした空間デザインや、店舗デザインからも、住まいに活かせるアイディアは見つかりますよ。