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和菓子職人「まっちん」こと町野仁英さんと、老舗油屋「山本佐太郎商店」のコラボレーションによる『大地のおやつ』シリーズ。余計なものを使わず、素材のおいしさをそのまま生かし、あらゆる年代の方に安心して食べていただけるお菓子を目指してつくられています。
今ではすっかり全国区になったこちらのシリーズですが、実はすべて岐阜県から全国に向けて発信しているんです。どのシリーズもとてもおいしくて、私も見かけるとつい手にとってしまいます。
今回はそんな『大地のおやつ』をプロデュースする、老舗油屋「山本佐太郎商店」4代目の山本 慎一郎さんにお話を伺ってきました。
明治9年創業の老舗油屋『山本佐太郎商店』
オーバーオールとキャスケット帽がトレードマークの山本慎一郎社長
最初に山本佐太郎商店の経歴からお伺いしました。
山本社長:「山本佐太郎商店は、1876年(明治9年)創業の油屋です。佐太郎は曽祖父の名前なんです。油は江戸から明治までは、工業用としての役割が一般的でした。和紙に油を塗ることで防カビ・防虫・防水効果が出るので、提灯や傘などに使われていたんです。
明治時代中期になると、電気やビニール製品が普及したことで油の需要が減り、工業用から食用に移り変わっていったという歴史があります。戦前は、菜種を石臼ですりつぶし、ろ過することで菜種油の搾油をしていました。
戦後、高度成長期になると、日本の外食産業が盛んになり油をたくさん取るようになっていきます。山本佐太郎商店も自然と時代の流れにあわせて販売先を変えていきました。曽祖父の頃は、自社で油を搾っていましたが、空襲で焼けてしまってからは現在の業務用卸問屋へと切り替えました。」
22歳。突然、家業を継ぐことに!
山本社長は大学を卒業後、22歳にして家業を継ぐことになります。
山本社長:「大学を卒業後すぐに家業へ入りました。しかし、その半年後に父が亡くなってしまったんです。食べていくには、継がなきゃいけない!やるしかない!そんな状況でしたね。当時の僕といえば、ヒッピーカルチャーに傾倒していて、長髪にやぶれたジーンズ姿の若者だったんです。(笑)
そんな、チャラチャラした中途半端な若者がいきなり後を継いだんですから、お客様は黙って離れてゆくこともできたと思うんです。でもお客様は離れていくことなく、僕を叱って、あたたかく見守り、育ててくださいました。これもすべて先代、先々代が長年に渡って信頼を築いてくれていたからこそです。」
和菓子職人まっちんとの出会い、
「大地のかりんとう」誕生
こうして、老舗の油屋を継いだ山本社長。『大地のかりんとう』を生み出すことになる和菓子職人まっちんさんに出会います。
山本社長:「油屋をやっていく中で、正直このまま油屋だけをやっていくのには限界を感じていました。油屋として何か新しい価値を見出すことはできないものかと、常に模索をしていたんです。そんなときに出会ったのがまっちんでした。
まっちんは三重県伊賀市出身で、岐阜市柳ケ瀬商店街の和菓子屋「ツバメヤ」の商品開発として携わっていました。「ツバメヤ」は山本佐太郎商店の取引先でしたので、ツバメヤへ出入りするうちに、同い年で、音楽の趣味も合うということで、すぐに意気投合したんです。
まっちんのつくる和菓子は、すべて身体に良い素材だけを使っています。例えば、僕はそれまで味というものは足していくものだと思っていました。ところが、まっちんの和菓子は引き算なんです。和菓子ではあまり使われない、全粒粉や玄米、粗糖を使用しているのも特徴です。まっちんのおやつ作りに共感して、2人で何かできたらいいねと話していました。
こうして、2人でいろいろなことを話し合う中で生まれたのが『大地のかりんとう』です。「和菓子屋と油屋がつくるお菓子だから「かりんとう」はどうかな?」とまっちんから提案があり、本格的にかりんとう作りをスタートさせました。」
まっちんさんと山本社長
毎日、安心して食べてもらいたい
大地のかりんとうでは徹底して素材の良さにこだわっています。その素材の良さは、シリーズ化した『大地のおやつ』でも同じです。
山本社長:「僕たちがおやつをつくる上でコンセプトにしたのが、「30年後も愛されるおやつ作り」です。だからこそ、安心で、気軽で、飽きがこないことにこだわって開発をしていきました。
レシピや使う素材はすべてまっちんが考案しています。例えば、和菓子をつくるときは、上白糖を使うのが一般的です。しかし、上白糖は化学生成という工程が入ることで栄養価やミネラル、風味が損なわれてしまいます。
そこでまっちんは、化学生成されていない粗糖を使い、小麦粉も北海道産の小麦をまるごと挽いた全粒粉、岐阜県産小麦粉を使用し、身体に安全で栄養価の高いレシピを考案しました。
かりんとうを揚げる油は僕のこだわりです。当初は太白胡麻油を使おうと思っていましたが、それだと価格があまりにも上がりすぎるので、純国産のこめ油にしました。こめ油で揚げたかりんとうは、ほんのり甘さを感じ、全粒粉との相性が抜群です。毎日、安心して食べてもらいたいので、保存料や酸化防止剤は一切使用していません。」
山本社長:「レシピを考えるのはまっちんですが、製造は各メーカーにお願いをしているため、メーカーの機械によって仕上がりが変わってしまうことがよくあります。するとまっちんは製造工場に直接行き、機械で試作した生地を手で触って確かめるんです。
その感覚を頼りに、生地の分量を配合していきます。これは僕には絶対できませんし、まっちんだからこそなせる才能だと思っています。」
いぶき福祉会とパートナーに
まっちんさんと山本佐太郎商店によるおやつ作りは2012年、本格的にスタートします。
山本社長:「かりんとうの製造を依頼をしたのが岐阜市にある社会福祉法人「いぶき福祉会」です。いぶき福祉会は、障がいのある人が生き生きと暮らせるよう仕事や地域とのつながりをサポートしている団体です。彼らは既に「ねこの約束」というマドレーヌやかりんとうをつくっている実績とノウハウがあったんです。
僕は油屋で製造設備もノウハウもなかったので、彼らに製造をお願いすることにしました。依頼した当初は、大量製造や品質を安定させることが難しく苦労しましたね。僕とまっちんは工場へ何度も足を運び、試食を繰り返して1年かけてようやく完成しました。利用者と支援者も本当によく頑張ってくれたので、今では安定した品質を保つことができています。」
初めてのイベントで300袋完売
山本社長:「当初は、「油屋のかりんとう」とういう名前で、なるべくコストをかけないように透明なパッケージに帯だけというシンプルなデザインにしていました。おやつのことをきちんと伝えたいとも思っていたので、イベントに出店しては一つ一つ手渡しで販売をしましたね。
初めて出店したイベントでのことです。僕たちの予想に反して300袋も売れたんです。このことは大きな自信にもつながりました。購入していただいたお客様からも、また食べたいというお声を多くいただくようになったんです。
少しずつイベントで実績を積んでいき、名前も「大地のかりんとう」と改め、本格的に販路を広げていくことにしました。」