広大な畑や伊勢湾を望む常滑の小高い丘の上にある「常滑ワイナリー・ネイバーフッド」。
ブドウ畑・ワイナリー・レストランが同じ敷地内にあり、地元で造られたワインや食材をカジュアルに楽しめる人気のスポットです。
実は、オーナー・馬場憲之さんは、資金ゼロ・ワインの醸造経験ゼロからこのワイナリーを立ち上げました。その過程には、どのような思いやこだわりがあったのでしょうか。今回は、ワイナリーを実現した経緯やワインへのこだわりについて掘り下げながら、魅力をご紹介します。
目次
オレゴンで見た幸福感あふれる光景に感動し、
ワイナリーの立ち上げを決意
常滑ワイナリーが生まれるきっかけとなったのは、馬場さんがアメリカ・オレゴン州へ旅したときにたまたま立ち寄ったワイナリーで見た光景でした。
小高い丘の上に建てられたワイナリーと、それに併設されているレストラン。そこでは、多くの人がワインと食事を楽しんでいました。地元で生産した食材を使った料理に、地元のブドウで造られたワイン、それらを取り囲み幸せそうに笑う人々。まるで映画のワンシーンのような幸福感に満ちた空間に、馬場さんはとても感動したといいます。
「この幸せな光景を、絶対に常滑で再現したい!」と強く思い、ワイナリーの立ち上げを決意しました。
知識・資金・土地、すべてゼロからのスタート
普段お酒を飲まない馬場さんは、ワイン造りの知識や醸造経験はありません。そのため、オレゴンへの渡航を繰り返ししたり、国内のワイナリーへお願いして醸造のノウハウを学びました。
また、当時は常滑でほかの事業をしていたものの、資金は潤沢ではなく融資を募ることからはじめる必要がありました。知り合いに頭を下げて、熱意を語って資本を提供してくれる方を探したり、農林漁業成長支援機構(A5)へ出資を求めたりと、奔走したといいます。
さらにせっかく借りられた土地も、農園とは到底呼べない荒廃地でした。そこを開拓し、1本ずつブドウの苗木を植えていったのです。
成功のカギとなったのは
「国家戦略特区制度」
「オレゴンで見た光景を常滑で再現する」という夢の実現には、ワイナリーの立ち上げだけでなく、「ワイナリーにレストランを併設すること」も欠かせないポイントです。
しかし、日本の現在の法制度では、農園と同じ敷地内にレストランを建設するのは認められていません。その問題を打破するために活用したのが「国家戦略特区制度」でした。
これは、成長戦略の実現に必要となる大胆な規制・制度改革を実行し、「世界で一番ビジネスがしやすい環境」を創出することを目的に創設された制度※。馬場さんは直接国に掛け合い情熱を伝えることで「国家戦略特区」の認定を取得し、同敷地内でワイン農園・ワイナリー・レストランの営業が認められることとなりました。
こうしてさまざまな問題を乗り越え、着想から10年が経った2018年、ついに常滑ワイナリー・ネイバーフッドとして初めてのワインがリリースされたのです。
※引用:内閣府|国家戦略特区「制度概要」
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/kokkasenryakutoc.html
常滑ワインへのこだわり
ワインは、一般的には冷涼な地域で作られますが、常滑ワイナリーは日本のワイン造りでは珍しく、温暖な太平洋側の地で生産しています。こうした気候に加え、常滑焼きでも有名な常滑の土壌で育つブドウは酸が強く、旨味が十分にあることが特徴です。
常滑ワイナリーが掲げるコンセプトは、「誰もがカジュアルに楽しめるワイン」。そのため、口当たりや鼻から抜ける香りにこだわりながら、どのワインも熟成期間を3ヶ月ほどにし、フレッシュかつ飲みやすい味わいを実現しています。
また、ワインはブドウの状態や果汁を酸素に触れさせる時間、造り手がどんなワインにしたいかなど、さまざまな要素で風味が大きく変わることも魅力のひとつ。毎年味が変わるため、常滑ワイナリーでは熟成期間を調整したり新しいことにチャレンジしたりと、よりおいしいワインを追求しています。
常滑焼きの甕(かめ)や樽で熟成させるワインも
常滑ワイナリーは、ステンレスタンクで醸造するワインがほとんどを占めます。スレンレスは、ブドウのフレッシュさや味わいをストレートに感じられるワインに仕上がるためです。
しかし、一部では常滑焼きの大きな甕(かめ)や木樽で熟成させるワインも造っています。
甕で寝かせることで熟成感が出やすく、ワインの角がとれてまろやかな味わいに。そして、ワインを木樽で寝かせることで樽の良い香りが感じられるワインになります。
樽で寝かせるワインは今年から挑戦をはじめたとのこと。どんな味わいに仕上がるのか楽しみですね。
常滑ワイナリーいちおしのワイン
常滑ワイナリーで醸造するワインは大きく分けて2ブランドあります。それぞれ、おすすめのワインについてご紹介します。
・ネイバーフッド(写真:左3本)
自社農園で栽培された常滑産のブドウを使用。単一品種で醸造し、常滑焼で知られるこの地のテロワール(地域性)を、まっすぐに表現するシリーズ。
・デリバリング・ハピネス(写真:右4本)
常滑ワイナリーの社是「デリバリングハピネス(お客様に幸せを届ける)」を念頭に、革新的なワインづくりを目指すシリーズ。大府市や豊田市など、愛知県産のブドウを中心に使用。常滑ワイナリーの醸造家がワインの新しい可能性に挑戦します。
・常滑シャルドネ2022(写真:中央)
常滑の風土をストレートに反映した石灰のような土っぽさと酸味が特徴。大地を感じるフレーバーを含むフルーティーな香り、キリッとしたシャープな味わいの中にブドウの旨味が感じられます。
・常滑ピノ・ブラン2021(写真:右)
穏やかな酸味とまろやかな味わいが感じられ、青リンゴやナシ、柑橘類のような香りが特徴。ストレートなスタイルで飲み飽きず、爽やかなワインです。
・ルビーチューズデー(ロゼ)(写真:左)
愛知県大府産シャルドネ&神戸産カベルネ・ソーヴィニヨンのブレンドロゼ。りんごやバナナのようなフルーティーな香りが感じられ、コクがありながらも酸味と果実味のあるスッキリとした後味が特徴です。
・デラウェア2021(オレンジワイン)(写真:左から2番目)
愛知県豊田市産のデラウェアを使用した、常滑ワイナリー初のオレンジワイン。早摘みで酸味溢れるデラウェアを使っているため、しっかりとした酸味と爽やかさを感じます。それでいて、柑橘感の優しい味わいも◎。
常滑ワインと知多牛、
地元の食材を使った料理が気軽に楽しめる
レストラン「サンセットウォーカーヒル」
常滑ワイナリーに併設されている「サンセットウォーカーヒル」は、アメリカンスタイルの農家レストラン。知多半島で栽培された野菜や知多のブランド牛「知多牛」など、地元の素材を使ったアメリカン料理が楽しめます。
広々した店内は、デートや家族でのおでかけ、グループ旅行など幅広いシーンで利用できます。
サンセットウォーカーヒルで人気のメニューは、知多牛ステーキランチ。上質な知多牛のステーキを贅沢にハーフポンド(225g)も食べられるうえ、サラダ・スープ・パンorライス・デザート・ソフトドリンクまで付く豪華さ!
知多牛と地元産の野菜をふだんに使った「知多牛ローストビーフのパワーサラダランチ」もおすすめです。
常滑ワイナリーで造られたワインをいろいろ味わいたい方は、ワインリストから好きな銘柄を4つ選んでテイスティングできる「ワイン4種類飲み比べセット」もお試しあれ。風味の違いを感じたり、自分の好みに合うワインを見つけたり、料理とのペアリングを試したり、いろんな楽しみ方がありますよ。
さらに、サンセットウォーカーヒルは名前のとおり、美しい夕日が見えるロケーションも大きな魅力。昼間は青い海とのどかな田園風景、夕方は伊勢湾に沈みゆく夕日とオレンジ色に染まる風景を、大パノラマで堪能できます。
ワイナリー見学+知多牛ステーキランチ+ワインのテイスティングがセットになったツアーも!
常滑ワイナリーでは、ワイナリーツアーと「サンセットウォーカーヒル」での食事(知多牛ステーキLUNCH or DINNER)、ワイン飲み比べ4種が一度に楽しめるツアーも実施しています。
常滑ワイナリーのこだわりや歴史など普段は聞けないお話や、ワインの醸造について楽しみながら理解を深められる企画です。
事前予約が必要なため、詳しくは公式サイトでチェックしてみてくださいね。
ワインを取り囲む幸せな時間・空間を文化として
広く伝えていく常滑ワイナリー
常滑ワイナリーは、オーナーの馬場さんがオレゴンで見かけた幸福な空間を再現するべく、強い情熱により、設立されました。ワイナリーやレストランが軌道に乗った現在も変わることなく、カジュアルにワインを楽しむアメリカンスタイルを踏襲しています。
今後は、常滑だけでなく名古屋市でもワインの醸造を行うそうです。現在、名古屋市で栽培したブドウを名古屋市で醸造する「名古屋ワイン」のリリースに向けて、準備を進めています。
名古屋市中村区の円頓寺商店街近くにあり、常滑ワイナリー直営のレストラン「commone wine&eats(コモン)」の1階に醸造所が新設されるため、気になる方はチェックしてみてくださいね。