目次
これまでLife Designsでは、インテリアショップ・工務店・グリーンショップなどさまざまなデザインのプロにお話を伺ってきました。今回は、いつもとは少し違った視点で、「デザインとは何か?」「空間づくりとは何か?」について考えてみたいと思います。
今回インタビューをさせていただいたのは、ウェディングを中心に、住空間、店舗、舞台演出など、さまざまな 空間デザインを手がけている中家 拓郎さん。前回はウェディングの空間演出について、事例を交えながらご紹介させていただきました。今回はイベント、店舗デザインなどの事例と合わせながら、空間デザインとは何か、じっくりとお話を伺いました。
▼前回の記事はこちら
http://life-designs.jp/magazine/takuro-nakaya/
今回お話を伺った中家 拓郎さん
オーダーメイドウェディングのプロデュース会社「Bridal Plus(Smile Stori inc.)」で、デザイナー・アート ディレクターを務めながら、フリーランスとしても、さまざまな空間デザインを手掛けている中家さん。中家さんが手がける空間デザインの幅はウェディングに止まらず多岐に渡ります。
中家さん: 「僕が扱う空間は、ディスプレイや一日限りのイベント、店舗の内装・設計・インテリア、公園やまちづくりまで、幅広くあります。エリアブランディングのプロジェクトで、ハードの活用の方法を考えるアドバイザーのような立ち位置で関わることもあります。プロジェクトの大小に関係なく、空間デザインは僕のライフワークの一部です。」
では、ここからは実際の事例と合わせながらご紹介していきます。
素材と仲良くなることで作られる空間
「TEDx Nayabashi」
まずは、2014年に名古屋で開催されたイベント「TEDx Nayabashi」についてお話を伺いました。TEDはニューヨークに本拠地を置く団体で、TEDの精神である「ideas worth spreading(広める価値のあるアイデア)」のもと、ライセンスを受け、世界各地で発足しているコミュニティーがTEDxです。さまざまな分野のスピーカー(話し手)が登壇し、活動やアイディアを18分に凝縮してプレゼンテーションを行います。
中家さん: 「TEDx Nayabashiの空間デザインチームのディレクターとして、ダンボールという素材だけを使って、ステージやテーブル、ブースや照明シェードなどをデザインし、会場をつくりました。 TEDxの目的は拡散すべきアイデアを来場者の中で育て、実際に何かを生み出していくことでした。そのため、来場者がただ聞き手で終わるのではなく、登壇者や来場者同士での対話、イノベーションの種となるコミュニケーションとコラボレーションを誘発するような空間が求められました。」
休憩スペースのイメージスケッチ。こうしたスケッチは中家さん自らが手書きで描いています。
ダンボールでつくられたスタンディングテーブル。中心には、灯りが置かれています。
中家さん:「講演と休憩の時間を同じだけとり、休憩時間も質の高いアクティビティを生むことに注力しました。空間をデザインすることは、そこで過ごす時間をデザインすることでもあります。 人は、何もない真っ暗な空間にいると不安になり、どこにいれば良いかわからなくなります。その中に1つ灯りを置くとその周りに人が集まり、自然と対話が生まれます。
そこから発想を得て、4〜5人が囲うことができる円形のスタンディングテーブルの真ん中に、人の5感を刺激し、惹きつける要素を入れ込める仕様にしました。 そしてその要素は、時刻(朝・昼・夜)や講演の内容によって、変化していく。八丁味噌の社長と水耕栽培の第一人者の登壇の後の休憩では、水耕栽培のレタスと八丁味噌が入れ込まれ、その場で自由に収穫して食べることができます。それ自体が1つのコラボレーションになっていること、たった1日のための空間の時間軸を丁寧に考えることも重要な要素でした。」
中家さん:「このイベントでは「ダンボール」という一つの素材を追求することで、強度、しなやかさなど、ダンボールの特性を知ることができました。今ではレーザーカッターや3Dプリンターなどの便利な機械がありますが、当時はあまり普及していなかったので、すべて手作業で行いました。1カ月間、毎日誰かが僕のうちに来て作業していましたね(笑)。すごく大変でしたが、このイベントをきっかけに、一つの素材を追求することの大切さを実感しました。素材を追求するということは、ダンボールだけでなく、木材、紙、布、すべての素材にいえることだと思います。」
意味が込められた素材を使う
「cafe kinari」
続いて店舗デザインの事例をご紹介していきます。
中家さん: 「大須の「cafe kinari」というカフェの内装デザインを担当しました。ここでは、床やカウンターの壁に、小学校や中学校のテーブルの廃材をタイル状に加工して、モザイクタイルのように貼り合わせています。実際に使われていたものなので、表面を良くみると、相合傘や、テストのカンニングなどが書かれた跡が見つかるんです よ。僕も昔、落書きや彫刻刀で彫ったことがあるような気がします(笑)。」
中家さん:「造作家具を頼んだ職人さんがたまたま見つけてきた素材で、それを採用したのですが、ここには学校の放課後のように自由に過ごして欲しいなという想いを込めています。ただご飯を食べたり、お茶をして帰るのではなくて、勉強している人もいる、話している人もいる、読書している人もいる。そんな放課後のように、どこか居心地が良くて、つい長居したくなる空間にしたかったんです。学校のテーブルは、誰もが懐かしいと思うものですしね。それと気づかなくても、ただ綺麗な空間よりも落ち着くかなと。」
選ぶ素材一つでも、その空間に込めた想いを表現できるんですね。デザイン、形、価格だけでなく、どんな空間にしたいか、どんな想いを込めたいか、そんな視点から素材を選ぶのも良いのではないでしょうか。
【cafe kinari】
住所 :愛知県名古屋市中区大須二丁目23番34号 大須GATEビル3F
アクセス:地下鉄鶴舞線 大須観音駅2番出口 徒歩1分
営業時間:11:30~22:00
電話番号:052-201-2585
子供がよろこぶ工夫がいっぱい
「のらっこアセット英会話」
続いてご紹介するのは、子ども英会話&速読のスクールの内装デザインです。
中家さん: 「3年ほど前にウェディングを担当させていただいた当日の新婦さんからの依頼で、子ども英会話と速読の教室の内装デザインを担当しました。クライアントである、のらっこ先生のテーマは「森の教室」と「宇宙の教室」。森の教室は速読、宇宙の教室は英会話のスペースになっています。宇宙から雨が降ってきて、木が生えて、その下で本を読むというストーリーです。子供たちがよろこぶ、そして自主的に行動したくなるような工夫を随所に凝らしました。
設計者さんや職人さんに無理をお願いすることもありました。それでも今できる最大限のことをしたい、必要としてくれたことに応えたいと思い、なんとか形にすることができました。」
カバンをかける水滴型のボタン。自分でかけやすいように子どの手の届く高さになっています。
子どもが自分で開け閉めしたくなるようにと、ハンドメイドで製作したドアの取手。過去の結婚式で使った木材を磨いて取手にしたそう。
子供たちがよろこぶ工夫、子供たちが自主的に行動したくなるような工夫は、住まいやインテリアにも活かせそうなアイディアです。
エントランスの看板。「Forest」「Space」の文字は中家さんの手書きです。
温かみのある空間にはこんな秘訣がありました。
中家さん: 「僕は木工も家具製作もできないですが、自分でできることは、できるだけ自分の手を動かしてつくるようにしています。例えば、エントランスの「Forest」「Space」という看板は、木の板をやすりがけして、僕がペイントしました。他にも、木陰で本を読むイメージにしたかったので、既存の照明に手づくりの大きな葉っぱを組み合わせて、オブジェのに変えました。リボンカーテンをどうしても使いたいという希望もあり、布の色など迷いながらも選び、スタッフに力を借りて全て手作りしました。手づくり感満載で、完璧ではないかもしれませんが、手でつくるからこその温かみが僕は好きです。」
木陰の読書をイメージした、木のオブジェ。照明は中家さんもご自宅で愛用されているという「季節のペンダント」という作家さんのもの。
できるだけ自分の手を動かしてつくる。まさにDIYの考え方そのものです。住まいやインテリアにおいても、プロにお願いする部分、自分たちでつくってみる部分を分け、手づくりだからこその温かみをプラスしてみてはいかがでしょうか。
手づくりのカーテン。後納品で、宇宙の教室にもカーテンをプラスされたそう。
中家さん: 「引越し後すぐに、のらっこ先生の夢の1つだった生徒100人を達成しましたが、なんと年度末をまたず150人になったそうです。とても小さな教室なので、定員でお断りせざるおえないこともあるくらい、入塾希望も多いようです。1年経った今でも「毎日こんな可愛い教室で仕事が出来て幸せです」とメッセージをいただきます。夢の実現の1つを僕に託してくれたことが何より嬉しいです。」
【のらっこアセット英会話】
住所 :愛知県春日井市旭町1-6 ままま勝川1階
営業時間:14:00~20:00(平日) 10:00~12:00(土曜日)
http://noracco.com/
https://www.facebook.com/noraccoasset