こどもの頃に読んだ絵本や童話。なかでも『ごんぎつね』の話は、覚えてる方も多いのではないでしょうか。
その作者・新美南吉(にいみなんきち)の作品は、子どもだけでなく世代問わず愛されつづけ、国内のみならず海外でも魅了し続けています。
そんな南吉の作品や生涯を紹介した展示品が並ぶのが、愛知県半田市の「新美南吉記念館」です。記念館だけでなく、周辺の森を散策したりカフェも併設されていたりと、1日楽しめるスポットをご紹介します。
目次
童話の世界を再現してつくられた森と記念館
「新美南吉記念館」は愛知県半田市に1994(平成6)年にオープン。南吉の作品『ごんぎつね』の舞台でもある中山の地に建ちます。
芝生が広がる敷地には、木々が生い茂る「童話の森」と、波打つ建物がインパクトのある「新美南吉記念館」があります。
波打っている部分は記念館建物の屋根にあたる部分なので、入口は坂をくだった地下にあります。地下に建物をつくった理由ですが、そのまま建ててしまうとまわりの風景を損なうため、あえてこのような調和を保つ形になったそう。
あくまで主役は建物ではなく、童話の森をはじめとした風景。南吉の世界観はすでにここからはじまっています。
新美南吉(にいみなんきち)の生涯
新美南吉は、愛知県半田市出身の児童文学作家です。
正八(しょうはち/南吉)は大正2年、知多郡半田町(現・半田市)の岩滑(やなべ)に、畳屋を営む渡辺家の次男として生まれます。
幼くして母親を亡くし、新しい母と父とのもとで暮らしていましたが、亡くなった母方の新美家が祖母ひとりになったため、南吉が8歳のときに新美家の養子となります。祖母との生活がスタートしますが、あまりのさみしさに数ヶ月後には渡辺家に戻ります。ただ新美の姓は生涯そのままでした。
文学に目覚めたのは中学2年生のとき。さかんに読書したり雑誌に童謡や童話を投稿。中学を卒業するときには成績が2番目でした。当時の中学は5年制だったため、18歳で卒業後は母校の小学校で代用教員になります。
この年の昭和6年から、雑誌「赤い鳥」に童話や童謡が掲載されはじめます。そしてのちに広く知られる『ごん狐』もこの「赤い鳥」に掲載されました。
翌年春には、現在の東京外国語大学に入学。兄として慕い、童謡『たきび』の作者でもある巽聖歌(たつみせいか)の家で暮らしはじめます。
東京ではその巽はじめ、北原白秋や与田凖一(よだじゅんいち)などの優れた詩人に囲まれ、文学の才能も伸ばしますが、20歳のときに病に倒れます。
療養のため一時半田に戻りますが、卒業後は東京に就職。しかしまた病に倒れ、ふたたび半田に戻ります。その後、現・安城高等学校に勤め、小康状態になってからは作品も多くつくり、童話作家としても名が知られるようになっていた矢先の27歳で再度病魔におそわれ、29歳という若さで短い生涯を閉じます。
彼が書いた本は、『ごんぎつね』や『手袋を買いに』『おじいさんのランプ』『花のき村と盗人たち』などの童話をはじめ、童謡、詩、小説など多岐にわたり、その数は1500を超えます。
中でも『ごんぎつね』は、昭和55年から全国の小学校4年生の国語の教科書にも掲載されるほど親しまれている作品です。最後は切ない終わりかたですが、そこから何を感じ学ぶか……、自らで考える力を養うという意味でもとても深い作品なのではないでしょうか。
充実した資料と展示!魅力いっぱいの館内
キツネの姿を見つけられるかな?
ではさっそく館内をご紹介しましょう!
外観のスタイリッシュなデザインもさることながら、館内も天井が高く不思議なつくり。まるで迷路のようですが、ご安心を!ちゃんと道案内が記されています。
そのヒントは床に!なんときつねの足跡が……。色が違うのも意味があり、黄色が健常者、緑は身障者向けとなっています。
でもちょっと待って!床にばかり気をとられていては、かわいいキツネの姿を見逃しちゃいます。実は館内には7匹のキツネが潜んでいるんです。
どこにいるか探してみてくださいね!
童話の世界をリアルに再現!
きつねの足跡を追った先には展示室があります。ここは南吉の作品や生涯を説明したパネル、当時使っていた直筆のノートや資料など展示物が豊富です。ここまでそろっているのは珍しいそう。
そしてなんといっても見どころのひとつが、童話で登場する道具や場面をリアルに再現していること!
こちらは童話『ごんぎつね』にでてくる 「はりきり網」と「火縄銃」。南吉の作品には、こうした身の回りの生活や、動植物を題材にしてつくった話が多いのも特徴かもしれません。
こちらのランプがつり下がった木は、晩年の作品『おじいさんのランプ』を模してつくったもの。
こちらは『手袋を買いに』のセット。子ギツネが帽子屋のドアから手を入れようとしているシーン。ちゃんと雪も演出されていて、ものがたりがリアルに思い起こされます。
精巧なつくりのジオラマ模型も必見!
さて、みどころはまだまだあります。童話の世界を精巧に再現したジオラマです。
こちらはさきほどの『手袋を買いに』のジオラマですが、それぞれの場面を、丁寧にかつ精巧に再現しています。
こちらは『ごんぎつね』のジオラマ。ストーリーを知っているとさらに楽しさ倍増!人形ですが、細かい部分まで忠実に再現されています。
世界の童話や書物も充実!無料で楽しめる図書室
館内には図書室もあります。南吉の作品のみならず、世界の童話や国内各地の民話なども充実しています。展示室を利用しなくても、図書室だけの利用もOKです(無料)
そのほか映像コーナーやスタンプ記念なども!
本だけでなく、映像でも楽しめるのがビデオシアター。奇数月は『ごんぎつね』、偶数月は『手袋を買いに』が上映されるそうですよ(2023年は南吉生誕110年で特別プログラム)
こちらの視聴覚コーナーはコアな南吉ファンにはおすすめ!直筆の原稿や日記、手紙などを映像で見ることができます。
記念のスタンプも押せるコーナーも。
こちらは特別展のコーナー。常設展と違い、年に4回内容を変えて展示するコーナーです。今回は死の前年にあたる昭和17年にフォーカスした内容(2022年11月6日まで)
また矢勝川の堤東西約1.5kmに渡って、300万本の彼岸花が咲き誇る時期に例年おこなわれる「ごんの秋まつり」は、2022年は9月下旬から10月上旬の予定です。
※詳細はお問い合わせください。