名古屋市名東区の藤が丘駅からリニモで1駅、長久手市「はなみずき通駅」から徒歩数分の位置にある「松本珈琲工房」。自家焙煎のコーヒー豆を常時20種類以上揃え、コーヒー教室やカフェの開業支援などを行う珈琲工房です。
元々はカフェ&焙煎豆の販売を行っていましたが、現在は焙煎豆の販売とコーヒーのテイクアウトにて営業。また、コーヒー教室や開業支援などにも力を入れています。
目次
2006年に開店して以来、16年以上この地で愛されている松本珈琲工房ですが、オーナーの松本亮さんは開業する前は建築の設計士として働いていたそうです。三角形の角地に建てられているお店にも、設計士ならではのこだわりがたっぷり詰まっています。
今回は、松本さんが珈琲工房をはじめた経緯やこだわりについて、詳しくお話を伺いました!
「おいしいコーヒーってなんだろう?」
コーヒー沼にハマり工房を開業
– 松本さんがコーヒーの世界に入ったきっかけを教えてください。
松本さん:「もともと私は設計事務所で設計士の仕事をしていました。そのとき、先輩にカフェや喫茶店に連れて行ってもらったり、ちょっと高めのコーヒーを飲んだりしているうちに、徐々にコーヒーにハマっていきました。そもそもコーヒーはどういう風にできているんだろう?おいしいコーヒーってなんだろう?みたいな疑問が湧いてきました。仕事をしながらコーヒーについて勉強したりカフェを巡ったりして独学するうちに、自分の熱量が設計よりもコーヒーが上回ったので、開業を決意しました。」
– 設計の仕事をやめた後、どのように開業まで至ったのでしょうか?
松本さん:「松本珈琲工房はリーディング・コーヒー・ファミリー(LCF※)に所属しているので、LCFを運営する堀口珈琲のお店で研修などをさせてもらいました。しかし、コーヒー豆や焙煎についてはゼロからほぼ独学でやってきました。お店の準備期間は半年ちょっとくらいでしたね。」
※リーディング・コーヒー・ファミリー(LCF):品質の高いコーヒーを高度な知識と共に消費者へ提供するグループ。コーヒーの栽培から精製にいたるプロセスを生産農園とパートナーシップを築くことで見極め、最高品質で希少なスペシャリティコーヒーを追求しています。
– 長久手市のこの場所を選んだ理由とは?
松本さん:「ここは地元ではないのですが、たまたま設計の仕事をしているときにこの地域にきたことがあって、そのときに駅前の雰囲気がとても素敵だなと思っていたので、お店を出すならこの地域にしようと決めました。」
– 確かに、駅を出たところの広場や雰囲気がとても良かったです!
松本さん:「お店の前の通りは”図書館通り”と言って、中央図書館や長久手市文化の家などの文化的施設が面しているんですよ。お店があるこの場所は、もともと三角形で広さもなかったので、誰も借り手がつかなかったんです。場所も予算も条件内だったので、この土地に決めて私と先輩で店を設計して建てました。」
設計士の知恵と技術が詰まったこだわりの店舗
– ご自身でお店の設計をされたのですね!どんな箇所にこだわっているのでしょうか?
松本さん:「ここは”隅切り”といって、角地である土地の角を切り取った狭い土地で、普通はとても建てにくいのでいろんな工夫が必要でした。お店となる1階は重厚感を出すためにコンクリートにすること、お店と外との間に中間領域を設けることは、特にこだわりました。」
– 中間領域というのはこのテラスのことですか?
松本さん:「そうです。以前はこの場所にも机とイスを置いて、コーヒーが飲めるようにしていました。中間領域を作ることで、緩衝帯になるんですよ。店から直接道路が見えると車の音がうるさいし、人の目も気になると思うので、こういう空間を作ることで対処できます。入り口も少し奥まった場所に作ることで、雨の日は傘を閉じたり、犬をつないでおけたり、利便性も兼ねた緩衝帯になっています。」
– 確かに、お店と外の領域にワンクッションあると、ゆとりがあって雰囲気も素敵ですね!
松本さん:「こういう空間が日本の家屋の良さでもあると思っていて、これらに関してはものすごい計算をして作りました。」
コーヒーは原産国と消費国で格差がある。
だからこそ現地の人へ還元するのが私たちの役目
– コーヒー豆へのこだわりを教えてください。
松本さん:「コーヒー豆は、LCFのグループで仕入れたものを取り扱っています。LCFは、コーヒーの栽培から精製にいたるプロセスを、生産農園とパートナーシップを築くことで独自のルートで生豆を確保できるので、最高品質でおいしい豆が提供できます。特にグアテマラにあるサンタカタリーナ農園の品種『ブルボン』は、世界各国のロースターからオファーがあるものの、LCFが全量購入している希少な豆です。世界中でグループ加盟店でしか味わえないので、ぜひ飲んでみていただきたいですね。」
– コーヒー豆を扱う上で大切にしていることは何ですか?
松本さん:「私がお店をやっている目的は『コーヒー(豆)を伝えたい』からです。それは豆の魅力や奥深さであったりおいしさであったり……。この店で焙煎して販売するというのは、コーヒー豆の生産から提供までの流れでいうとほんの一部でしかありません。上質なコーヒーが提供できるかは、原産国での精製工程やルートの部分がほとんどです。私は豆の生産地にも行っていましたが、現地の人たちは、『自分たちが作った豆がどういう人に飲まれているのか』ということに興味を持っています。コーヒーの原産国は発展途上国と言われる、文化度が高くない国や地域が多い。一方で、消費するのは先進国で、そこに隔たりがあるんです。この隔たりはワインにはありません。ワインは生産も消費も先進国なので両者のやり取りがしやすく、いいものを作ろうと思えば作れますよね。しかし、コーヒーは違う。だからこそ、私たちがやれることをしたいと思っています。それは、多くの人にコーヒーを飲んでもらって魅力を伝えること。そしてゆくゆくは原産国の人に還元していきたいですね。それが私たちの役目だと思います。」
– そのためにも、コーヒー豆の味わいや魅力を伝えることが大切なんですね。
松本さん:「そうですね。感動するほどおいしいコーヒーって、ものすごく少ないんですよ。そもそも本当においしいコーヒーに出会わない限り、そのおいしさもわからないですよね。でも、一度そういうコーヒーに出会うと『なんでこんなにおいしいんだろう?』『他と何が違うんだろう?』と興味を持つ人は結構いると思っています。私がコーヒーにハマったように、コーヒーのおいしさに驚いたり奥深さに興味を持ったりしてくれる人を増やしたいですね。」
– 販売している豆の種類はどれくらいありますか?
松本さん:「常時20〜23種類くらいですね。一番よく売れているのは長久手ブレンドです。爽やかでコクのあるすがすがしいブレンドで、きれいな味わいに仕上がっています。目覚めの一杯にもおすすめです。あとは、先程もお話したグアテマラのブルボンですね。舌触りがしっかりしていますが後味はスッキリしているのが特徴です。アフターテイストといって、口や鼻に残る香りが30分くらい続きますよ。」
コーヒーの魅力を伝える取り組みとして
コーヒー教室や開業支援も行う
– コーヒー教室や開業支援にも力を入れていますか?
松本さん:「コーヒー教室は、コーヒーの魅力を伝える取り組みとして行っています。従来は目的に応じてA〜Eコース・1Dayと8種類の教室を用意していましたが、コロナ禍の影響もあり、今はEコース(開業セミナー講座)と1DAYのみです。1DAYは10時〜16時までガッツリとコーヒーに向き合いますが、あっという間に時間が過ぎますね。コーヒー教室は遠方から来てくれる方もいて、みなさん”コーヒー沼”にハマっています(笑)。」
– 知れば知るほど面白くなっていくんですね!開業支援はどのようなことを行うのでしょうか?
松本さん:「設計士をしていたときの知見や自分が店を経営してきた中で学んだことを活かして、さまざまなアドバイスをします。お店のディスプレイや動線を考えたり、お店作りに必要であれば仕事仲間だったデザイナーさんを紹介したりすることもありますね。飲食店全般で言えば、開店しても2年間で5〜6割は閉店してしまう現状があるので、『どうしたら持続できるか?』ということを教えています。」
– 今後、新たに取り組みたいことなどはありますか?
松本さん:「LCFの代表でもある堀口さんに言われた言葉で印象に残っているのが『お店の市場(マーケット)は自身で作る気概がないとダメ』ということです。待っているのではなく、自分で行動しなければお客さんも来ないし、お店としても継続できません。この言葉もあって、5年くらい前からお店のアラウンドのことを楽しむようにしています。色んな場所へ行っていろんな体験を通して吸収し、それをコーヒーのことに落とし込む。バイクに乗ったりサーキットへ行ったりカヤックやキャンプをしたり。バイクはコーヒー豆の配達に役立っていますし、キャンプでは『外で飲んだらおいしいだろうな』というイメージから『マツモトキャンプブレンド』の豆が生まれました(笑)」
– オフの体験が仕事に活かされているのですね!
松本さん:「自分がストレスを抱えたくないので、長く続けるために楽しめることをして、その延長にコーヒーがあり、使えるイメージやアイデアを落とし込んでいます。仕事もプライベートも、境界があるようでない、ないようである、という感じですね。でもこれが楽しく役に立っているので、これからも続けていこうかな、と。近年、持続可能という言葉が話題ですが、自分もスタッフも持続可能でないとストレスになってしまいます。それが結果としてお店にも大切だし、めぐりめぐって原産国の人たちへの還元につながれば、と思います。
2022年に83歳の堀江謙一さんがヨットで太平洋横断したニュースを見て、とても共感しました。自分も『コーヒーの魅力を伝えたい』という思いを根底に持ちながら、何かに熱中するということを続けたいですね。」
コーヒーを楽しむ人と原産国の人々の架け橋となる
松本珈琲工房
上質な豆を自家焙煎しさまざまなコーヒーを生み出す松本珈琲工房。気さくで優しいオーナーの松本さんはコーヒー豆と原産国の人々への熱い思いを持った方でした。
コーヒーの魅力を知りたい、おいしいコーヒーを飲みたい方は、ぜひ工房へ足を運んでみてはいかがでしょうか。また、コーヒー教室は工房だけでなく、豊田駅前のT-FACEで月に2回開催しているとのこと。詳しくは公式サイトやInstagramのアカウントでチェックしてみてくださいね!